024.魔法講座と応用
連載当初「100話までにブックマーク30件いったらいいなー」と夢想していたのですが、早くも実現してしまいました! 作者が一番驚いています! これからも頑張ります
「え~? 魔法? お兄さん人間っすよね?」
「ああ」
人間がここ二百年まともに魔法を使えていないのはこの世界の常識だ。お嬢様の方も見るからにいやそうな顔をしている。だが俺には確証があった。リナールさんの風魔法・中はコピーできる。なら、何らかの方法で、少なくとも風魔法は使えるはずなのだ。
「んー……。まあ私の我がまま聞いてもらったからなー。しゃあなしっすよ。四属性一発ずつでいいっすよね?」
「それでいい」
言ってみるもんだ。後ろでは「お嬢様、ご立派になられて……」とメイドさんが涙ぐんでいる。なんかどこかで見た感じだ、従者ってみんなこんななのか。
「じゃあハルにゃんのことはハルギッテ先生と呼ぶっす。メイファは助教授っす!」
「……はい、ハルギッテ先生」
やるからには本気なのか、急にテンションを上げだしたハルギッテ。アホの子のごっこ遊びに付き合わされてる気分だが、教えてもらう分際で四の五の言ってられないな。
「まずは火魔法っす。そうそう、詠唱は補助輪扱いとして使うのがみっともないって派閥と、イメージを強化するのに役立つから使うべきだって派閥があるっすよね。ハルにゃんの場合は単純に詠唱覚えらんないから魔法名だけっす。じゃあいくっすよ」
しれっと情けないことを言い、ハルギッテが目を伏せた。
すると、地面に円が描かれ、幾何学的な魔法陣が浮かび上がり、徐々にその模様は複雑になっていく。
「……ん?」
あるタイミングから、それが模様ではなく「文字」として認識できる。内容はこうだ。
『なんかいい感じの火が、こう、ばーっといい感じで放出してほしいっす。MP消費しすぎると疲れるんでそこはそんながんばらなくていいっす。とにかくいい感じで頼むっす』
魔法陣にすらアホっぽさが出るものなのか。そんなまさか。
俺が唖然としていると、緩やかにその魔法陣は崩壊し、導かれるように右手に掌握された。
「火球の飛礫!」
手のひら大の炎が空へと駆け上り、ゆっくりと火の粉を散らしながら溶けていった。大体20メートルぐらいだっただろうか。
「じゃあ次にー」
「いや、ちょっと待ってくれ」
俺は手を上げ、その動きを制する。不審な顔をするが、問わずにはいられない。
「魔法陣に書かれた文字の意味って……」
「はあ? 魔法陣は魔法陣っすよ? なんかミミズがぎょえーってのたうった感じの奴っすよね? あと丸とか三角とか。あれに意味なんかあるんすか?」
言い切る前にハルギッテが「何言ってんだこいつ」って顔をする。俺はメイファさんの方へ一瞥すると、
「確かに、意味はあるようですが。研究者の間でも頭を抱えているところのはずです。魔法の上手な人ほど精緻に書かれているところ以外、あまり魔法陣が似ていないのですよ」
それなら、あの文章はどこから……。
ふと。いつだったか、思ったことがある。言語・全ならマシン語ももっと簡単に使えたのではなかったのかと。言語であるのなら、全て訳してしまえるのだから。
つまり俺は、魔法陣に描かれた絵や記号の羅列を、ちゃんと文字として認識してしまえるらしい。
言語・全やばい。
それと同時に、あることに思い至る。
「……もう一回、同じようにやってくれるか。今度は魔法陣の状態でホールドして」
「えー。あれだるいっす。疲れるからヤぁっす」
「頼むよ、一万ゴルド支払うから」
「さあ、目ん玉かっぽじってよく見てるっすよ!」
ちょろい。あとお嬢様が目ん玉かっぽじるとかいうな。
意気揚々と同じ魔法陣を描くハルギッテ。俺は暫し考え、おもむろに魔法陣に手を伸ばした。
プログラム操作。
「え、なんすかなんすか?」
ハルギッテが怯えるのも意に介さず、俺はアホな文字列を修正していく。
『直径1メートルの火球を、160km/hで放つ』
プログラムには最低限の情報でいい。俺は操作をし終え、「もういいぞ」と促した。
ハルギッテは何が何だか、と首を捻る。先ほどの焼き直しのように、魔法陣が霧散し、右手に向かった。
「火球の飛礫っ!」
同じなのはそこまでだった。
先ほどのは精々が20センチ程度のゴムボールサイズだったのに対し、今回は直径1メートルである。全然飛礫じゃない。
大きな炎が空を焼きながら高速で昇っていく。雲の一部を削りとったところでようやく見えなくなり、ハルギッテが戦慄いた。
「す……すごいっす! なんすかアレ! 私がやったんすよね! まるで大魔術師みたいっす! 今のって怖い顔の……えーっと、違う、名前なんすか!?」
今更か。怖い顔いうな。
「カズキだ」
「そう、カズキさんがやってくれたんすよね! すごいっす! 名教師っす! 名医っす! 名大臣っす!」
持ち上げようとして意味わからなくなってきてるぞ。
俺の周りをぐるぐる回りながら、やり場のない興奮でぴょんぴょん跳ねるお嬢様。破顔させると、なんだかこちらまで嬉しくなってくる。
「俺は補助をしただけだ。たぶん、お前に魔力の素質とかなかったら不発だったはずだぞ。それだけの力を秘めてるんだ、真面目に魔法勉強しろ」
「私の……力……」
手をゆるやかに開閉し、初めて見るかのように自らの手を覗き込むハルギッテ。一度ぐっ、と握りこむと、魔法陣を描き魔法を放つ。
先ほどよりは小さな、けれど最初よりは確実に大きな炎が宙を舞った。感覚を忘れないようにするためだろう、その後もハルギッテは一生懸命に魔法を放ち続けた。
その結果。
MPが切れてぶっ倒れた。
講師がダウンしたことで突発的講習会はお開きになった。ハルギッテはメイファさんが背負って帰ることにするらしい。
自分の主が目を回しぐったりしているというのに、メイファさんは嬉しそうだった。
「お嬢様は幼少の砌より早くから魔法を使えたのですが、壁にぶつかって以来努力することを怠っていたのです。どうせ自分は初期の魔法しか使えないダメな魔族だと。今回のことで、お嬢様も自分自身に向き合うことができるかと。本当に、ありがとうございました」
メイファさんが頭を下げ、ゆっくりと立ち去っていく。あれほどのやる気を出させた上に金など貰えない、と一万ゴルドは突っぱねられた。
その背を見送り、さて、どうしたものかと右を見る。
ガルドのおっさんは最後までいた。
なんでだ、雷鳴剣の素振りをしたところで帰れよ。
「あー。なんだ。すげえんだな、カズキって。誰も使えない魔法剣振り回すわ、どっかのお嬢様の才能を開花させちまうわ。そもそも、6人相手に大立ち回り、Bランクの俺に策で制したんだ、半端ねぇってことか」
ガルドも何かヤバイ物をみたという認識はあるのか、何かをそらんじるように言葉を連ねる。いや、そりゃヤバイだろう。研究者がこぞって首をひねっている魔法陣の秘密を解き明かし、威力を倍以上底上げしたのだ。
「もちろん、言いふらすつもりはねえよ。カズキはギルドの有望株だしな、安心しな」
景気づけに一度強く背中を叩かれ、ガハハと笑いながらガルドは去って行った。信じてるぞ、ガルド。
最後に残った俺はというと、指に小さな火を灯していた。ついに発動が可能になったプログラム構築で、火魔法を再現したのだ。荷馬車のうえであれだけ頑張っても無理なはずだ。魔法用の言語を知らないのだから。
これで、俺が200年振りに魔法を使った人間、ということになるのだろうか。裏道もいいところだと思うし、結局何故他の人間が魔法を使えないのかについてはわからないままだが。
確かな収穫を感じながら、頭の片隅に引っ掛かりを感じていた。
何か忘れているような。
「結局、魔法一つしか見せてもらえませんでしたね」
あ。
試しに、他の属性の魔法を使おうとプログラムを組む。
しかし、他の四属性に当たる言葉には「キー」が含まれているのか、「水」「風」「土」や、それに類する言葉は創造することができなかった。これはやはり、もう一度会うしかなさそうだ。
俺は、何とも言えない倦怠感に襲われながら、その場を後にした
少しでも気に入ってもらえれば嬉しいです。
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