023.お嬢様とメイドさん
ずかずかと歩み寄ると、おもむろに俺から剣を引き抜こうとする。何なのこの子。
ガルドのおっさんには「お前人の剣盗んだのか?」と目で問いかけてくるし。なんだこの状況。
「いや、これ俺の剣だから、ちゃんと俺が金だしたから」
謂われなき犯罪を否定し、奪われないよう手で制すると、尚も食い下がる女の子。
「それはハルにゃんが目ぇ付けてた雷鳴剣のはずっす! それを使ってメイファに悪戯しようと思ってたのに! なんで買っちゃうっすかそんな剣!」
悪戯目的かよ! 買おうとした剣をそんなの扱いするな。
「お嬢様、そんなつもりでその剣を……」
「げぇっ! メイファ!」
「それは私の役目です!」
千影座れ。
メイファと呼ばれた女性は、いわゆるメイド服を着ていた。二十代中ごろ、美しさと妖艶さを兼ねた美人。二人の言動から察するに主従関係だろう。こちらも頭に角が生えている。
「旅の資金は元より決まっている筈です。無駄なことに使う金などないとあれほど言っておいたでしょう」
「だからって一万ゴルドと最低限の装備ってどういうことっすか! おかしとジュースで豪遊してたらなくなっちゃうじゃないっすか!」
「それは豪遊しなければいいのです。そもそも1万ゴルドあれば一か月は生活できる計算だったのですよ。野宿ですが」
「うら若き乙女が野宿とかいやっす! 毎日お風呂にも入りたいし湯上りにボディーケアもしたいっす!」
「わがままを言わないでください。そもそもお嬢様、その口調、それにハルにゃんなどどいう一人称はおやめくださいとあれほど」
「今はそんな話をしているんじゃないっす!」
なんだろう、典型的なわがままお嬢様と苦労症使用人の一幕みたいなものを見させられているんだが。
「あー、もういいよな? 俺が買ったんだし、武器との縁は一期一会、あんたにもいい巡り合わせがあるって」
「待つっす」
いい加減めんどくさくなってきた俺が退散しようとすると、お嬢様に袖口を掴まれる。
「あの剣、まともに振るのは絶対無理って言われてた剣っす。あまりにも通電率が良すぎて、振る直前に魔力を流すぐらいでようやく魔獣一体倒せるぐらいだって。そんなの、敵が複数いたらどうやっても無理っす。
私みたいに面白グッズとして誰かに握らせるか、川や海とかで一人犠牲にして漁するのが関の山っす。まあ漁ならもっと効率良いやり方あるんで、やっぱりタダのネタ装備っす。なんでそんな剣わざわざ15万ゴルドも出して買ったんすか」
「いや、なんでかって言われると……」
それは俺のスキルでまともな武器に改良したからだが。これを説明すると長そうだし、わざわざ教える義理もない。俺が答えを渋ると、むずがゆそうにして、お嬢様が更に押してくる。
「じゃあ一回だけ! 一回だけ振って見せて欲しいっす! それで諦めるっすから!」
えー。
今は魔法関係のステータスが総じて死んでいるが、数値操作の使用からもうそろそろ30分経つし、そこは大丈夫だと思う。でもこういう輩って一度了承するともっともっとと強請ってきそうなんだよなあ。
「私からもお願い致します。お嬢様は一度言い出すと聞きませんので。見せて頂ければ、今度こそ諦めさせますから」
メイドさんの方まで頭を下げる。ずるいぞ、苦労人に頭を下げられるとうんと頷かなければならなくなる。苦労人の苦労は苦労人が知る、だ。
「……仕方ない。一度だけだぞ?」
俺はため息をつきながら、念入りに二人の顔を見る。
「よく見るとこの人顔めっちゃ怖いっす!」
やっぱやめよっかな。
☆
訓練場に再度戻り、俺と千影、お嬢様とメイドさん、あとガルドのおっさんも何故かついてきた。
「俺もよ、あの剣には目を付けてたんだ。しかしその為に雷耐性の装備集めてたら本末転倒だろ? 雷の力を放出する部分を直接掴んでるわけだ、安物なら一日と持たずぶっ壊れちまう。結局普通の雷剣買った方が安くなるわけだ。
そんで、なんとか裏口ないかと色々な伝手を探してたんだが、その最中にだ。そいつを背負ったお前さんが来て、ギルドにどっさりバガントやツノウサギを出していくじゃねえか。何をどうしたのか気になって試験官を買って出たってのもあるわけよ」
なるほどね。
俺は数値操作でMP、知力、魔力を最低限底上げし、雷鳴剣を握る。
瞬間、刀身が発行し、小さなスパークが巻き起こった。
俺が中空を薙ぐと、通常の風切り音よりも鈍い音が響き、剣圧だけで砂塵が巻き起こる。
「あー、やっぱり感電しないっすね。つまんないっす」
お前そっちを望んでたのか。
「やっぱ魔法剣ってのは浪漫があるよな。金がありゃ俺もなー」
おっさんの方は良い物みた、って感じで、酒をやめるのも辛いしなー、と呟いていた。
「でも、城でみた他の魔法剣とかより威力が弱い感じがするっす。なんでっすか? あの武器が弱いんすか?」
「それは魔力の違いでしょう。魔法剣の使い手はMPで持続力を、魔力でその力を発揮しますから。むしろ伝導率でいえば十分すぎるように思えますよ」
お嬢様の疑問にメイドさんが答える。あー、魔力ってちゃんと必要なんだな、やっぱ。
「魔力と知力の違いってなんすか?」
続くお嬢様の疑問に、メイドさんは頭を抱えた。俺もそこ疑問に思ってたから教えてくれると嬉しい。
「もうだいぶ前にお教えしたと思いますが……。魔力はその威力を、知力はその精密さを表しているわけです。これらは籠に入ったボールに表されますね。籠の大きさはボールが入る量、これがMPです。ボールを投げるとき、どれだけ狙い通りの方向に行くかが知力、どれだけ強いボールを投げられるかが魔力にあたります。
つまり、籠の容量が大きく、ボールの威力が強く精密なのが、良い魔法使いなのです。ボールの数が少なければそう何度も使うことができませんし、精密さがなければ相手に当てることができません。また威力がなくても同じです。カタツムリの攻撃にわざわざ当たってあげる魔獣はいません」
「なるほどっすねー。わかりやすいっす」
「わかり易いなら一度で覚えてください、お嬢様……」
メイドさんというのも中々大変そうである。
今の説明で言うと、俺の魔法剣の場合なら魔力が向かう先がそのまま繋がっているから、精密性=知力はいらないんだな。その分をMPに回して持続力を上げるなり、魔力に回して威力をあげるなりは俺次第と。良い情報を聞けた。
「じゃあそんなつまんない剣はいいっす。怖い顔の人にあげるっす」
「まあ待ちなって」
肩を落として回れ右するお嬢様に、今度は俺の方が手を取った。
「お嬢様に無礼な!」
「ご主人様に何を!」
刹那、俺の真後ろで剣戟が起こる。見ればメイドさんと千影がナイフと影でつばぜり合いをしていた。
おっと、すまん。俺は慌ててお嬢様の手を離した。
「悪気はないんだ。ちょっと教えてほしいことがあってさ」
「教えて欲しいこと? 何っすか?」
お嬢様は振り返り、その顔に疑問符を散らした。
「魔法ってのを見せてもらいたいんだ」
少しでも気に入ってもらえれば嬉しいです。
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