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影女といく異世界紀行  作者: ケイン島谷
デイジア王国編
22/34

021.Dランクへの試験

 腰が痛い。

 そうか、アレをすると腰にくるというのは本当だったのだな、としょうもない知識を増やした。スタミナポーションには、まだ頼らない。

 昨日、知らなかったとはいえ千影が無双したおかげでまた一つレベルが上がっていた。本当にヒモになりかねない上に、千影なら喜んでもてなしそうで怖い。そうならないためにも、俺は今日もえっちらおっちらギルドに向かう。

 ギルドの受付嬢は俺たちの顔を見るとすまなそうに頭を下げた。


「Dランクへの試験の件なのですが、担当教官以外の者が自分に試させろと……」

「……それは」


 どうなんだろう。ちゃんとした人格者であれば、誰でもいいが。どうにも、酒の代金をせびられた二人のことが頭をよぎる。冒険者ギルドの全員が全員、ああいう人間ではないとも思うが。


「お、来たな。期待のホープが」


 返事に窮していると、長身で隻眼の男が併設された酒場からやってきた。朝っぱらからエールをやっていたのか、少し顔が紅潮している。


「彼が?」

「ええ。ちょっとガルドさん。試験をするなら酒は控えるように言ったはずですよ。誤ってやり過ぎた、なんて困るんですから」

「そう固いこと言うなって。こんなの飲んだうちに入らねえよ」


 ガルドと呼ばれた男はそうへらへらと笑い、持参していた酒を呷り、酒臭いゲップを放った。


「担当教官のかたに、お願いできますか」


 千影が笑顔で割って入り、間髪入れず破砕音が響いた。どれほどの早業なのか、男の酒瓶は持ち手から下が切り落とされている。床には酒と瓶の破片が飛び散り、突然のことに受付嬢は目を白黒させていたが、慌てて箒と塵取りと雑巾を取りに走った。たっぷり経ってから首から下を失った瓶を投げ捨て、ガルドが凄む。


「おいおい、奴隷の嬢ちゃんが決めるこっちゃねえだろ」

「いえ、私はご主人様の奴隷であると同時にママですので」

「は? ママだぁ?」


 千影の方も譲るつもりがないらしい。笑顔のまま対応しているが、その背後には炎のエフェクトを幻視する。


「千影、ややこしくなるから戻っておいで」

「しかしご主人様、このモブが」


 ぐずる千影をあやし、俺が正対する。


「何故俺の試験を?」

「ああ? まあそりゃ、ケジメだわな。うちのクラン、『黄昏旅団』のメンバーがやられたとあっちゃな」

「何でも望みの叶う鍵を探すチームみたいな名前ですね」

「あ?」

「いえ、なんでも」


 千影の病気が再発した。


「ベノムたちのことか? それは……」

「わかっている。あいつらが難癖付けたんだろ? それについちゃ悪いと思ってるよ。

 だが、あれも新人の洗礼みたいなもんだ。適当なところで落とし前を付けて戻ってくるだろうと酒かっくらってたら、あいつら全員のされちまったって話じゃねぇか。そんで、お前に興味がわいた。

 断っておくが、私怨なんかじゃねえ。

 ギルドに入ってきたときは、またえらく目の荒んだガキがきたもんだと思いはしたが、ベノムを投げたあとの威圧感。それに、武器を持った六人相手に戦いを選択する度量。いや、これについちゃあ、一歩間違えれば馬鹿ともいえるが。臆面もなく逃げるなり、金を撒けばその場は治まるからな。

 しかしお前はそうしなかった。何故か? 金を失うことで、もっと大事なものを失うことを知っているからだ。だが……」


 ガルドが背負っていた馬鹿でかい剣を抜き、ゆっくりと俺にその刃を向けた。


「長生きするためには臆病者になった方が良い時もある。それを教えてやろう」

「…………、わかった」


 ここまで啖呵を切ったガルドの誘いを断ればどんな表情をするのだろうか、と刹那よぎった。だが、さすがにそこまで空気をよめないわけじゃない。俺は了承し、その後の説明を受けギルド裏手にある訓練場へと足を運んだ。銘銘が剣を振り、槍を払い、斧を薙いでいる。

 俺は訓練用の刃引きされた剣を軽く振りながら提案する。


「しばらく、剣を振らせてもらっていいか。自分の剣以外を振ったことはないんだ。いざという時失敗したくない」

「いいだろう。20分練習して、5分休憩。その後試験だ」


 20分でどうなるというものでもないが、俺は確かめるように剣を振るう。剣術・強は初めての剣でも吸い付くように流麗な動きを見せた。

 休憩時間も終え、俺は剣を握りながらガルドを睨む。ガルドの方も同じく、刃を潰した大剣を、まるで重さを感じないように片手で掴んでいた。


 ガルド:Lv.24

 年齢:32歳

 職業:狂戦士

 装備:訓練用の大剣 堅青蜥蜴の革鎧 黒大蜂の手甲 嘆熊の靴 生命のピアス

 HP:128 MP:14 腕力:142 体力:134 知力:19 魔力:15 敏捷:94 器用:51

 スキル:怪腕 筋力上昇・中 剣術・中 精神耐性 威圧 スーパーアーマー オーバードーズ


 流石に、スペックが違いすぎるな。救いは、レベルの割にスキルが少ないことか。狂戦士にオーバードーズなんてやばそうな言葉が並んでいるが。

 当然だが、スキルをカットはしない。これは試験だ。ガルドも、ギルド立ち合い且つ衆人環視のもとでやりすぎるということはないだろう。

 俺はというと、こんな感じだ。


 カズキ:Lv.7

 職業:プログラマー・召喚術師

 装備:訓練用の剣 バガントの手甲 バガントの革鎧 バガントの足甲

 HP:30 MP:1 腕力:152 体力:30 知力:1 魔力:1 敏捷:1 器用:1

 スキル:解析眼 数値操作・弱 睡眠耐性・強 精神耐性・EX 召喚術 言語・全 プログラム構築 プログラム操作 威圧 黒炎 天眼 気配察知 剣術・強 一刀両ら断 筋力上昇・中 短剣術・弱 身躱しのステップ 逃走術 斧術・弱 弱肉強食 刺突術 ヒット&アウェイ 盾術 棒術・弱 乾坤一擲 大車輪


 スキルは対照的に多いが、腕力に寄せ集めたため、他が酷い。今回は魔法関係以外に敏捷も器用もうっちゃっている。試合場という限られた場所だからこそできる捨て身の策だ。やる以上は当然勝ちたい。

 開始距離は八メートルといったところ。お互いに数歩進めばすぐに食いつぶしてしまえる距離だ。遠く離れて黒炎をぶち当てる作戦は無理かな。そもそも、あれを人にぶつけようなんて大惨事もいいところだが。


「最初に言っておく。俺はBランクだ。負けても恥じゃない。全力で掛かってきな」


 自然体になり、ゆらりゆらりと体を揺するガルド。職業は穏やかじゃないが、試験ということもありまずは様子見のようだ。

 俺は身躱しのステップを踏む。たたん、たたん、と乾いた土の音が場内に響く。知らぬ間に練習している人間はおらず、皆俺とガルドの試験に注目しているようだ。


「なら、お言葉に甘えよう」


 俺は駆け、足跡が残るほど強く踏み込み大きく横に薙いだ。筋力上昇・中に一刀両断と大車輪を載せた斬撃。ガルドがそれを少し顔をしかめながらも受け止めた。


「良いバネと筋肉じゃねえか。その体のどこにこれだけの力が秘められてたんだ? これでもう少し速けりゃ、俺の防御も貫けたかもしれねえな」


 言いながら、押しのけるようにガルドが払う。その力に逆らわず、俺は再び剣戟を見舞った。


「最初のでノせれば良かったんだがな」

「抜かせ。まだまだ脇があめぇんだよ」


 もう大車輪は使えない。これだけの相手だ、一歩分離れればそれだけで攻撃を対処してしまうだろう。やるなら超接近戦しかない。

 剣術・強と小刻みなステップのおかげでなんとかいなし、躱せている。相手も同じく剣術・強であれば抜かれていただろう。

 俺は刃以上に大きく見える大剣に翻弄されている。この巨大な剣に刃を潰していることなどさほど変わりない。一撃一撃が必殺の火力だ、まともに受ければ剣は折れ、そのまま負けてしまうだろう。


「どうしたどうした、最初の一撃以外大したことねえな」


 ガルドは口元に笑みを浮かべ、時に払い、時に突き、時に唐竹割りを見舞う。俺も応戦してはいるが、実戦経験の差が出ている。技は鋭いが、踏み込みがもう一歩浅い。理解はしているが、相手の足運びも上手いのだ。剣術・強だけでは追いつかない。カットの誘惑に駆られるが、それを振り切る。自分に課した戒めを自分で外すわけにはいかない。

 ああ、スキルだけではやはりダメだ。これからは修練場にも時々通わせてもらおう。


 だが、それは次からは、だ!


 先ほどの数値操作から(、、、、、、、、、、)30分経ち(、、、、、)、俺は二度目の数値操作を行う。

 力に振っていた数値を、敏捷に。数値にして実に65ポイント分である。

 ガルドがそれに気づく前に、その横薙ぎを眼帯している側へダッキングして躱す。

 突如俺の速さが格段に上がり、対応しようとするガルド。だが、俺は躱した勢いのまま、眼帯側からガルドの背後を取り、後ろからまっすぐガルドの首に剣を当てる。寸止めの突きに力は要らない。素早さが上がり、最小限の動きで相手を圧する刺突術・弱がはまり、ガルドは余裕の笑みのまま固まってしまう。


「……参った」


 ガルドは小さくこぼし、大剣をゆっくりと下ろした。

 俺の大番狂わせに、ギルドはどよめき、千影は当然です、といった顔でうんうん頷いていた。

少しでも気に入ってもらえれば嬉しいです。


感想・レビュー・ブクマ・ポイントは作者のやる気に直結します。よろしくお願いします。

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