019.プログラム操作無双と新たな武器
翌日のことである。
オーク肉の生姜焼き定食を注文しながら、俺は自分のスキル欄を眺めていた。
「なんか光ってる……」
昨日奪ったスキルが明滅を繰り返していた。具体的には、剣術・弱と筋力上昇・弱だ。どちらも複数持っている。
プログラム操作が反応している。行使する感覚を強く持つと、剣術・弱が合わさり剣術・中になった。同様に筋力上昇も中になる。剣術・中ができたことで、同じく奪っていたもう一つの剣術・中が新たに光りだす。問題なく合わさり、剣術・強になる。
「は、ははは……」
乾いた笑いしか出てこない。
まともに剣というものを振ったことのない俺が、おそらく数年、もしくは数十年かけて到達するだろう剣術・強のスキルを持っている。なんだこれ。
「お待ちどおさま。オーク肉の生姜焼き定食に、日替わり定食。あれ? なんかご機嫌だね」
リナールさんが皿を配膳していると、気づいたように話かけてくる。
「ええ、まあ」
「目に険が取れて、一皮剥けたって感じがする。二つの意味で」
無難に返事をすると、朝っぱらからぶっこんできた。おっさんか。
「わかりますか! ついにご主人様が私を抱いてくださったんですよ! 三年待った甲斐がありました!」
千影、そこに反応するな。他の食事客たちが噴き出しているだろ。
その後千影とリナールさんの恋バナが始まったので俺は居たたまれない思いをしながら肉を食った。オーク肉は臭みもほぼ感じないし、生姜とよく絡む。セットでついてくるパンも肉汁のしみ込んだソースを付けると抜群に美味い。キャベツと人参と卵を入れたスープも、単品でもパンに付けても最高だ。
「私はとにかくエルフの里から出たくて、修行一辺倒だったなー。弱いと狙われちゃうから」
「今はどうなんですか、好きな人とか」
「まだそれもねー。ほら、私一応ここではアイドルだからさ、特定の人作っちゃったらダメじゃない? そこはプロ意識よね。仕事も楽しいし、あと25年ぐらいはいいかなって」
還暦じゃねぇか。
やはりエルフは寿命が長いらしい。平均寿命がどのくらいかはわからないが、60歳までは彼氏いなくてもいいとか、人間とは価値観がだいぶ違いそうだ。
しかし、そうか。だからリナールさんはあんなに強かったんだな。田舎から上京するために修行するってのがいかにも『らしいな』と思う。
その後もしばらくリナールさんは千影とおしゃべりしていたが、宿屋の主人に睨まれて仕事に戻った。俺たちも食事を終え、追加で二日分宿代を払ってギルドへと向かう。
ギルドは、昨日と同じような視線を向けられたが、ちょっと違った。強者を測るような目が増えている。昨日のゴタゴタは既に噂になっているようだ。街中で暴れたんだしそりゃそうか。
俺に気づくと、職員の一人が声を掛けてくる。
「Fランクのカズキさんですね?」
「そうです。ギルドカードの件はどうなりましたか?」
昨日の話では、間違いなくランクアップ、もしかすれば二ランクアップも、とのことだった。
「それがですね……。カズキさんは、クエストの経験がない、とのことで。能力はあっても実績がないのでは、ランクアップはいかがなものか、というのが上の判断でして」
「なるほど」
そりゃそうか。やろうと思えば、金を払って傭兵を雇い、寄生してのランクアップも可能だろう。ギルドカードは大陸中ならどこでも有効だと言っていたし、高ランクともなれば恋愛等にも有利に働く。金をもった貴族がBランク冒険者でもある、なんて触れこめばわんさか寄ってきそうだ。勿論、それだけの技量があるかはテストされるだろうが。
「じゃあ、ランクアップはなしということですか?」
俺にとってはランクなんてどうでもいい。もう千影がいるし、貴族に召し上げられることも興味はない。
「いえ。何でも良いので三つのクエストと、ギルド教官による試験で、EランクかDランクに分けるそうです。試験そのものを拒否すればEですが、例え負けても善戦していればDも検討するそうです」
「ふーん」
棄権しようかな。いや、それで舐められるのもなー。
とりあえず了承し、俺はクエストボードを眺めた。クエストは自分のランクのもう一個上まで受けられる。
常駐クエストの薬草摘み、森へバガント討伐、街道に出るらしいオーク退治、鉱石の採取、薬餌キノコの採取、ロックリザードの肝臓納品、湖で巨大な魚影目撃の調査、麻痺草と毒草と眠り草の三種納品、ツノウサギの毛皮納品、などなど。
俺は薬餌キノコの採取と三種の草の納品、ついでにバガント討伐も剥がしてクエストカウンターへ向かう。狩猟・討伐クエストは一つ、納品クエストは3つまでなら同時に受注可能だ。
「これをお願いします」
「はい、受け付けました。受注に30ゴルド必要になります」
俺は銅貨三枚支払った。受注時に支払った金はクエスト成功時に二倍になって返ってくる。勿論失敗すれば返ってこない。そこにクエスト報酬が支払われ、冒険者は生計を立てている。
「バガントについては大丈夫ですね。これが、それぞれ麻痺草、毒草、眠り草の写し絵になります。見間違いのないようにお願いします。薬餌キノコはこのナメロウタケですね、よく似たキノコにナメロウテングタケというものがあります。生える場所、色や姿かたちがよく似ていますが、ナメロウタケの傘は楕円系で、テングタケの方はまんまるです。
あと、常駐クエストの薬草は、このページにあるだけです。十本単位で買い取るので、見かけたら同時に採取することをお勧めします」
「わかりました」
俺は千影によく見ておくよう指示する。俺の解析眼があれば間違えることはないし、千影も模倣スキルで形を覚えるのは得意だ。
クエストを受注し終えた俺たちは、次に武器屋へと向かう。ギルド公認らしいので、ぼったくられることはあまりないだろう。
「らっしゃい。何をお探しで」
「剣を見せてもらえますか。予算は十五万で」
せっかく剣術・大が転がり込んできたのだ。それを活かさない理由はない。
「お客さんだと、この辺かな」
言って店主の親父は剣を五本だしてきた。
長さの違うグラディウス二本に、同じく長さの違うレイピア二本、ショーテル一本。
店主に断りを入れ、一本一本振らせてもらう。
この中だと二番目に振ったグラディウス型が一番しっくりくるが。心のどこかで「何かが違う」と囁いている気がする。
「他にはないのか?」
「んー、あるにはあるんだが……」
どうにも歯切れが悪い。
「予算ならもう少し出せるが」
「いや、金の問題じゃないんだ、そう怖い顔すんな。ちょいと待ちな」
この顔は元からだ。
俺がもう一歩踏み込んで聞くと、店主が店の奥から細長い木の箱を持ってくる。開けると、美しい剣が一振り眠っていた。
雷鳴剣 攻撃力23 属性:雷
「これは?」
「いわゆる魔法剣って奴でな、雷の力を封じ込めた剣なんだが。これに魔力を流すとな」
「流すと?」
というか人間って魔力流せるのか。ああ、発動はできないだけで魔力やMPの項目はあったもんな。
「感電するんだ」
…………は?
いかにも訳ありそうな顔をするものだから構えたのに、その内容に脱力する。俺のどきどきを返してくれ。
聞けば、刀身だけに雷の力を与えるつもりだったのだが、柄の部分まで電気が流れてしまう機構になってしまったらしい。グリップや腕に何かを巻いて電気を遮断しようとすると、今度は魔力が剣に十分伝わらなくなり、威力が半減するんだ、と。
「魔法剣としちゃ破格の十五万で売り出しちゃいるが、まともに振れなきゃただの剣だ。普通の剣として使うなら、他によっぽど切れ味の良い奴があるしな。そのうちお貴族様が道楽で買ってくれないかと思ってるぐらいの、使えない剣だよ」
確かに、先ほど見た剣は全て攻撃力が50を越えていた。
うーん、魔法剣か。
いいな、心惹かれるものがある。
しかし、振れないのなら意味がない。俺は眺めていた雷鳴剣を木箱に戻そうとする。
不意に、スキルがざわめいた。
プログラム操作。
「……おいおい、まさか」
俺は刀身をじっと見つめる。解析眼越しに、血管のような筋がいくつも伸び、剣の全てを埋め尽くしていた。よくよく見ると、動脈と静脈のように二つに分かれ、片方は魔力を運び、もう片方がそれを発動させる役割を帯びているのがわかった。俺は柄の部分で発動するものだけを排除していく。数分後、発動の線がブレード部分だけに集中すると、店主に離れるように言う。
「おいおい、やめとけって。三日は痺れて動けなくなるぞ」
店主の静止も聞かず、俺はグリップを掴んだ。理屈としてでなく、わかる。新たに四肢が延びたような感覚。初めてでも、魔力の流しかたがわかる。
瞬間、刀身が閃き目を焼く。感電はしないが、空気越しにも放電の力強さを感じた。俺は視線を反らしながらも、高鳴る鼓動と感動に打ちふるえる。
「……店主。この剣、頂こうか」
「お、おう」
こうして俺は、新たな武器を手に入れた。
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