015.ドーレルの町
検問もつつがなく終わり、町へ入る。ギルドカードを見せれば町への入場料を払わなくていいのは嬉しい誤算だった。よくよく考えれば、冒険者はダンジョンなりフィールドなり、いずれにせよ外で働く人間ばかりだ。一回一回入場料を払ってたらいつまで経っても金は貯まらないだろう、特に初心者なら。
正門からは目抜き通りがまっすぐ伸び、たくさんの出店が並んでいた。美味そうな串焼きに甘い香りを放つパン、色とりどりの小さな貝を結んだネックレスに、不思議な形の焼き物まで。
「まるで祭りだな」
「いやいや、この町ではこれが普通なのさ」
商人さんがどこか誇らしげに言う。
活気のある良い町だ。
「それじゃ、お二人さん。良い旅を。俺はこの町の南、商業区で魔道具を扱っている。要り様になれば融通するぜ、ボードマン商会をよろしく」
ボードマン氏は朗らかに笑いながら去っていった。
「とりあえず、今日の宿を探そうか」
陽が沈むまで町の散策をし、さて宿屋を探すかというタイミングで空室なしなんて目もあてられない。いざとなれば千影の影に入れば済むとはいえ、それはたぶん旅路の途中でも使うことになるだろう。町にいるなら、その町の宿に泊まりたいものだ。
何人かに目があっただけでおびえられながらも、なんとかこの町で安価、かつ質もそこそこだという宿を教わった。
そういえば、これでも前世ほど顔で逃げられるということがないことに気づいた。年齢が下がり、外見が幼くなったせいもあるのだろうが、治安が悪いことなども関係しそうだ。俺はあくまで顔が多少怖いぐらいだが、誓って法に触れるようなことはしたことがない。
……いや、子どもの頃に立ち小便とかピンポンダッシュとかはあったかもしれないが。
実刑になるような犯罪はしていない、うん。
だが、この世界では犯罪スレスレどころか普通に犯罪が横行しているらしい。そもそも半年に一度は国のどっかで盗賊狩りが行われてるってどういうことだろう。「町での人殺しは滅多にないから大丈夫」じゃないんだが。滅多にってことは稀にあるってことだな?
日本じゃ罪になる決闘罪もこちらでは現役でやってるらしい。
白手袋を投げるところは少し見たい。
その対象が自分でないのなら。
話が逸れたが、犯罪者が身近に……は言い過ぎか。そこまで珍しいわけではないのなら、実際に殴る蹴るなどおよそしたことのない俺には、そういった凄みのようなものが欠けているようだ。
今後、そういった部分でも染まっていくのかもしれないが。
「っと、ここか」
教わった宿の前にたどり着いた。
風の便り亭。
木造の、温かい雰囲気のする建物。看板にはINNの文字と、女性の絵姿が飾り彫りされている。大きめに作られた扉を開くと、反応して店員が振り向いた。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか、お食事だけですか?」
「宿泊で……」
うおっ!?
整った容姿も然ることながら、その特徴的な細長く伸びた耳!
「エルフ?」
「ああ、はい。エルフは初めて見ましたか? リナールと申します。私目当てにいっぱいお金落としてくださいね、なんちゃって」
慣れているのか、リナールちゃんは見事な営業スマイルを放つ。千影がいなければ熱心なファンになっていたかもしれない。エルフは長命がセオリーだ、さぞ応援しがいがあっただろう。
「宿泊なら一人大銅貨3枚、食事は大体銅貨5枚ですね。ご宿泊されている方は2割値引きさせて頂きますので是非ご利用ください。あとこの宿は個室のみですがよろしいでしょうか?」
何人も押し込んだタコ部屋のような形態も宿によってはあるのだろう。元より個室のつもりだったので首肯し、銀貨を払った。
「ではこちらの鍵を。お食事は1の鐘から6の鐘までですのでお忘れなく。ごゆっくり」
エルフがお釣りの大銅貨四枚を払い、丁寧に頭を下げた。1の鐘は大体6時頃、6の鐘は21時頃に、その数だけ鐘を打って伝えられる。3時間ごとに鳴らされ、時計のないこの世界での目安になっていた。
とりあえず、荷物らしい荷物もないので次の目的地へ向かう。
冒険者ギルドで金を作るのだ。
「リナールちゃん、冒険者ギルドってどこにあるのかな?」
「ギルドでしたらここを出てまっすぐ右、中央の噴水広場を左に抜けたら見えてきますよ」
嫌な顔せず、指をさしながら教えてくれるリナールちゃん。
うん、かわいい。
なんとなく解析眼を使ってみる。
リナール:Lv.20
年齢:35歳
種族:エルフ
職業:宿屋の店員
装備:布の服 短剣 草薙ぎの鞭 風のピアス
HP:53 MP:114 腕力:45 体力:50 知力:119 魔力:125 敏捷:84 器用:91
スキル:風魔法・中 算術 鞭術・中 エルフの守り
「……ありがとうございます、リナールさん」
「えっ、なんでさん呼びになったんですか!?」
それはあなたが前世の俺より年上だからです。
レベルも上だし。鞭術怖いし。
俺は頭を下げ、宿屋を後にした。
「スキル欄、エルフの守り以外は白く見えたな」
ということは、全部使えるようになるのか。算術や鞭術だけじゃなく、風魔法も。
カットはもちろん、コピーだってするつもりはないが。
本人の努力の結果がスキルだ。それを踏みにじるようなことはできるだけしたくない。
もちろん、災害などでどうしても必要なら遠慮なくコピーさせてもらうし、悪人ならカットも辞さないが。
それにしても、町に来た時も思ったが、やはり千影は浮いているらしい。ひそひそと話す声や、下世話に笑う男たちの姿が目について仕方がない。
超かわいい美少女が隷属の首輪をつけ、尚且つ華美過ぎないとはいえ、貴族のようなドレスを纏っているのだ。そりゃ目立ちもするだろう。人さらいに遭わないか心配である。千影の心配をするべきか人さらいの心配をするべきか迷うところではあるが。
いや、本当にしたら容赦なく殴るしスキルも奪うし官憲にもつき出すけどね。
「なあ、もう首輪をどうにかしろとは言わないが、せめてそのドレスは……」
「ご主人様はこの服、おいやですか?」
嫌ではないが。
むしろこれ以上ないほど千影に似合っていて眼福ではあるが。
「TPOが……いや、もっと色んな姿の千影が見たい。森でやってたみたいに、服装も自由に変えられるんだろう?」
千影は悩んでいたようだが、得心したように頷いた。
「……そうですね。同じ服ばかりで飽きられでもしたら大変ですし。ではご主人様、こちらへ」
千影は俺の手をとり、路地へと曲がる。
振り返ると、目を閉じ、祈るように指を絡めた。
「主よ、種も仕掛けもないことをお許しください……」
瞬く間に白いブラウスに紺色のケープを羽織り、クリーム色のロングスカートといういで立ちになった千影。うん、こういうのもかわいい。
ところで、ちょいちょいネタを挟んではいないだろうか。俺はあまり詳しくないが、たぶん何かのパロディの台詞だったのではないか? 以前もこんな気分になった気がする。なんだっけ。
ああ、くっころか。
「千影はそういうセリフをどこで仕入れるんだ?」
「ご主人様が仕事でいないとき、パソコンで」
情報化社会の闇をみた。
「影女ですので」
これ以上ない笑顔で千影は言う。
そこは影女関係なくない?
他人のパソコンを見るのはダメ。ゼッタイ。
「ご主人様の性癖に合った容姿だと思ったのですが」
千影が頬に手を当て困ったようにいう。だからそんな俺にずっぽし嵌まってたんだね! 確かにこれ以上ないほど心臓を射抜かれましたよ!
俺は少しやけくそ気味に冒険者ギルドへと向かった。
少しでも気に入ってもらえれば嬉しいです。
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