014.迷いと新たなスキル
「うーん」
考えていることがある。
召喚術師として、千影が強いのは純粋に心強い。
従者の力は主人の力だ。
例えば、俺が狼を使役していたとしよう。こいつが俺の手を借りずに羊を殺したとしても、今のように悩みはしなかっただろう。主従関係から先には進まないからだ。
でも千影は違う。千影は従者であると同時に俺の好きな人だ。
その好きな人を前に立たせ、俺は何もできないのかと思うと、歯がゆい。
感覚的にはわかる。
仮に千影が死んでも、召喚術で呼び戻せば復活する。本体というか、また別の彼女が前世の世界に残っているからだ。こっちの世界から一度はじき出されてしまう、という表現が近いだろうか。
それをわかっていても、使い潰せるかというと……。
千影も、自分のことでこうやって悩まれるのは不本意だろう。
しばらく迷ったが、千影に打ち明けてみることにした。
「使い潰せばいいじゃないですか」
いかにもあっけらかんという。
「いや、しかし」
「私の命はどうとでもなります。ですがご主人様が死ねばそれで終わりです。恥辱にまみれても、生きていればまた再開できるのです。ならば、私がご主人様の期待を胸に巨悪と戦うとき、お傍にいなくてもいいのです。後でがんばったね、お疲れ様と撫でて下されば、それで」
「…………」
「何度でもいいます。私は、ご主人様さえいればいいのです。あの村に住み、三畳一間の小さな下宿で一生暮らしても構いません。私の世界はご主人様が中心ですので、そこさえブレなければいいのです。でも、ご主人様は旅立つことを選ばれました。なら私は、私の力をもって、全力でサポートさせてもらうだけなのです」
「……どうして」
どうして、そこまで想ってくれているのだろう。
影女だから?
そこで思考放棄するのは、あまりにも彼女に失礼だ。
「私が、私の方が、先にご主人様に救われたので。知っていますか? 私の体、今まで殿方は誰も必要とはしなかったんですよ。女としての魅力がないんですね、私」
……それは。
影女は普通の人間には見えないから。
「それでも、わからないものをわからないまま使おうとした人は多くいました。数えるのもいやになるほど。思えば、少し男性不信にもなっていたのではないでしょうか。おかしいですよね、男に尽くす影女が、男性不信に陥るなんて」
自嘲気味に話す千影。
彼女がどれほどの絶望にいたのか、俺にはわからない。
ただ、気の遠くなるほどの年月が、彼女を少しづつ蝕んでいたことだけは確かだ。
「そんな、行き遅れメンヘル処女の私に目を付けられたんです。ご主人様は気にせず、『おい、ちょっと分裂して弾避けになれよ』と使い捨てる感覚でいるぐらいが丁度いいのですよ」
「いやいやいや」
あまりにもあんまりである。千影は楽しそうに笑う。
「それに、ご主人様は心配しすぎです。私なら、あのボラギノックスですら止めて見せますよ? そしてかっこよく言うのです」
千影は一度溜め、キメ顔をつくった。
「ご主人様、奴を足止めするのはいいのですが……別に倒してしまっても、構わないのでしょう?」
「……くっくっく」
完敗である。
「やめてやれ、あいつは益竜らしいからな」
千影なら、本当にしでかしそうだ。
「ご主人様のご命令とあらば。奴も今頃、ご主人様の深き博愛の心に胸打たれ、滂沱の涙にくれていることでしょう」
千影は無限に持ち上げてくる。
なら俺は、それに応えなければならないのだろう。
それが悲痛な選択であったとしても。
それが千影の、主としての責任だ。
二人してしばし笑い合った。
俺は何気なく自分のステータスを確認する。
青山和樹:Lv.6
職業:プログラマー・召喚術師
装備:布の服 包丁 バガントの手甲
HP:30→35 MP:1→9 腕力:30→34 体力:45→50 知力:1→9 魔力:1→10 敏捷:25→29 器用:6→11
スキル:解析眼 数値操作・弱 睡眠耐性・強 精神耐性・EX 召喚術 言語・全 プログラム構築 プログラム操作
召喚獣:千影
どうやら、エビルジャガーを倒した事でレベルが上がっていたようだ。
強かったしな、あいつ。
俺は何も出来ていなかったが。
「ん?」
新しくスキルが増えている。
プログラム構築とプログラム操作。
職業、プログラマーのスキルだろう。
数値操作・弱のときも、よくわからなかったが。これもいまいちわからないな。
スキルを使う感覚で自分の体やステータスを見るが、どちらにも反応しない。
自分に使うものじゃない?
千影に視線を投げると、プログラム操作が反応した。
スキル:影収納 影撃ち 影分身 分裂 模倣 家事・EX
影収納、影撃ち、影分身、分裂、模倣が灰色に表示され、唯一家事・EXには変化がない。と同時に、なんとなく使い方を理解する。
俺は、家事・EXを「カット」した。
千影のスキル欄から家事・EXが抜ける。
カットできるということは。
俺は自分のスキル欄に「ペースト」を念じると、まさしくスキル欄に家事・EXが表示された。
待てよ? カットもペーストもできるなら。
俺は自分のスキル欄から家事・EXを「コピー」して、改めて千影のスキル欄に貼り付けると、元通りになった。
灰色に表示された他のスキルは選べないようだ。俺に影の適性がないせいだろうか? 模倣ならワンチャンスないかと思ったが無理だった。
だが、それにしても。
興奮で手が震える。
余りにもあっさりと、相手のスキルを奪う、もしくはコピーして自分のものにできるスキル。しかも一連の動作をしても、千影は一切気づく様子がなかった。
これはいくら何でも。
いや、違う。
もちろん悪用するつもりはないが。
この世界でまた一つ、大きな力を手に入れられたことを今は喜ぼう。千影を捨て石にしなくて済むのなら、俺だって清濁併せ呑む覚悟だ。千影の力の大きさに驚きながら、いざ自分に力が入ったとき慄いているんじゃ世話ない。
それが、主人になるという覚悟だと思うから。
俺は心を落ち着かせようとため息を吐き、次にプログラム構築について調べる。
しかし今度はどうにもうまくいかない。
操作と同じタイミングで手に入ったのだから、スキル関係だと思うのだが。
構築、ね。
まさか新しいスキルを作るスキルだろうか。
しかし、炎よ出ろ! 風よ吹き荒れろ! と念じても、うまくいかない。何がいけないのだろう。
俺は何度かプログラム構築を試してみるが、結局タイムアップまで何もできなかった。商人から声を掛けられる。
「ほら、見えてきたぞ、ドーレルの町だ」
大きな門とそこに並ぶ行列が見える。なるほど、あれだけで栄えている町だとわかる。冒険者風の男たちや荷馬車に奴隷をたくさん載せた商人などが今や遅しと待っていた。
プログラム構築については課題だな。
この世界に俺以外でプログラマーはいない。他人に聞けないのは辛いが、できないものをとやかくいってもしょうがない。じっくり行こう、旅はまだまだ続くのだ。
少しでも気に入ってもらえれば嬉しいです。
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