012.ギルドと雑貨屋
最初は寂れたほったて小屋かと思った。
かろうじて剣と盾、そしてギルドの文字を認識して、ここが冒険者ギルドなのだとなんとか察せる。
スイングドアを押し開けると、やる気のなさそうな職員と目があう。その他の職員も冒険者の姿もなく、店番か何かのように思えた。
「ここで魔獣の買い取りをしてもらえると聞いたのですが」
「あー。つっても常時買取は肉だけだぞ。ここは出張所だからな、人が足りないんだ。皮をなめすような職員もいねえ。あとは薬草だな。ナバ、ナバモドキ、モメンソウ辺りだ。詳しいことはそこに書いてあるから査定額と一緒に見とけ」
職員はクエストボードの横に貼ってある日焼けした紙を指さした。
「既になめしてあるものや魔石は?」
「あ? あー。それでもダメだな、ここには加工する奴がいねえ。ここから半日ほど西に歩いた辺りにもっと大きな町がある。そこのギルドに持っていきな」
無理か。仕方ない。
「千影、バガントの肉を」
「はい、ご主人様」
千影は言われた通りバガントの肉を影から取り出した。合計6体、最初に俺と戦った奴以外はそこそこ状態が良い。最初のは滅茶苦茶に踏みつぶしたからな、査定額が悪ければ自分たちで食うのもいいかもしれない。
クーガーさんの家で食ったステーキがバガントの肉だったのだ。多少臭みはあるが普通に美味かった。1匹あたり40キロぐらいだろうか、千影の料理スキルがあれば十分満足いくものが食えるに違いない。
「ではこれを……」
おや。職員が何やら目を剥いている。
「お前さん、今、どこからこれを……」
…………。
しまった。
初歩的なミスだ。
この世界には魔法はあるが、風とか火とか、そういう自然系だ。職員からは、何もないところからむき出しの肉が突然現れたように見えただろう。
「違うんです、これはアレです、マジック。そう、マジックです。魔法ではない方の。トリックがあるんですよ、なあ千影?」
「え? ええ、そうですよ。マジックのトリックです」
俺の雑な振りに、しどろもどろの千影。職員がいぶかしげな視線を投げかける。
「ほら、あるんでしょう、魔道具にも容量が多く入る袋とか! それの亜種ですよ!」
「収納袋のことか? いやそれにしたってこの量は……」
「良いじゃないですかそんなことは! 幾らで買い取ってくれます?」
「……この状態が悪い奴は三千ゴルドだな、他は五千出そう」
まだ完全に納得しきってはいない職員だったが、深く探ることにも抵抗があるのか、金額を提示してきた。安いのかどうかわからないが、こういうところでボッタくりはしないだろう。信用に関わるし。
俺たちは結局、最初のバガントだけを収納に戻し、他は売ることにした。合計二万五千ゴルド、銀貨二枚と大銅貨五枚の収入になる。
「ほれ、ギルドカードに記入するからさっさと出しな」
影に飲み込まれるバガントを恨めしそうに眺めた後、職員は手を出してきた。
「いえ、俺たちギルドメンバーじゃないんで。でも売り買いはできますよね?」
「ん? いや、確かにできるが。お前さんたち訳アリだろう? あまり追及するつもりはないが、何かあったときギルドっていう後ろ盾はあった方がいいぞ? 身分証明書の代わりにも使えるし、国を跨いでもこの大陸内なら有効だ。Bランク以上にもなれば貴族さまに召し抱えられて騎士になる奴もいる。最初手続きに五千ゴルド掛かるが、そこは必要経費と割り切ってくれ」
職員のおっさんがメリットをまくしたてる。
どうするか。
確かに、後ろ盾は必要だろう。何かもめ事があったとき、仲裁に入ってくれる存在があるとないとじゃ大違いだ。ここはまだ貴族制があるようだし、平民の俺など鼻息で吹き飛ばせる。Bランクになって騎士がどうのには興味ないが、金があるうちになっておくべきだろう。
決まりだな。
俺は銀貨を一枚返すと、職員は変な顔をする。
「そっちの嬢ちゃんの分か? 別に構いやしないが、奴隷は主人の持ち物扱いだ。一緒に行動するなら個別のギルドカードは不要だぞ」
これぐらいは常識なのか。俺は一度千影を見ると、千影は嬉しそうに頷いて見せた。千影は何故か奴隷扱いされると喜ぶ。燃えるものがあるらしい。
俺は銀貨を再度受け取り、大銅貨を出した。
「じゃあここに名前を書いて。ああ、お前名前書けるか? 代筆してやってもいいが」
「問題ない」
俺は羽ペンを受け取り名前の部分にカズキとだけ書いた。苗字は貴族が名乗るものだと聞いたことがあるし、説明が面倒だ。
俺は順繰りに穴を埋めていく。
性別は男、年は一五歳、職業は召喚じゅ……。
しまった、この世界にそれはない。ついでにいうとプログラマーもきっとない。戦士でいいや。職業は戦士、得意技なし、過去にギルドメンバーだった経験なし、その他備考なし。
六歳から薬草摘みや鉱石拾いのクエストだけ、ギルド準メンバーとして受けられるらしい。本メンバーは十歳からだそうだが、その経験があれば実績によってはギルドランクを最低のFからEで始めることができるらしい。当然俺たちはFからだ。
俺が書き終わると、ギルド職員はざっと目を通し、不備がないことを確かめて、奥の部屋へと向かった。数分後、青銅色のカードを俺に渡す。
「これで今日からお前たちもギルドメンバーだ。さっきも言ったがある程度は後ろ盾になってやるが、あまりにも傍若無人なら庇いきれないこともある。最悪はギルドカードが剥奪だな。ギルドメンバー同士の喧嘩も、まぁやるなと釘は刺しておく。血の気の多い連中ばっかで言っても聞かないけどな。この世界じゃ力が全てだ、舐められないよう気を付けな」
「ああ、ありがとうよおっさん」
Fランクと彫られ、俺の名前が書かれたギルドカードを胸ポケットにしまった。なんか、異世界してるって感じだ。
俺たちはそのまま、傍にある雑貨屋へと向かう。今度はひげもじゃの店員だ。村の規模からか、武器屋と防具屋も兼ねているらしい。
「らっしゃい。何をお探しで」
「これから本格的に旅をしようと思っているんだが、必要なものを見繕ってくれないだろうか」
「あいよ。予算は?」
「一万五千」
さすがに残った金全部を予算にするつもりはない。何があるかわからないし。しかし道具屋のおっさんは不服そうに顔をしかめた。
「一万五千っつうとまともなものあんまり揃えられねえな、水とテントと日持ちする食料で精いっぱいだ。旅の必需品である収納袋は一番小さい奴でも五万する。悪いことはいわねえ、もうしばらくこの村で薬草とか集めて小銭を稼いだらどうだ?」
言って薄汚れた袋を俺たちに見せる。これが収納袋か。
「これは十キロまでしか入らねえが、それでも十分過ぎるほど働いてくれる。まだ暖かい時期とはいえ夜は冷える。毛布も欲しいところだし、夜動くのならライトもだ。獲物を狩れば最低限剥ぎとるためのナイフも欲しいし、武器や防具はどうするんだ。魔獣に盗賊、命がいくつあっても足りねえぞ」
夜についての心配か。
いらないな。
千影の影の中で一晩過ごせば済む話だ。
収納袋よりよほど容量のおおきな影収納が使えるわけだし、それもいらない。ただ、さっきみたいに驚かれたくないのでデカい収納袋に似せただけの袋を千影に作ってもらおう。袋には影ができるし、そこから素材を取り出せばいい。
ライトは……いずれダンジョンに潜る日もくるだろうか? それまで見送るか? いや、街灯なんてないんだ、光はあった方がいい。何かの気配に気づけば、探しに行くのもライトを囮に使うこともできるだろう。
「それでは、三日分の食料と水、あとライトを。武器と防具も見せてもらえますか?」
おっさんは剣と槍を数本、あと革の初心者用の装備一式と、サイズの違うバックラ―を見せてくれた。剣を数度振ってみたがピンとこない。槍もだ。そもそも最近初めてでかい生物を殺したんだ、手にしっくりくる武器などあるわけがなかった。
革の装備もそこそこ高い。初心者用でも全部買うと三万ほどするらしい。一応見た金属の装備など論外だった。文字通り桁が違った。
結局そこでは更に革の手甲を買った。一万千五百ゴルドのところを一万ゴルドにまけてもらい。早速手甲をつける。
バガントの手甲 防御力:4
効果:なし
ここでもバガントか。
うーん、相変わらず数値がしょっぱい。これで七千ゴルドである。工場で大量生産とはいかないのだろうが、高いものは高い。
俺はすっかり減ってしまった銀貨を指で弾いた。
スカンピンになる前に、なんとか稼がなくては。となると、西にあるらしい大きな町が次の目的地だな。
少しでも気に入ってもらえれば嬉しいです。
感想・レビュー・ブクマ・ポイントは作者のやる気に直結します。よろしくお願いします。




