011.旅立ちの日
今回から二章が始まります、今後もよろしくお願いします!
あれから結局、特に外出することもなくクーガーさんの家に泊まらせてもらった。本当は一軒宿屋があるらしいのだが、ミーナを助けてもらったことや、俺たちが子どもであることを理由にドギド村長に押しきられたのだ。ちなみにここは15歳が成人年齢であり、一応俺もそうなのだと言ったが信じてもらえなかった。身長のせいだろうか。俺は高校に入ってからぐんと伸びたタイプだった。おかげで、「子どもが遠慮するもんじゃない」の一点張りである。
千影は、俺の腕の中で絵本を三冊読み聞かせたら「大体わかりました」と小説を受け取り読み上げてみせた。模倣スキルはチート過ぎるな、と思ったが、よく考えれば千影のスキルは全部チートだった。
何にでも変形できる影撃ちに、生物・非生物なんでもぶちこめる影収納。攪乱させる影分身に、少し力を落とすことで戦力を倍にする分裂。
この世界に来てからいまいち活躍の場がない家事・EXもだ。
「ご主人様、家事のさしすせそ、をご存知ですか?」
ご存じではないな。それは料理じゃないのか。
「さは裁縫、しは躾、すは炊事、せは洗濯、そは掃除です。なので、ここに取りだしたる獣の肉」
いって首のないバガントの肉を影から取り出した。ボラギノックスのせいで少し臭い上に、死体からは血が流れ部屋に染みを作っていく。
「炊事で、この獣を肉と皮にわけます。裁縫で、皮をなめし、革にします。洗濯で、この匂いを落とし、掃除で、血で汚れたこの部屋をきれいにします」
5分もしないうちに、倒した全てのバガントの革が出来上がり、部屋も新築かと錯覚するほどになった。
鮮やかなものだと思うが、屠畜場に行けば洗濯と掃除はしなくてよかったのでは。この村養豚してるって聞いたぞ。
「何をおっしゃるんです。それでは私の凄さがわからないではないですか! ひいては私がご主人様にいい子いい子してもらえないじゃないですか!」
ああ、して欲しいのね。
おじさんそういう直球におねだりする女の子嫌いじゃないです。
俺は千影の頭を撫でると、千影は蕩けたように目を細めた。
「ちなみに、躾は?」
俺が聞くと、千影は取りあえずなでなでを十分堪能した後、俺から距離をおく。
体が揺らぐと、千影はスーツにタイトスカートのうえ、いつの間にか眼鏡を掛けていた。見た目の年齢はそのままだったが。
「和樹くん、昨日も宿題しなかったでしょ。めっ!」
…………。
めって言われちゃったよ。
反応に困る。
かわいかったけど。
……なるほど。
「躾に関してはポンコツなんだな」
「違うんです、影女は男に尽くす妖怪なので、怒ったりすることはまずないのです! 普通私は見えないので。ヒステリック起こして皿が目の前で割れても、建てつけが悪かったのかと思うぐらいですよ!」
人には向き不向きがあるということである。
そしてその日は一緒のベッドで寝るか俺が床で寝るかひと悶着したあと、「ご主人様を床で眠らせるなど影女としてのプライドが許せません! どうしてもというのなら実家に帰らせてもらいます!」と千影が怒った。
実家ってどこだよ。
結局折れて二人でベッドの中に入った。後で、千影が影収納の中に入っておけばとも考えたが、あまりにも酷すぎると自分でも思ったので黙っておく。ルンルンの千影に水を差すほどでもないし。
次の日、目を覚ますと千影は既に起きていたらしく、ミモリさんと一緒に台所で料理のサポートをしていた。俺は部屋から出ると、パンの匂いに釣られリビングへと向かう。
「千影ちゃん若いのに凄いのよ、包丁さばき」
「ずっとやっていますので」
「えらいわねぇ」
きっとその『ずっと』にはミモリさんはおろか俺すら想像できない年月があるのだろう。
千影が過去誰に仕えていたのか、気にならないでもない。が、その話題には本人が触れてほしくなさそうなので、深入りしないことにしている。
「カズキくんは、この先、どうするつもりなのかな?」
クーガーさんが俺に問いかける。
この世界について何も知らなかったのだ、もしかしたら俺たちが逃亡した奴隷兄妹とか思っているのかもしれない。ちなみに近親婚もそこまで珍しいもではないと聞いた。そういえば千影に首のチョーカーが隷属の首輪とかいう魔道具に似てるらしいぞと教えると、尚更外すのを嫌がった。うっとりした目をして「ご主人様の奴隷……」とか言われると俺はお手上げである。
「世界を見て回ろうかと思っています。この国の首都や、隣国、船を使って更なる地へ。短い人生、何があるかわかりませんしね。日銭は冒険者ギルドで魔獣の素材でも売ろうかと」
昨日一晩考えた結果である。
何があるかわからないのなら、その日暮らしの生活も悪くはないだろうと。どうせこの世界での死亡率は前世よりよほど高いのだ、どこにいても死の危険があるなら、見たことがないものが見たい。
「そうか……。君が思っているほど、世の中は甘くはないよ? いや、それは君が一番わかっているか……」
クーガーさんが一人で納得している。やはり奴隷だと思っているっぽい。千影のチョーカーもあるが、俺の荒んだ目もね、どうにも。
食事が終わると、話もそこそこにお別れである。
「お世話になりました。お元気で」
「カズキくんもね。千影さんと仲良く」
俺はクーガーさんと握手を交わし、家を後にした。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう!」
背中にミーナちゃん声がかかる。俺と千影は振り返り、大きく手を振った。ミーナちゃんも手を振り返す。泣いていたかもしれない。吊り橋効果か。一日で懐かれたものだ。
「良い人達でしたね」
「ああ。良い出会いに良い食事、旅にはそれだけあれば十分だ」
「あら、良い女はいりませんか?」
千影が妖艶にほほ笑む。見た目年齢10歳程度の癖に飛びぬけた色気だ。俺にそんな趣味はなかったはずだが、ずいぶんと染められものだ。
「千影がいるからな」
「ありがとうございます、ご主人様」
俺は少し緊張しながら答えた。こんな受け答えすらも、キザに思われないか心配になるというのに、千影はあっさりと受け流した。
悔しい。
いつかその顔を羞恥の色に染めてやる。
「ギルドにバガントの革と肉を売って、金を得たら旅に必要な雑貨とか武器防具を見よう。どうしても手持ちが足りないなら俺の金で前世の何かを都合してもいい」
「はい、ご主人様」
俺たちは歩き始める。
向かうは冒険者ギルドだ。
少しでも気に入ってもらえれば嬉しいです。
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