お嬢様と番犬
四方からグラスがぶつかり合う音と賑やかな笑い声。素晴らしい音楽と華やかなダンスへの歓声の中、レヴィは足早に人混みをすり抜ける。
〈――――――人形姫―――〉
騒めく人々の声の中、かすかに聞きとった不愉快な言葉。
(まさか、お嬢様になにかあったんじゃ?!)
――――――――――――――――――
息を切らしながら鋭い目を向けるレヴィ。暗闇のような真っ黒な髪と瞳を人々は恐ろしいと言ったが、リーシャはそう思ったことは一度もない。リーシャを見つめる瞳は、いつも宝物を見るように穏やかで優しいからだ。(小言を言っている時以外は……。)だが、いまはとても冷たく、別の人間のように感じる……
「離れろと言っているのが聞こえないのか?」
(っ!このままじゃ大変!)
公爵家の令息に対しこれ以上の不敬は取り返しがつかない!リーシャは慌てて場を取り繕う。
「レヴィ!お帰りなさい。こちらの方はジークハルト・ブランドン公爵令息様、困っていたところをお助けいただいて、おしゃべりにお付き合いいただいていたの!
ジークハルト様、お付き合いいただきありがとうございました!ご縁がありましたらまたっ!!
まぁレヴィ、美味しそう♪たくさん選んでくれてありがとう。お腹ぺこぺこだったの、いただきます!」
一呼吸でそう言うとレヴィが持ってきてくれた料理をもぐもぐ食べ始めた。
「ふは♪ ほんと面白いな人形姫♪おっと、リーシャ嬢♪怒るなよ〜番犬くん♪」
またレヴィが睨みつける。
「我が主へのお心遣いお礼申し上げます。後ほど当主より改めてご挨拶を―――」
「そんなことは不要だよ!それより俺は麗しのご令嬢をダンスにお誘いしてるんだ♪ いいだろ?リーシャ嬢!」
(この人、本当にヒトの話しを聞かない……あぁ、気持ち悪くなってきた……)
私の異変に気づいたのかレヴィが心配そうに顔色を伺う。「失礼ですが、我々はここで退席させていただきます。お嬢様、大丈夫ですか?」
レヴィに支えられて歩き始めると目の前を通せんぼし、まだ諦めない人……もう!、怒った!
「大変光栄ではございますが、お約束してる方がいらっしゃるので、お受けできません!!」
ザワザワザワ――――――。




