リリーとマーガレット
穏やかな青空が、グランバル伯爵領までの長い帰路を見守ってくれている。
先を急ぐ蹄の音が心地よく聞こえる中、リーシャは困り顔でいる。長年探し続けた彼。先日再会してからというもの、なかなか話しかけることが出来ずにいた。それは……
「アレクサンダー様! リーシャ嬢! カードゲームしよーよ♪」
リーシャとアレクサンダーが2人になりそうになると現れるジークハルト。
そして宿泊地での盛大なお迎え……。一国の王と、公爵家の
令息、かつての国の英雄という超豪華メンバーが訪れるとなると無理もない。
(また今日もお話し出来なかった……)
小さな体をさらに小さくして用意された歓迎の席で大人しく食事をするリーシャ。
そんな姿をアレクサンダーが見つめていた。
(・・・・・・・・。)
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「これは―――、困ったなぁ」
ハハハ。と笑いながら困り顔のグランバル伯爵。
「このままでは、今夜は野宿になってしまうよ。」
「マーガレット? 機嫌を直してちょうだい? ね???」
頑なにその場から座り込んで動かない、『マーガレット』と呼ばれるグランバル伯爵の新しい栗毛色の愛馬。リーシャが優しくその背中や首元を撫でるが聞く耳を持とうとしない。
それというのも……
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グランバル伯爵領まであと一息の所で休息中の出来事。
「決めたっ! この子の名前は『マーガレット』にするわっ!」
キラキラ輝く瞳と眩しい笑顔でそう言うリーシャ。本日二度目の休憩中に発表された、先日迎え入れた新しい家族の名前。
父から命名権を与えられここ数日真剣に悩んだ結果の最高傑作だ!
優しく名前を呼び鼻先を撫でると嬉しそうに「ヒヒン♪」と鳴くマーガレット。
(アレクサンダー・ジークハルト ((雄馬だけどね……)))
「リリー(百合)とマーガレットか、とても素敵な名前だね ^^」
「マーガレット! 改めてよろしくなッ!」
(アレクサンダー・ジークハルト((親バカ、兄バカめっ……)))
楽しそうな親子を遠目に見ながら、ふたりは心の中で呟いた……。
御者に声を掛けられグランバル伯爵親子がその場から離れるとふたりがマーガレットに近づき呆れたように話し始める。
「マーガレットかぁ、」
「あいつの名付けのセンスを忘れていた。屋敷には『くま伯爵』も居るぞ。」
「ぶはWWW 最高っWWW」
不思議そうな瞳でふたりを交互に見つめるマーガレット。そんな彼を撫でるアレクサンダー。
「気の毒に……。雄馬なのに、マーガレットなんて―――」
ガシャンッ!
物音に気づき振り返るとそこには呆然と立ち尽くすリーシャと足元には桶に入れられた水がこぼれ出している。
すかさずリーシャの前に立ちはだかり視界を遮るレヴィ。その瞳は怒りに満ちている。
「リ、リーシャ!汗」
「リーシャ嬢! これは違くて、そのっ―――!汗」
焦るふたり。しどろもどろになりながらリーシャに話しかけるが、そんなふたりから守るようにレヴィがギュッと抱きしめる。
「お二人とも……、覚悟はできておりますか?」
レヴィの冷たい声が事の重大さを物語る。覚悟を決めるふたりだったが、
「レヴィ! やめて! …… お水……こぼれちゃったから、また汲んでこなきゃ。」
「私が行ってきます」レヴィが言うと「ありがと」と精一杯の笑顔を見せるリーシャ。
重い足を引き摺りながらマーガレットに近づく。
「マーガレット、ごめんね……。 あなたに似合う素敵なお名前、考えるからね……」
震える声でそう言うとリーシャの紅く染まった頬に一筋の涙が……
ズッキーーーーーーーーーーンッ!!!!!
罪悪感でふたりは心臓が抉られるよう。
大好きなリーシャの悲しそうな姿。マーガレットは心配そうにリーシャの顔を鼻でつつくと、鋭い瞳をふたりに向ける。
(オマエら、ボクの大好きなご主人にイジワルしたなっ!! 許さないゾっ!!!!怒)
「ヒヒーーーーーンッ!!!怒」




