名前
掴まれた腕から伝わるアレクサンダーの熱。その熱さと力強い大きな手にリーシャの頬が赤くなる。
「……陛下? いかがなさいましたか?」
「……(ボソボソ)」
「え?」
何やら話しているが、あまりに小さな声でリーシャの耳に届かない。
掴んだ手を離そうとするとさらに強い力で引き止められる。
「……あいつは名前で呼びあって楽しそうに話すのに、俺は『陛下』かよ……。」
拗ねたような口調でそう言って顔をぷいっと背けてしまった。
(まさか……)
「陛下……、ずっと機嫌が悪かった理由って………きゃっ!」
ぐっと引き寄せられ体制を崩すとアレクサンダーの隣にポスンっと座らせられる。
じっとリーシャの瞳を見つめる。 幼い頃笑い合った赤毛のそばかす姿よりも遥かに大人びて、美しい顔がすぐ目の前に―――!
リーシャの心臓がドキドキと鳴り止まない。
「昔みたいに、『アレックス』でいいよ。 その方が慣れてるし……。 よそよそしい話し方も…なんか嫌だ………。」
リーシャの腕を掴んだままうつむき加減にそう言うアレクサンダーがどこか幼く、大人びた目の前の『今』ではなく遠い幼い頃の姿を思い出される。
「それはできないわ。」
リーシャの言葉にビクッと背中が動き、そっと顔を上げる。 その美しい金色の瞳に悲しみが浮かぶ。
「『アレックス』とは呼ばないわ。
陛下のお父様とお母様が、最初に贈ったプレゼントですもの。」
掴んでいる手をそっと離し、その手を小さな両手でぎゅっと握りながらハシバミ色の瞳が真っ直ぐ見つめる。
「―――っ! じゃあ、せめて『陛下』じゃなくて名前で呼べよ。」
そっぽを向いてそう言うアレクサンダー。その耳は真っ赤だ。
「〜♪ リーシャ嬢のそういう所、好きだなぁ♪♪」
「「っ?!」」
扉に頬杖をつきジークハルトがニッコニコ笑顔でふたりの姿を見つめている。
「(カァ~っ)…///」
「お、お前っ、いつからそこに?!」
真っ赤なリーシャとアレクサンダー。揶揄うように笑うジークハルト。
「ずーーーーっと居ましたよ♪
陛下ぁ、リーシャ嬢に名前呼びされないからって拗ねちゃうなんて、かぁいいですねWWW」
更に真っ赤になるアレクサンダー。
「まーた拗ねちゃうといけないんで、俺もお名前で呼ばせていただきますね♪ アレクサンダー様っ♪♪」
「っ?! ふざけるな! お前は許さん!! 不敬だっ!!!」
隣に座るリーシャを乗り越え、逃げていくジークハルトを追うアレクサンダー。
掴まれていた腕と顔がまだ熱い。
(あんなの、反則よっ!!!!…///)
――――――――――――
「ちょっ! アレクサンダー様苦しいっ!! 降参ーっ!!!」
ジークハルトを羽交い締めにするアレクサンダー。
「誰が名前で呼ぶことを許可したんだ? ん? 許さん」
逃れようとジークハルトがジタバタもがくが、がっちり押さえつけられ抜け出せない。すると、
「不敬で処罰してやる!―――っ?!」
「ぅ゛〜苦しい、―――ん?!」
ふたりを引き離すとその襟元を掴む腕。恐る恐る振り返るふたりの目の前に笑顔のグランバル伯爵。いつもの穏やかな笑顔とは違う恐ろしい笑顔……。
「お二人とも、私の言った事を覚えていらっしゃいますか?
『グランバルまでの長い道のり、仲良くするように。』」
「 お忘れですか??(ニッコリ)」
サーッと血の気が引くふたり……
「ん?(ニーッコリ)」
「「ごっ、ごめんなさーい!!!!( ; ; )」」
――――――――――――
「あら、3人が戻っていらしたわ!……ん?」
馬車の外でレヴィと共に栗毛の新しい家族と戯れていると少し離れた所から3人の姿が。
ぎこちない笑顔で肩を組み合うアレクサンダーとジークハルト。そんなふたりを見てニコニコ微笑む父。
((あっ…(察し)))
グランバル伯爵家ではお馴染みの光景。幼い頃の思い出が蘇りゾッとするリーシャとレヴィだった―――。




