公爵親子
一同の前に飛び込んできたふくよかで小柄な男性。豪奢ではないが繊細な刺繍で作り上げられた質の良い衣服に身を包んでいるその顔は真っ赤で額には汗が溢れている。
「大変申し訳ございませんでしたっ!!!!」
頭を下げ続ける男性。その場の皆が驚きと困惑で戸惑う。
「公爵、一先ず落ち着いて顔を上げてくださいな。」
ラスタ王妃の一声でおずおずと顔を上げる男性。
((あっ))
そのエメラルドの瞳にリーシャとレヴィは見覚えがあった。
「 公爵、存じているかと思うが私の古くからの友人のローガン・グランバル伯爵とリーシャ嬢だ。
ふたりとも、彼はブランドン公爵。私の補佐をしてくれている優秀で気の良い男だよ。」
レナート国王に紹介され、公爵へ挨拶をする父娘。
「そっ、そんな! もったいないお言葉を……ありがとうございますっ」
ブランドン公爵が慌てて額の汗をハンカチで拭く。先程とは違う意味で耳まで真っ赤になっている。
「―――改めまして。陛下よりご紹介いただきました、私ドルト・ブランドンと申します。」
深く頭を下げ挨拶をしてまた汗を拭く。ハンカチには可愛らしい花の刺繍がされている。
ふっくらと穏やかで優しそうな顔の眉は困ったように下がっている。
「ところでどうしたの? 貴方がそんなに慌てて謝罪するなんて。」
ラスタ王妃が問いただすとグランバル伯爵とリーシャの方に体を向け、また深く頭を下げる。
「昨日、我が愚息がご令嬢へ大っ変っな失礼をいたしましたこと、父としてお詫びに参りました。
大変申し訳ございませんでした!」
このままでは土下座するんじゃないかと思うほど頭を下げ続ける公爵。両陛下と父が困ったように顔を見合わせる。
「顔を上げてください。」
「ご子息様は私を好奇の目から逸らしてくださったのです。お礼を言わなくてはいけないのは私の方です。」
公爵の震える手にそっと自分の両手を添えてそう伝えると涙で潤んだエメラルドの瞳がリーシャを見つめる。リーシャが小さく頷き笑顔を向ける。
「ありがとう」と言いリーシャの手をぎゅっと握り優しくにっこり笑う公爵。父とは違い肉付きが良いが大きくて温かい手だ。
「寛大なお心に感謝いたします。」そう言って涙を拭うとグランバル伯爵とリーシャに頭を下げ、扉の方に視線を送る。従者が頷き扉の外に声を掛けると、
ガチャ
長い銀髪をひとつにまとめ、うつむき加減に中に入ってくる長身の男性。昨夜とは全く別人の様なジークハルトだった。手には大きな箱を抱えている。
「我が愚息の非礼をお許しいただき本当にありがとうございます。こちら、お詫びの品をどうか―――」
公爵がジークハルトの持つ箱を開けると大小様々な宝石が!!
「いけません!! お詫びの品は結構でございます!!」
「助けていただいたのは娘の方です。お気持ちだけ頂きますのでこちらは―――」
父が丁寧にお断りしているが、公爵も一歩も引かない。目の前の光景にびっくりして棒立ちになるリーシャ。ふと顔を上げるとジークハルトと目が合う。
(パチンッ☆)
リーシャに向けてウインクするとニヤッと口角を上げるジークハルト。するとすかさず、
ベチンっ!
公爵がジークハルトのおでこを叩いた音が部屋中に鳴り響く。
「痛゛っ!!!」
「この馬鹿もんっ! しっかりと反省しないかっっ!!」
(あ、やっぱりこの人は……)
昨日の様子と全く違く、別人では?と困惑したが、同一人物だと安心するリーシャとレヴィだった―――。




