悲しい初恋
一通り診察が終わり、「じゃあ、また2日後に来るからね。」とリーシャにニコッと笑顔を向けてマルク医師が席を立つ。グランバル伯爵夫妻も彼を見送るために共に部屋から出て行った。
サイドテーブルの上には処方された様々な薬と新しい包帯が並べられていた。ラスタ王妃からの秘薬も。
ひとり残された部屋で、リーシャは父から告げられた現実を頭の中で何度も、何度も繰り返す。
(わたしの左足は、もう………………)
手を伸ばし丁寧に掛けられた毛布の上から左の太ももを摩る。
「ある。」小さな声でそう自分に言い聞かせる。
掛けられた毛布を蹴り上げるようにチカラを込める……
「っ?!」
部屋の中は何一つ変わらない。丁寧に掛けられた毛布はモゾっと動いただけ……
鼻の奥がツンとする。ベッドに横になっていなければ今頃涙が流れていただろう。
コン、コン、コン、…………
「…………お嬢さま?」
静かに扉が開くと、心配そうな顔のレヴィが顔を覗かせた。
何と言葉を掛けたらいいのか……、そんな顔で扉の向こうから部屋に入ってこないレヴィに向けて笑顔で話しかける。
「ね、いつもみたいに側にいてくれなきゃ寂しいわ。」
すこし意地悪気にそう言うと、レヴィが静かにベッドの近くまで歩み寄る。
「パパから今日までのこと聞いたの。村を守るためにみんなが戦ってくれたこと、みんなが一生懸命がんばってくれたこと
。
わたしの左足のこと。
ねぇ、わたしは平気よ?」
笑顔を向けるとレヴィの瞳が涙でキラキラ輝き、涙を流さないように耐えているのか、耳も鼻も真っ赤になっている。
「村の様子はどう?みんなは元気にしているかしら?怪我をした人達は大丈夫?」
「アレックスとエヴァは?エヴァ、あの時怪我をしていたわ……。アレックスの様子も変だったし……ふたりは平気?」
レヴィの顔が一瞬にして強ばる。
「レヴィ?」
俯き、口を閉ざす様子に嫌な予感が胸をざわつかせる。
じっと見つめ答えを待つリーシャのハシバミ色の瞳を真っ直ぐ見つめ、レヴィが重い口を開く。
「エヴァさんと、アレックスですが……。」
「村を襲った奴らを追った自警団が、男達を捕らえた森の中で血に染まったショールを見つけたそうです。近くには血のついた葉が多数……。恐らく、エヴァさんとアレックスのものだと……。
捕らえた男達はその場で自決したとのことで、 ふたりの行方はまだ──────────」
目の前が真っ暗になり言葉のつづきを聞き取ることができない。思考がついて行かない。
レヴィの黒い瞳が私に語りかけている。私が信じたくない現実を………………。
「お嬢さま?」
心配そうに顔を覗き込むレヴィに精一杯の笑顔を向ける。
「……ごめんなさい、ひさしぶりに起きて疲れちゃったみたい!」
そう言ってシーツで顔を覆う。リーシャの頭を優しく撫で、何も言わずに部屋を出ていくレヴィ。
─────パタン
扉が閉まった瞬間、リーシャの瞳に涙が溢れ出る。
「ふっ……ふぐぅ─────」
必死で声を殺す。
そんな声を部屋の外で同じく声を殺しながら、ローガン、アンヌ、レヴィが聞いていた。




