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王家と伯爵家

国王レナート・フォン・バドスピークは、太陽王と呼ばれた初代国王の再来と呼び声高く、国の英雄と称えられ国民から熱い支持を受けている。

圧倒的強さはもちろんだが、その飾り気がなく親しみやすい性格も好かれている。また、数十年に及んだ隣国との戦いを終結させ不可侵条約を結び、自国への不利益な条約を撤回させるなど、国民の長年の不安を払拭させ国力を取り戻したことが大きな理由だろう。


そんな国王の王太子時代、常に彼の隣にいた『英雄の右腕』がリーシャの父ローガン・バルテルだった。国内随一と言われた剣の実力と頭脳を持ち、冷静な判断で戦場や政治面で王太子を支え続けた。ふたりの功績を称えた人々は〈レナート王の時代は、バルテル卿が宰相を担うだろう!〉と国の未来を信じてやまなかった。

が、誰も予想していなかった事が起きた。

英雄の右腕が王太子妃の侍女だった貧乏伯爵家の令嬢と恋に落ち、伯爵家へ婿入り。さらには王都から遠く離れたグランバル伯爵領へ去ってしまったのだ!

『まるで、1つの時代が終わったかのようでした……。華やかだった町に色がなくなり、王都中の女性たちが咽び泣き、私たち使用人は涙でぐしゃぐしゃなシーツを来る日も洗い続けました……。』

リーシャは以前、王都で働いた事のある使用人から話しを聞いたことがある。遠い目で当時を語る使用人を不思議な気持ちで見つめた。

(あのパパが????)


――――――――――――――――――


「本当に今宵は素晴らしい!我が友と美しいリーシャ嬢に乾杯だー! っ?!」

「陛下、落ち着きなさい。」

父娘との再会が嬉しくて堪らないといった様子の陛下をラスタ王妃が窘める。王妃には頭があがらない様子。


「リリー!会いたかったわ! さぁ、可愛いお顔をよーく見せてちょうだい♡!」

ラスタ王妃はレナート王と並び、国民からの指示が高い国母と呼ばれる王妃だ。常に凛とした佇まいで、王の補佐を務める姿は皆の憧れ……が、リーシャを前にするとこうなってしまう。

「陛下っ、くっ、苦しいですっ」

「あらっ、大変!ごめんねリリー♡」

力いっぱいリーシャを抱きしめた後、両手で頬を包み込み顔中にキスをする王妃。先程王を窘めた人物とは思えない……。

「あ!陛下なんて悲しい呼び方はイヤよ!ラスタって呼んでくれないと!」

いつもは凛と引き締めている口元を不満そうに膨らます王妃。ここが死角になっていてよかった……一同が胸を撫で下ろす。


「ごめんなさい、ラスタ様。 お久しぶりでございます。お会いできてとても嬉しいです!」

「私も嬉しいわ、可愛いリリー♡ アンヌの体調はいかが?」

アンヌとはリーシャの母のことである。

「はい、ラスタ様が送ってくださるお薬のお陰で元気にしております。いつも本当にありがとうございます!

母もラスタ様にお会い出来る日を楽しみにしてると言っておりました。」

リーシャの母は元々体が弱く、伯爵領から遠く離れた王都までの旅路は難しい。

「それはよかったわ。お大事に、またお手紙送ると伝えてね」

王太子妃時代、ラスタの心労を傍で支え続けたのがアンヌだった。王太子妃と貧乏伯爵家の令嬢という身分の差はふたりにとっては何の問題でもなく、ラスタとアンヌは固い絆で結ばれ、侍女を辞めた後も交流を続けている。



王妃から再びキス攻撃を受けている娘を微笑ましく見ながら、父と王は過ぎていった歳月を懐かしく語り合っていた。


「…………8年前の事だが。」

「………。」

「生きていてくれてありがとう。この国を守ってくれてありがとう……。

リーシャ嬢のことも……辛い選択だったろう。あの子の笑顔をよく守り続けた……私は、君が誇らしい」

レナート王が涙を流しながら父へ頭を下げる。父は王の肩へ手を伸ばし、

「私の娘と、私が生まれた国だ。当たり前のことをしただけだよ。」

そう言って、涙が溢れて止まらない王へ“泣くな!”と笑った。

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