約束
爽やかな秋の風の中、リーシャは今日も『秘密の場所』でダンスの練習をしている。本日のレヴィは父と騎士のお勉強中。
「〈うるわしいご令嬢、わたしと一緒に踊っていただけますか?〉
まぁ、うれしい!よろこんで♪ 〜〜〜〜♪」
「ひとりで何してんだよ……そのくまはなんだ?」
「アレックス!この子はくま伯爵よ♪」
本日のダンスのお相手は、母アンヌお手製のリーシャの背丈ほど大きなくまのぬいぐるみ『くま伯爵』。(こんな所までよく運んだな……)と呆れながら見るアレックスを横目に、リーシャはくま伯爵と楽しそうに踊り続けた……。
「はぁ〜たのしかった♪ ねぇ、きょうはターンが4回も上手にできたのよ!見てくれた?」
はいはい、と適当に受け流すアレックスを気にもとめずリーシャはつづける。
「私ダンスだいすき!もっと練習して上手になったら、すてきなレディになれるかしら♪」
「ぶはっWWW 『レディ』 はデカいくまと踊ったりしないだろ(笑)」
アレックスが思わず吹き出す。
「デカいくまじゃなくて、くま伯爵よ!これ見て♪」
隣で笑い転げるアレックスのお腹の上に1冊の本を元気いっぱいにのせる。
「う゛っ、なんだよ―――」
「行商人のおじさまがくださったの!王都でとっても有名な物語なんですって♪ 王国一の騎士様が優雅にダンスを踊る貧しいご令嬢に恋をして結ばれるお話し♪」
「物語の女の子はダンスが上手なすてきなレディなのよ♪私もこの物語の女の子のようになりたいわ」
リーシャはハシバミ色の瞳をキラキラ輝かせ未来の自分に思いを馳せる。
ふーん、と本のページをめくりながらリーシャの夢の話しを聞いていたアレックスだったが、ふと手が止まる。それは物語のラスト、ふたりが結ばれる最後のページ……
「―――じゃあさ、ダンスが上手くなって、お前が立派なレディになったら
俺がお前の、初めてのパートナーになってやるよ」
夕陽を背にそう言ったアレックスの表情はよく見えなかったが、陽に染まって輝く赤毛から見える耳がその髪と同じくらい赤みを帯びていた。
「っ♪♪♪♪」
アレックスの言葉が嬉しくて笑顔が零れてしまう。
(でも、ちょっとイジワルしちゃえ♪)
「初めては難しいかもね〜 パパやレヴィともダンスはするし、レッスンの先生もいるし♪」
「家族や教師は別だ!」
慌てるアレックスが面白くてついからかってしまった。
「じゃあ、約束!」
アレックスの手を取り互いの右手の小指を絡めると、ふたりは顔を見合わせ笑いあう。
陽の光が当たり一瞬だけ彼の髪が白金色に輝いたような気がした。
“あぁ、なんて綺麗なんだろう。”
手をつなぎ小高い丘を屋敷へと向かって歩く、アレックスの右手にはくま伯爵。




