元凶
私はしばらくそのままソファに座っていた。
俺はこの移住先を家族以外、誰にも教えていない。あの女は、この家のことを知っているのか? まさか、そんな事はあり得ない。
きっと、服に引っかかってたか、ポケットにでもはいってたんだ。
そう言い聞かせて俺は立ち上がった。
◇
ガチャ
「ただいま」
なんだか家の中が静かだ。妻はソファに座っているようだ。
「どうした?」
私は声をかけた。
「ううん。は、早かったのね」
何やら真剣に見ていたようだが……
「ああ。先に風呂入ってくる」
私は直接浴室へと向かった。
湯船にゆっくり浸かる。至福の時間だ。
それにしても、あれから彼女とは連絡を取っていない。
この家にあの女の私物があるとは、不快感が足元から這い上がってくる。
少し浸かりすぎたようだ。考え事をしながら入るものではないな。
のぼせ気味で椅子に座る。私が顔を洗っていると、浴室のドアがいきなり開いた。
なんだ? 美恵子か?
急に首に何かが巻かれ、強い力で引っ張られた。私は目を瞑ったまま、されるがままになっていた。抵抗したいが、のぼせている上に、手は石鹸で滑る。
「ゔゔぁ」
自分の口からうめき声が漏れる。目の前が真っ暗になった。
いつまでそうしていたのだろう?
肩を掴まれてる揺すられている。必死で私を呼んでいる。健?
意識が朦朧としたまま、私はまた暗い世界に堕ちていった。
◇
次に目覚めた時は、病院のベットの上だった。知らない天井を見上げる。白いカーテンで囲まれている。ふと花瓶の花が目に入った。黄色の花が枯れかけている。美恵子が置いてくれたのだろうか……喉が渇いた。
私は身じろぎし、ナースコールを押した。
◇
刑事が二人、私の元にやって来た。
「事件の捜査をしている、金城です」
背の高い方が私に名刺を渡す。
「同じく、山田です」
背の低い方は礼をする。
「意識が戻って本当に良かったです。早速で申し訳ないんですが、お聞きしたいことがありまして」
金城という刑事が申し訳なさそうな顔で私を見た。
「犯人の顔は見ていますか?」
◇
しばらくして、妻が病院へやって来た。警察に疑われていたと聞いた。疲れているように見える。
「美恵子……」
「意識、戻ったのね」
「あぁ」
「……犯人、本当に見てないの?」
「あぁ」
私は答えた。
◇
不審人物は健を刺そうとして逃げられ、その後、姿を消したらしい。
浴室の天井に潜んでいたなんて、思いもしなかった。私達の入居前に、である。なぜ入れたのか、業者は警察から管理体制について厳重注意をされたらしい。当たり前である。
事件はしばらく、この小さな町を賑わしたが、その後の台風のニュースでかき消えていった。この辺りも強い雨が連日降り注ぎ、一時川の水がかなり増水したが、被害は無かった。
◇
ガチャ
「ただいま」
いつものように、私は自宅へ帰宅する。
今日も三人で食卓を囲む。
鍵も変えて、この家にいるのは三人だけだ。そのはずである。いつもの日常が戻ってきたのだ。




