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坂の下の家  作者: 紙絵
野呂岳志 会社員

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5/6

元凶

 私はしばらくそのままソファに座っていた。

俺はこの移住先を家族以外、誰にも教えていない。あの女は、この家のことを知っているのか? まさか、そんな事はあり得ない。

きっと、服に引っかかってたか、ポケットにでもはいってたんだ。

そう言い聞かせて俺は立ち上がった。



ガチャ

「ただいま」


なんだか家の中が静かだ。妻はソファに座っているようだ。

「どうした?」

私は声をかけた。

「ううん。は、早かったのね」


何やら真剣に見ていたようだが……


「ああ。先に風呂入ってくる」

私は直接浴室へと向かった。


湯船にゆっくり浸かる。至福の時間だ。

それにしても、あれから彼女とは連絡を取っていない。

この家にあの女の私物があるとは、不快感が足元から這い上がってくる。


少し浸かりすぎたようだ。考え事をしながら入るものではないな。


のぼせ気味で椅子に座る。私が顔を洗っていると、浴室のドアがいきなり開いた。


なんだ? 美恵子か?


急に首に何かが巻かれ、強い力で引っ張られた。私は目を瞑ったまま、されるがままになっていた。抵抗したいが、のぼせている上に、手は石鹸で滑る。


「ゔゔぁ」


自分の口からうめき声が漏れる。目の前が真っ暗になった。


いつまでそうしていたのだろう?

肩を掴まれてる揺すられている。必死で私を呼んでいる。健?

意識が朦朧としたまま、私はまた暗い世界に堕ちていった。



次に目覚めた時は、病院のベットの上だった。知らない天井を見上げる。白いカーテンで囲まれている。ふと花瓶の花が目に入った。黄色の花が枯れかけている。美恵子が置いてくれたのだろうか……喉が渇いた。


私は身じろぎし、ナースコールを押した。



刑事が二人、私の元にやって来た。

「事件の捜査をしている、金城です」

背の高い方が私に名刺を渡す。

「同じく、山田です」

背の低い方は礼をする。


「意識が戻って本当に良かったです。早速で申し訳ないんですが、お聞きしたいことがありまして」

金城という刑事が申し訳なさそうな顔で私を見た。

「犯人の顔は見ていますか?」



しばらくして、妻が病院へやって来た。警察に疑われていたと聞いた。疲れているように見える。


「美恵子……」

「意識、戻ったのね」

「あぁ」

「……犯人、本当に見てないの?」

「あぁ」

私は答えた。



不審人物は健を刺そうとして逃げられ、その後、姿を消したらしい。

浴室の天井に潜んでいたなんて、思いもしなかった。私達の入居前に、である。なぜ入れたのか、業者は警察から管理体制について厳重注意をされたらしい。当たり前である。


事件はしばらく、この小さな町を賑わしたが、その後の台風のニュースでかき消えていった。この辺りも強い雨が連日降り注ぎ、一時川の水がかなり増水したが、被害は無かった。



ガチャ

「ただいま」


いつものように、私は自宅へ帰宅する。


今日も三人で食卓を囲む。

鍵も変えて、この家にいるのは三人だけだ。そのはずである。いつもの日常が戻ってきたのだ。

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