表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
15/17

第十五話

パスワードを忘れてしまってログインが出来ませんでした。

再発行しました。

ごめんなさい。

いつも通りに悪夢を見た。

うたた寝すらも安らかに貪れないとは、難儀な体と精神だ、と「先生」はよく溢していた。

白い部屋の中、僕に、僕なんかに、同情なんて向けられるような豪胆な人間は他にいなかった。

しかもどうやら先生は、自分のそれを、豪胆さならず彼を彩るあらゆる肯定的な部分に対して無頓着で、無関心でいた。

辛さなんて感じる脳味噌の構造ではなかったので、先生もそれを人に向けるような人間だとは思っていなかったので少々虚を突かれた形になった。

貴方も同じだったでしょう、むしろ、僕よりもずっと酷かったでしょう、僕とは違う、僕は「彼女」に誘発される形でこの異常性、病を悪化させ、この「病院」に運ばれてきた訳だけど、貴方は違う、清く正しく堕ち、殺して、ずっと苦しんで。縋る物も無いんじゃ地獄でもまだ遠い。そんな、らしくもない慰めなんてかけたりした。

生まれた頃から側にあった異常性、それを失くした気分はどうでしたか、なんて意地の悪いことを言って、反応を見たりもした。

それは、お前、お前、聞くものじゃない、こんな気分を、言葉にさせるんじゃない、違う、俺は一向に構わないんだがな、それだと、お前に聞かせてしまうとお前、治療を嫌がるだろう、良い気分だがな、ここに来る前に俺は「突発性逃避行依存症」を寛解させたりもしたが、それはな、陽一、今までの人生の否定でな、人間性を失うということだ。すっからかんになって、何も無くなり、異常が無くなったからこその苦しみが待っている。

最初から異常な奴が、正常なんて求めない方が良いんだよ。でなければ過去の自分を恥じ、憎み、後悔して、消したくなって、消してしまう。

そんなことを、焦りもせずに返してきた。

悪いことをしてしまったかな、とまた僕らしくもなく反省してしまったり、気を遣ったりした。

結局、子供らしい気遣いは必要無かったけれど、僕は数分のうたた寝でも夢を見る。

夢を見ない日は無い、どんなに疲れていてもどんなに深く眠っていても、必ず、似たような夢を見る。

決まって悪夢で、それは酷く醜い世界、この世界の綺麗な場所を取り除かれた、最悪の場所。

いくら見ても慣れぬこの世の成れ果て。

そこから起きる時、気分が良い訳が無いのだ。

僕は五分程度眠っていた。

服屋でだ。

店員さんも起こしてくれれば良いのに、大量に商品を買い込む僕達を上客と判断したらしく、そっとしておいたらしい。

暮ちゃんが起こしてくれて、二人も少し回復して共に僕を起こしにかかり、その苛烈な体の揺さぶりで目を覚ました。

「財布を持っているのはディエスちゃんなんですから、先に会計してくれて良いんですよぅ?」

「勝手に使って怒られたくない。拷問は勘弁よ。」

「僕はそんなことしません。仲間に拷問だなんて、とんでもない。」

僕は服の会計を済ませて、店を出る。

会計の前に店員さんに、学ランを直してくれないか頼んでみた。

魔獣に喰われて以来腕の所がすっかり無くなっているのだ。

それを元通りに出来ないかと駄目元で訊いてみた。

勿論無理だった。

そもそも同じような生地が無いということだ。

逆にどこで買ったのか質問攻めを受けた。

とりあえずこの店では無理らしい。

「ですよねぇ。」

仕方ないから去ろうとした所、店員さんに呼び止められた。

「何です?」

「この店は普通の店ですので、その服の修繕は出来ませんが、それでしたら向こうの細道の先の青色の屋根の店に行ってみてはいかがでしょうか。」

指した細道は細いけれど、しっかりと舗装されている。

小さなランタンを吊るした街灯すらあるのだ。

「・・・はぁ。そこなら直るんですかぁ?」

「そういう店ですので。『技能』で物体の時間を戻すんです。」

「成程ぉ。」

そんなこと出来るのか。

僕はお礼を言って店を出た。

三人は既に道の端で待っている。

シャルル君は目が覚めた時に既にいなかった。

暮ちゃんから訊いた所によると、シークさんが連れて帰ったらしい。

たった五分足らずであの性格の子を穏便かつ素早く連れて帰るのは大変だっただろう。

「お別れの言葉とか言いたかったですねぇ。」

「思ってもないことを言いやがる。」

「よく分かりましたねぇ。」

素直に関心したつもりだったけれど、舌打ちをされた。

皮肉と捉えられたのだろう。

「この後ちょっと寄りたい所があるんですけどぉ。」

「あぁ、それくらいなら良いわよ。どうせ宿に戻ってもやること無いし。」

「お勉強とかどうですぅ?こっちの言葉、あんまり分からなくて苦労したでしょう?」

「シャルルはアレトラン王国の言葉が多少分かったから、結構不自由なく話せたわよ。」

「あぁ・・・。」

確かに普通にこちらが言っていることは分かっていたな・・・。

会話に口を挟んだりもしていたし、図書館でもかなり本が好きなようだったし、勉強熱心なのかもしれない。

店員さんに教えてもらった店は歩いて五分程の場所にあった。

こじんまりとしていて可愛らしい外見で、屋根は群青に近く、窓は丸い窓が一つ。

この国の文字で「修復屋」という実直な名前が掲げられている。

「付いて行ってもよろしいですか?」

「別に良いですけどぉ、多分つまんないですよぉ?」

「構いません。」

アロト君とディエスちゃんの方を見る。

「俺はパス。」

「私もパス。」

でしょうね。

僕と暮ちゃんは学ランを片手に店に入る。

店にはエプロンを身に付けた男性が一人、カウンターに座っていた。

気怠げに、重たそうに瞼を開いている美青年だ。

髪の毛は蓬髪に近く、青い。

深い青色。

深縹色の髪の毛と、それと同じ色の瞳で、カウンターの一点を見詰めている。

何だか、酷く、侘しくなってしまった。

それは郷愁に近い感情だった。

「こんにちはぁ。今、お店、やってますかぁ?」

「・・・あァ、やってるよ。仕事かィ?」

そう言って立ち上がる。

「はい。これ直せますかぁ?」

青年の名札には(この世界にもこの画期的なシステムがあるとは!図書館にも、先程の服屋にも無かったというのに!)この国の文字で「ヘルム」と記されている。

「ヘルムさん、って言うんですねぇ。」

「あァ、そうだけど、何だ?」

「いえ、格好良い名前だなぁと。」

「どうも。」

手で示された場所に学ランを置く。

それを見て、「じゃあ、これでどうだ。」と指を立てる。

どうやら金額を示しているらしい。

さっぱり分からない。

「他国の人間ですので、知らないんですぅ。」

「そうか。じゃあ2,000リーブルでどうだ?」

「良いですよぉ。直るんでしたらぁ。」

「良いのか。」

驚かれた。

その眠たそうにうつらうつらと開いていた瞼を一瞬、刹那見開いた。

しかしすぐに戻った。

「高いんですかぁ?」

「まァ、安くはないな・・・よく文句を言われる。」

「でも2,000リーブルですよぅ?それで直るなら安い方だと思いますけどぉ・・・。」

時間を巻き戻す。

それが本当ならば継ぎ目すら無く服が直る。

それならば、2,000でも安いくらいだろうに。

「比較的誰でも持っている『技能』だからなァ。材料費もかからないってことで文句言われる。」

「大変ですねぇ。」

「先生も一度真面目に働いてみてはいかがですか?」

「嫌ですぅ。」

ヘルムさんはその骨ばった手を学ランに手をかざす。

「じゃァその値段にするが・・・後で文句は言うなよ。」

「接客業って苦労するんですねぇ。」

色々クレーム入れられるんだろうなぁ。

かざされた手が淡く光を放つ。

青い光だ。

それが学ランに降り注ぎ、服全体も発光していく。

段々と、学ランが元の形を取り戻していく。

数十秒で元の形に戻った。

「ほれ。」

「どうもぉ。」

僕はお金を払う。

それを受け取る。

机の上の綺麗な学ランを羽織る。

これでやっと、普通の僕になる。

「お似合いです。」

「ありがとうございますぅ。」

前のボタンもきっちり閉める。

「奇妙な服だァな。」

「転移者様から貰いましてねぇ。何でも、この服では目立つから着替えるとのことでぇ。」

「そうかい。羨ましいもんだ。」

「そうでしょう。ではぁ。」

「どうもありがとうございました。」

僕らは店を出た。

宿に戻るまでの道のりで、やはり先程よりも視線を感じた。

それが何だか嬉しかった。

人混みの中を迷惑に通りながら宿に辿り着く。

宿は今までで一番綺麗だった。

部屋も広いし、清掃も行き届いている。

そして当然のようにニ部屋取り、今回はディエスちゃんと同じ部屋だった。

「暮ちゃんと一緒が良かったですぅ〜。」

「私もアロトと一緒が良かった。」

「ジャンケンですから、致し方ないですよ。」

今回からジャンケン制に同室の人を決めてみた。

単純に、至極単純に、四人という仲間の中で、それぞれが更に親睦を深める機会になるかもしれないという、席替えとか、クラス替えに近い心理に基づいた行動だったけれど、次から廃止しても良いかもしれない。

こういう時に文句を言わないアロト君が恐らく一番大人である。

同室になったディエスちゃんは自分のポケットから服を取り出したり、本を読んだりしている。

「あぁ、図書館に本、返さないと・・・。」

「借りパクしちゃえば良いんじゃないの?どうせ他国に行くし。」

「冒涜ですよぅ、それは。」

明日にでも返しに行こう。

忘れてしまいそうだから。

ディエスちゃんはつまらなそうに本を読んでいる。

顰めっ面で、まぁ、マナーの本なんて、面白くもないだろう。少なくとも娯楽向きではない。

「何か誦じることも出来ますけどぉ、何が良いですかぁ?」

「へえ。異世界の文化に触れられるなんて、光栄ね。難しいのが良いわ。」

「難しいの?」

芝居がかった会話だ、と思った。

同時に、その、「難しいの」という要求に、少なからず首を傾げずにはいられなかった。

「そう。難しいの。とびっきりよ?」

「それは構いませんし、いくつか心当たりはありますけどぉ・・・何でです?」

ディエスちゃんはふ、と鼻で笑うように、ニヒルを気取ったような笑みを見せた。

「寝物語に丁度良いでしょう?」

それから数十分は経っただろうか。

「ねぇ、今のもう一回話して。なんて言ったのよ。」

「えー?もう一回ですかぁー?面倒ですねぇ・・・えーっと・・・。」

「早くしなさいよ。眠れないでしょ。」

「いや終わるまで聞いてるつもりですよねぇ?これ原稿用紙1,500枚あったって言われてるんですけどぉー。日が昇りますぅー。」

「夜は長いわ。」

胎児よ胎児よ何故躍る母の心が見えて恐ろしいのか。

その言葉から始まる日本が誇る三大奇書。

それを(そら)じるのはそこそこ骨が折れることだ。

「胎児の夢まで言いましたっけぇ・・・夜がここまで長い日は初めてかも・・・。」

「意外に馬鹿にならないものね、そっちの文学も。」

「当たり前ですよぅ。で、えーっと・・・。」

「ねぇ。」

いつの間にか、寝台に寝転がっていた筈のディエスちゃんが、身を起こし、座っていた。

寝台に同じく寝転がる僕を、見下ろしていた。

その瞳には、かつてどこかで見た、いつ見ただろうか、じんわりと心と呼ばれる器官に、お湯のように染み渡る、特に傷口に、血液滴る生傷に染み込んで抜けない、思わず拒絶を忘れてしまう、悲しい、悲しくなる、涙が出て、はぅはぅと嗚咽を吐き出すしかできなくなる、だからやめて欲しい、そう叫びたくなるような、遠回しで、探ろうとしてくる、優しさと、親愛があった。

いきなりだな、とも思ったけれど、きっとディエスちゃんにとっては頃合いだったのだろう。

「あんたって、哀れだわ。本当に、救えないわ。」

「知っています。僕は救えない、報われない、向いていない。だからどうしたんですかぁ?」

優しさも慈愛も、向けられれば向けられただけ逃げてきた。

物理的ではない、心理的に距離を取ってきた。

寂しい生き方、哀れなものだろう。

それを見透かしているのだろう。

彼女は伊達にその便利な『技能』だけで雇っている訳ではない。

その精神性と、適応力、性格、その殆ど全てを買っているつもりだ。

「あんたを見ていると、切なくなってくる。悲しいとか、淋しいとか、そんな言葉じゃおおよそ足りないわ。もっと尊大で、強大で、絶大な言葉が必要になるような、とにかく、人間の最底辺を見つめているような、悪い奴の気分になってくるのよ。」

「どうぞご自由にぃ。好きにして感じ取ってくれて構わないんですよぅ?」

「ほざきなさい。私はね、これでもね、充分、あんたに信頼と親愛を寄せているつもりなのよ。だから気になるの。あんたって、何を支えにして生きている訳?例の探し人を探し出したとして、どうしたい訳?どう、生きていく訳?」

鋭い視線だった。

先程まで幼く真剣に「ドグラ・マグラ」の暗唱を聴いていたとは思えない、鋭利な視線だった。

一歳しか歳が違わないのに、こうも精神的に成熟度に違いがあるものか、そういえば、女子の方が精神が成長するのが早いというのは、どこかで聞いたことがある気がする。

あれは迷信か、俗信だったかしら。だとすれば、これは単なる偶然になるのかな。

「・・・心配、してくれているんですねぇ。」

「好きに考えてくれて結構よ。もっと言えば、道半ばに諦めて、雇用主のあんたが自決でもしないかと肝を冷やしているの。答えなさい。」

腕を組み、足を組んだ姿は心配しているとは思えないが、きっと心配してくれているのだろう。

「僕はねぇ、そんなことはしませんよぅ。何度も言いますけどぉ、「彼女」は僕を置いて行きました。僕に希望とも言えないような置き土産をしていったあの子は、僕に結局、何一つとしてさせてはくれなかった。あぁ、精神的な奉仕という意味合いです。僕はそれが堪らなく口惜しい。必ず、追いつきたい。そして、殺してしまいたい。それは変わりません。死ぬだなんてとんでもない。ここまで生きてきた意味が無いじゃないですかぁ。」

「その考えが揺らぐことを警戒してるのよ。あんたってば、行動どころか発言まで揺らいで、傾いて、裏返って、変質して、信頼ならないったらありゃしないんだもの。」

「あれ、さっき信頼してくれているとか言ってましたよね?」

「嘘吐いたのよ。」

なんて悪い奴だ。

「ねぇ、気が付いてないの?私はあんたがあんな所で、人も居る店内で眠るようなことは、絶対に無いと思っていたわ。本当に眠っていたのね、私がナイフを突き付けても目覚めなかった。異常よ?何があったのかは知らないけど、何かしら、あったのね、疲弊することが。それに自覚が無いから嫌なのよ。」

ナイフを突き付けられた。

僕はそれに気が付かなかった。

多分、人間不信を極めた僕ならば、飛び起きたと思う。

疲れている自覚はあった。

らしくもないことを繰り返して、開き直るような形で自分を納得させたけれど、暮ちゃんを「彼女」の代替にしてしまっていることも突き付けられて。

精神的に疲弊していたことは否めない。

しかしそこまでか。

だからこそか。

一人納得してしまった。

「よく店員さんに怒られませんでしたねぇ。刃物なんて出して。」

「金払いの良い客は大歓迎だったみたいよ?」

「一説によると、それは賄賂と呼ばれるものらしいですよ?」

「諸説があるでしょ。」

「そんな訳無いでしょう。」

勝手に払ったら怒られるーとか言っていたのにそんなことにお金使ったのか。

別に良いけど。

「封鎖されている先に向かうということは、魔族もいる筈よ。私とアロト、そしてクラシを守れる戦闘力があるのはあんただけ。・・・守り切れる訳?」

「・・・まぁ。」

「不調で死んじゃいました、なんて事態にならないようにしてよ?」

「当たり前でしょう。」

僕は依然寝転んだまま笑って見せるが、どうにも信用されていないようだ。

暫く見つめ合う。

互いに無言のまま、黙りこくって、鍔迫り合いに等しい時間が流れる。

自然とディエスちゃんが折れた。

溜息を深く大きく吐き出す。

「で、何があったのよ?」

「・・・それ、言わなきゃですぅ?恥ずかしいんですけどぉ。後で後悔するの分かり切ってるし。」

「だから何よ。人に言ったら楽になる悩みもある、と思う。アロトが言ってた。」

「君はどう思うんです。」

「そんな小さな悩み持ったこと無い。」

まぁそうだろうなと思った。

口には出さなかった。偉いと思う。

きっと言ってしまえば軽蔑してくるだろう。

侮蔑に満ちた瞳を向け、僕を叱咤し、説教し、部屋から叩き出して暮ちゃんに謝罪させるかもしれない。

昼間飲み物を買う為に殺した人に口だけ同情して見るかもしれない。

それは僕の望む反応だ。

「・・・駭目すべき天変地妖、または自然淘汰。」

「?」

「生存競争から受けてきた息も吐かれぬ災難、迫害、辛苦、艱難に関する体験を、胎児自身の直接、現在の主観として、さながらに描き現して来るところの、一つの素晴らしい、想像を超越した怪奇映画である。」

「・・・何よ。」

「何って、続きですよぅ。ドグラ・マグラの。途中でしたよねぇ?」

一瞬、全ての表情が消え去ったように感じられたが、それは単純に驚いて、感情と表情筋の繋がりが無くなっただけだった。

すぐに表情を取り戻し、僕の頭を叩く。

「怒りましたぁ?」

「とってもね!続き!!」

そう言うと布団に潜ってしまった。

僕も改めて布団を被る。

天井が見える。

目を閉じるのも、何だか億劫だった。

「・・・・・その中には、既に化石となっている有志以前の怪動植物や、または、そんな動植物を惨死、絶滅せしめた天変地異の、形容を絶する偉観、壮観が、そのままの実感をもって映写し出されることは言うまでもない。引続いては、その天変地妖の中に、生き残って進化してきた原始人類から・・・」

何となく、ディエスちゃんのしたいことが分かってきた気がした。

ディエスちゃんは、僕を励まそうとしていたのだろう。

僕が本が好きで、太宰治や坂口安吾、それだけではない多くの文学者を好むのは、文学、本そのものを好むのは図書館でも知っているところ。

人は自分の好きなものに興味を持たれると、例外はあるものの、他人に話せるというのは喜ばしいものだ。

そういう方向で、僕を元気づけようとしてくれていたのだ。

難しいものを頼んだのは何故かは分からないけれど、何かしら考えがあったのかもしれない。無かったのかもしれない。

どちらにしたって、同じ部屋になったからには辛気臭いのは嫌だったのだろう。

精神的な負担による疲労を取り除こうとしたのだ。

僕が捻くれているから、素直に心配してもあしらわれる。

施しは受けないし、精神的な安らぎは簡単には得られない。

出来る限りのことを、年下の子が真剣に考えてくれたのだ。

浅ましい奴だ。

そんな奴が、隣の寝台で、布団にくるまって、都合の良い想像ばかりしているのだ。

本当に嫌な奴だ、と改めて思い知る。

本日二回目の入眠はいつもと同じだった。

どろどろとした半液体みたいなものが胸中に広がるような入眠。

意識が溶けていくような感覚。

起きるなり怒られたけど。

「あんたうるさい!何なの眠っている間ずっと暗唱してたわよ!?怖くて話し掛けられなかったし・・・しかも何かちゃんと誦じているぽかったのが余計に・・・!スチャラカチャポコが頭から離れないの!」

「え、そんなことしてたんですかぁ?」

「そうよ!二度としないで!」

「寝言なんですけどぉ・・・。どうしろと・・・。」

「布でも噛んでおきなさい。」

横暴だった。

次からはそうしよう。

朝になってからは、昨日まで後ろ辺りに感じていた精神的な、物体的な質量を持たない倦怠感が薄くなったような気がした。

本気で疲れていたのだろうと思った。

過ぎてからやっと自分がどれほど消耗していたのかを実感するとは、つくづく人間としての能力が低い。

封鎖が一時的に開かれるのは昼間。

遅れて通れないとなると面倒なので早め早めに行動する。

食事を終えるとすぐに宿代を払った。

しかし行く途中でつい、何だか気になって新聞を買ってしまった。

いっつも新聞を買っている気がする。

新聞には、あちらの世界でも論じられていたような政治的な内容と共に、この街や隣の街における奴隷商が大量に殺されたという事件が載っていた。

人間の奴隷達が起こした反乱らしい。

逆に、魔族の奴隷と思われる存在については何も載っていなかった。

秘匿して殺したのか、見つからないように逃げたのか、はたまた別の何かか。

どうでも良いことだ。

主犯の奴隷の顔のイラストが載っていた。

その顔はどこかで見たことがあるものだった。

どこで見たのかが思い出せなかった。

無欠の記憶力を誇ると思っていたけれど、相当興味が無かったのかもしれない。

すると、隣から暮ちゃんが覗き込んできた。

「この人、昨日の人ですね。」

「昨日の?会いましたっけぇ?」

「・・・魔族の奴隷を助ける時に一緒に助けた人です。ほら。あの時の。」

「・・・あぁ。」

思い出した。

あの時、やけにギラついた子がいた。

僕が鍵を手渡したその子。

虚弱のように見えた、生命への炎が燃え上がっていた、奴隷少年。

彼が、僕と奴隷商の会話を聞き、その場所を覚えていて、他の奴隷と共に襲ったのだろう。

首謀者含めて皆死亡したと記されている。

彼らはきっと満足して逝った訳では無いだろう。

「これを狙っていたんですか?」

「・・・さぁ?正直今まで忘れていましたからねぇ。違うかも。」

「そうですか。少なくとも、私はこれを狙っていると思っていましたよ。」

「どんな人でなしですかぁ。」

からからと笑ってみたけれど、僕もそう思う。

こうはなりたくはないなぁ、と言って新聞を畳む。

こういうことを言うから駄目なのだ。

「これ、どうぞぉ。」

「え?あぁ、どうも。」

近くにいた人に新聞を渡す。

この国はゴミ箱が全然無いからだ。

僕は新聞がこの手から離れた瞬間、奴隷だった少年に対する一切の感情と記憶の中にある映像を捨てた。

何も感じなかったから。

「というか、この国の言語、わかるようになったんですかぁ?」

「これでも数日滞在していますからね。記憶喪失の赤子のような学習能力を舐めてはいけません。」

「自虐ですかぁ?」

「別に気にしていませんから。」

そんなことを言ってまた進む。

遅ればせながらだが、描写し忘れていたので描写する。

僕が時折普通に買い物が出来るのは、一定の金額を入れた、貯金とは別の財布を持っているからだ。

最も、これもそこまで大きな金額は入れていないので、基本的には買い物はディエスちゃんがいる時ばかりだけど。

僕はスリにも気が付けないからなぁ。

途中で面白い物も買った。

「魔族の能力封じ、ですかぁ。」

「正しくは魔力の流れそのものを阻害するんだ。人間にも効くよ。」

「諸刃の剣過ぎるでしょう。」

「魔族に発動出来るものではないさ。実質人間の為の武器だ。」

それは大きな腕輪だった。

材質は分からないけれど、光沢がある、黒い腕輪。

その中央に妖しく光を反射している宝石が嵌っている。

「・・・これ、鞭みたいな形状の物もあったり?」

「あるよ?でもそういうのは効能が少し違うから奴隷商とかがよく使っているかな。うちでは取り扱いは無くてね。」

「あぁいえ、大丈夫ですよぅ。お気になさらず。」

昨日似た雰囲気を纏う道具を見た。

奴隷商の道具だし、壊せって言われたから何かまずい物なんだなって思ったけど、奴隷でもない人間に使おうとしたのか・・・。

「正直先生はそれくらいのことはしたと思いますしね。先生がいなければ、あの奴隷商さんも死ななかったでしょうし。」

「え、死んだんですかぁ。」

「新聞読みました?」

「読んだ筈なんですけどねぇ・・・。」

正直興味が無いから流し読みしただけだった。

「というか人の心読まないで欲しいんですけどぉ。」

「顔に出ていました。」

アロト君が怪訝そうに舌を出す。

「まじか?こいつ全く表情変わらねぇだろ。ずっと笑顔でキメェ。」

「次言ったら叩きますよーぅ。」

「痛そうだな・・・。」

「この人殴打で人を殺せますよ。」

「おい俺に近付くな!!」

避けられた。

全力で離れられた。

僕はひとまずその腕輪を一つ購入した。

魔族がいる可能性も否定できないし、不意打ちで決められれば話は早い。

いちいち拷問して心を折る時間も、僕では戦闘力が足りない可能性も否めないのだから。

「あぁ、買ったのか。」

「えぇ。あれば便利ですしねぇ。」

「使い方を教わっておきましょう。」

「あ、そういえばそうですねぇ。」

売ってくれた時にも思ったけれど、この人も含めて商人や店員というのは人が良い人が多いらしい。

僕はあちらの世界で何度か愛想の無い、態度の悪い店員に会ったことはあったけれど、こちらではあまり見た事が無い。

まぁ奴隷商は別だけど。

使い方は簡単だった。

呪文を唱えて、腕輪を嵌めさせるだけらしい。

「僕魔力には自信がないんですけどぉ、それでも大丈夫そうですかぁ?」

「腕輪に魔力が組み込まれているからね、平気さ。赤子でも使える。」

腕輪は僕の手の中で妖しく光り続け、主張を続けている。

これそのものに魔力。

僕にはそういうものは感じ取れないけど、そういう物なのだろう。

「それでも魔族は使えないとは、不思議な代物ですね。」

「魔族の魔力は特殊だからね。使おうとすると腕輪が壊れる」

「その場合の修繕費は保障して貰えるのでしょうか・・・。」

暮ちゃんが真剣に悩んでいる。

別にそんなこと気にする必要は無さそうなのに。

また買えば良いし。

「良い買い物が出来ましたねぇ。では〜。」

「あぁ、またな。」

買い物は無事終わり、封鎖区域に辿り着いた。

暮ちゃんの「地図無用」の設定を変えてみれば、確かにこの先は封鎖地域だと表示されている。

あの王女様と女王様は、きちんと仕事をしてくれたらしい。

ただ封鎖を解くのではなく、人払いまでしてくれたらしいのだから。

お陰で何も気にせずに歩ける。

封鎖区域は木々の少ない森。

この所森ばかり歩いている。

凹凸が多く、草木も腰の高さまで生えている。

どれもが青々と生い茂り、輝くような生命力を示している。

手で引き千切りながら歩く。

暫くすると、恐らくこの先が通れないようになっているのだろう、と思える地点に着いた。

「・・・柵?」

「大きいな。」

「そうですねぇ。」

それは、4メートル近くある鉄製のような柵だった。

右を見ても、左を見ても続いている。

その柵には札らしき物や鈴、紙垂、有刺鉄線、僅かに光る球体など、多種多様な物体が取り付けられている。

「・・・これが、封鎖。」

「どうやって通るのかしらね?」

「通れる場所があるんでしょう、きっと。」

永遠に続くと思われるような柵、もはや堅牢な檻にさえ見えるそれの周りをうろつく。

向こう側は多少開けた場所になっているが、あちら側には何も見えない。

とりあえず右に歩いてみる。

三分程歩く。

その途中で焚き火の後や張ってあるテントを見付けた。

普段は誰かが見張っているらしい。

「お、あったあった!」

アロト君が声を上げる。

そこは扉だった。

簡単な物で、最も厳重である事が容易に想像出来る。

そこは周囲にがんじがらめにする為であろう南京錠や鎖もあり、圧迫感と執念のようなものが形になっていた。

それも全て、権力という正義の名の下で無に帰している。

「通りましょうかぁ。」

「そうしましょう。」

四人で順番に通る。

きぃ、と金属同士が擦れる音が鳴る。

扉をくぐった先は開けている。

「・・・じゃあ、早めに抜けましょうかぁ。早めに魔王様の所に向かいましょう。」

「魔王野郎くらいで充分じゃない?」

「女性の可能性も否定できませんよぅ。」

「そんな魔王聞いた事ない。」

「日本人の萌え美少女化を舐めない方が良いですよぅ・・・?本当に・・・。」

腐る程あるわ。

ふと、上から、ピリピリとした何かを感じた。

受信した、感受した部分と呼ぼうか、そこの皮膚が引き攣れるような感覚。

寒い、その部分だけが冷たい、そういう局所的な危機感。

そこは首だった。

僅かに皮膚が切れた。

生ぬるい液体が重力に従って伝う感覚。

条件反射で屈む。

僕の目の前の木が倒れた。

轟音が響く。

「・・・誰です?」

こういう時、どういう反応をするべきなのかと問われればきっと、心臓を高鳴らせ、嫌な汗を伝わせ、全身の筋肉の制御を失い、体を震わせるべきなのだ。

しかしそのどれもが、僕の体に起こっていない。

ただ、漫然と背後を向く。

それに呼応するように三人は僕の後ろに移動する。

そこには見た事が無い男性が立っていた。

大きな、何だろう、あれ、刀なのだろうか。

刀の鍔のような物があるが、刀身にあたる部分が三つに分かれている。

黒い髪の毛で、ほんのり光る真紅の双眸で僕を見ている。

その口は極限まで半月型になっていて、その中切歯から第二小臼歯に至るまでの、見える限りの全ての歯が恐ろしく尖っているのが察せられる。

悪魔、魔族、魔のつく全ての生物のイメージは、きっとあの男に直結するのだろう、そう思わされる粗暴さと凶暴性が、視覚的に伝わってくる。

「・・・何あの武器、気持ち悪っ。」

「うわ本当だ。気色悪ぃ。」

「アロト君、ディエスちゃん、思っても口に出さない方が良いこともこの世には山ほど存在していますよぅ。」

きっとあの武器を格好良いと思って振るっているのだろうから。

「・・・お行儀が良いんだなーァ。」

「?何ですそんな突然。」

「いいや?その歳で、「ちゃん」?「君」?丁寧っつーかーァ、何っつーかーァ。ホルへを殺した割にゃ大人しそうな奴だ。転移者はもっと我が強い奴ばかりなんだがなーァ。」

僕は何も言わない。

下に見られている、というよりも、単にこちらの実力を測りかねているのだろう。

だから強気な姿勢を見せて、簡単に攻撃に転じることが出来ないようにしている。

膠着状態に持ち込もうとしている。

互いに実力が分からないから。

「ホルへさんを殺したのは、そっちの方だと聞いていますけどぉ。」

「あ、お前どっから聞いた?そんなの公になってねーェぞ?」

「生憎馬鹿に説明できるような高尚な脳味噌は持ち合わせておりませーぇん。」

魔王軍なのはもう分かり切っている。

三人には戦闘能力は無く、再生やダメージを無効にできるのは四人中二人。

僕がヘイトを引き受ける。

そして、殺す。

それだけだ。

首をさする。

傷は既に無い。

「・・・ディエスちゃん、あれ出して。」

「はい。」

腕輪が手に落ちる。

黒光りする腕輪。

「・・・これ、もう一つくらい、買っても良かったですかねぇ。」

口の中で、下を小さく動かし、呪文を唱える。

「・・・エスラーヴ・クネヒトシャフ。」

呪文に反応してか、腕輪が膨張する。

一本の金属の、細長い板のような形になる。

腕輪の形ではなくなる。

これを腕に触れさせれば良いのだろう、ということは分かった。

「三人は下がって。」

「言われずとも、私以外は既に。」

柵の向こう側にいた。

「暮ちゃんは?」

「私は・・・いえ、あんなの当たりません。」

「そうでしたかぁ、そうでしたねぇ。」

僕は微笑む。

僕を見上げる暮ちゃんの表情は、変わっていない。

「おいおいモテモテかよーォ。羨ましいッ!俺にも紹介しろよなーァ!」

「羊か何かで良ければぁ。」

僕は駆け出した。

地面を強く蹴った。

地面が抉れる感覚が、飛翔の瞬間に神経を通して伝わってきた。

それでも構わなかった。

驚いたような表情、その眼窩から眼球が零れ落ちそうだと思えて、少し面白い。

距離を詰めるのには数秒も要さなかった。

もう目の前にいた。

その剥き出しの腕、僕は右手に持っているので左手を狙った。

鞭で手首を叩くように、その腕輪を叩きつけようと振りかぶり、空気を裂き、腕輪がうねる。

「お前よーォ、舐め腐っていないかねーェ?魔王軍、その幹部をよーォう。」

腕に、鋭い、鈍い衝撃が走った。

「発動は、出来ねーけどよーォ、付けることは出来るぜーェ?」

その刀の先で思い切り腹を突かれる。

すぐさま体全体で重力を感じ、真後ろに引っ張られるように吹き飛ぶ。

柵に激突し、がしゃんがしゃんという音と、装飾されていた様々な物体が揺れて、ぶつかって、激しく、けたたましく、僕の耳をつんざく。

「・・・あー・・・そういう・・・。」

「ちょっと!あんた何してんの大丈夫!?」

「いや大丈夫じゃないだろ!でも未だかつて見たことねぇよその腕輪逆に付けられる奴!」

「君達後で覚えていて下さいねーぇ・・・。」

しかし突かれた腹は確かに血液を流し、どくどくと脈打つような感覚がある。

再生しない。

何なら、先程動いた分も全く再生しないし、回復しない。

「先生。」

呼びかける気も無いような控えめな音量。

今彼の最も近くにいる少女は、街中にいるように平然と立っている。

「ご無事ですか?」

「・・・はい、勿論ですよぅ。なーんにも問題なんてありません。」

立ち上がる。

血潮が吹き出る。

地面が濡れる。

「うえーェ、痛そ。やめろよそういうの。」

「そう言われましてもぉ。」

この場には暫く誰も来ないだろう。

しかし誰かが来ても「自己再生」が発動すれば厄介なことになる。

誰かが来る前に短期決戦を決めようと思えばこのザマだ。

嫌になる。

「立つのかよ。あんたあんなのと一緒にいるのかよーォ。俺の刀よりもキモくねーェ?」

「素敵な方ですよ。とても。」

「嘘だろーォ?」

「酷い言い草ですねぇ。」

腹を撫でる。

止血だけでもしたいけれど、どうせ無駄になるだろう。

「自己再生」が封じられた以上下手な動きは出来ない。

今度こそ死んでしまう。

死ぬにしたって、暮ちゃんと、そしてアロト君、ディエスちゃんは逃がしてから死にたい。

そうしたい。

「・・・僕は陽一と言います。あなたはぁ?」

「あ?あーァ・・・名乗っても良いのかねーェ、これ・・・。」

「どうせ死ぬのですからお構いなく。」

「じゃあ良いかーァ。俺は魔王軍幹部が一人、トテップ。魔王軍屈指の刀使いだぜーェ。」

その気持ちが悪い刀を振り回す。

空気が揺れる音だけが鳴っている。

暮ちゃんは微動だにしない。

振り回される刀をただ見ている。

間近で刀が動いているというのに。

「・・・アロト君、ディエスちゃん、とりあえずその扉を閉めて下さい。」

「え、良いの?」

「暮ちゃんには攻撃なんて効きませんし、僕も多分大丈夫ですからねぇ。」

「・・・あんたって嘘下手よね。」

そう言いながらも、察して扉を閉めてくれる。

上から来られては意味が無いけれど、障害物の一つにでもなってくれれば良い。

少し時間があれば良い。

それだけで良い。

それだけで。

「あ、じゃあ、僕殺されるんですかぁ?理由無さそうなんですけどぉ。」

「あァーん?理由あるだろうがーァ。ホルへあんなにしてーェ、転移者で。何で放っておくんだよ。しかも魔王様の所に向かってるって。幹部舐めるなよーォ?」

「多忙なんですねぇ。」

「そうなんだよーォ。魔王様頑張っても褒めてくれねぇしよーォ。」

そう言ってゲラゲラと笑い始める。

「だからーァ、お前殺してーェ、褒めて貰うんだよーォ!お前も人間なら分かるだろーォ?尊敬する人が自分を認めたら、そりゃ嬉しいだろーォ?」

僕は話を聞きながら、暮ちゃんの所に駆け出す。

そしてその首根っこを掴み、後ろに放り投げる。

「わぁ。」

後ろで暮ちゃんが地面に激突する音がする。

しかし音的に受け身を取ったのだろう。

少し安心する。

足と、腕、両方に違和感が走る。

ここに来た時も感じた、筋肉が捩れるような感覚。

もうあまり動けはしないだろう。

しかし、貴方だけは。

魔王軍の幹部であり、刀なんて振り回し、ホルへさんと違って物理的な強さを持つ貴方だけは。

「じゃあ貴方が褒められないように、僕が貴方を殺しまぁす。」

「・・・やってみろやーァ。」

僕はナイフを構える。

トテップさんも刀を握り直す。

相対する。

腹の血は流れ続ける。

腕輪は取れない。

いくら外そうとしても外れない。

このままで戦うしかない。

虚を突く作戦も、相手の動揺を誘う手も、僕一人ではどうにも出来ない。

暮ちゃんか、ディエスちゃんを巻き込むしかない。

一人ではどうにも出来ない。

巻き込む決意が必要なのだろう。

「どうぞよろしくぅ。」

「よろしくねぇよーォ!」

振りかぶる。

心の中で、あの王族二人組に対する恨みつらみをぶつける。

あの二人、封鎖している理由はこの男なのは知っていただろうし、僕とこの男をぶつけることを最初から企んでいたのだろう。

それで狙い通りに僕はこの男と戦っている。

「これでトテップさん殺したら、あの二人殺しましょーう!!!」

「珍しくキレてやがる!誰だその二人!!」

「余裕だなーァ!!」

長くは持たないだろう。

解除の仕方を聞いておけば良かった、なんて後悔するのはらしく無い。

僕らか、こいつか。

生き残るのはどちらか一方だけ。

その枠を譲ってなんて、やらない。

だってそれは気に食わないから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ