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第7話:「廃棄された王と13日目の失敗」

イワタの命を賭した爆音は、重い鉄の扉の向こう側へと消えた。


「……っ、う、うう……」


泣き崩れるクラの肩を、アキは震える手で支えることしかできない。


「……泣いてもあいつは戻ってこない。それより、これからどうする。指揮官はいなくなったんだ」


サイガの突き放すような声が響く。


カイトもまた、感情の読めない顔で「サイガさんの言う通りだよ。今は一歩でも先に進むしかない」と、機械的に同意した。


辿り着いたのは、天井の見えないほど巨大な、檻の並ぶ広場だった。

漂うのは、カビと鉄、そして古い死体の腐敗臭が混ざり合った、肺にこびりつくような悪臭。


檻の中には、歪んだネジや得体の知れない金属パーツが散乱している。

アキは、一つだけ扉が開いたままの檻の中に、ボロボロになった一冊のノートを見つけた。


そこには、ある「被験者」の絶望が綴られていた。



【実験記録:被験体212号】

1日目


嫌だ。やめてくれ。なぜ僕なんだ。

腕を機械に替えるなんて狂ってる。

先生、痛い、痛いよ。麻酔をしてくれ。

隣の211号が動かなくなった。僕もああなるのか。


4日目


左足がボルトで固定された。

痛みには慣れた。それより音がうるさい。

夜中、体の中で「カチ、カチ」と時計のような音がする。

先生は「今回も失敗の兆候がある」と不機嫌そうだ。


7日目


今日は肺をふいごに替えた。

呼吸をするたびに、鉄の匂いがする。

213号が運ばれてきた。

先生は僕を見ずに、213号の設計図を書いている。


10日目


腕が動かない。

失敗らしい。

熱い。


12日目


異音。

出力低下。

視界にノイズ。


13日目


失敗。

次。



「……人間を、なんだと思ってるんだ……」


アキが呟く。そこにあるのは「治療」ではなく「部品交換」の記録だった。

気味の悪い静寂に耐えかね、一行は先を急ぐ。



だが、その先の通路。

パチリ……と、まるで舞台の幕が上がるように、頭上の照明が点灯した。

そこに鎮座していたのは、巨大なライオンのアニマトロニクス――レオン。

目は潰され、全身は赤黒い錆に覆われている。


「ギギギ……」


首が動くたびに、錆びた鉄が削れる不快な音が広場に反響する。


一行は咄嗟に物陰に隠れた。目が見えないレオンは、音だけで獲物を探す「静かなる王」だ。


「……詰んだな。ダクトも隠れ家もない」


サイガが絶望を口にする。

だが、アキの指先に、固い紙の感触が触れた。イワタが締旗から回収し、死の直前にアキへ託したあのメモだ。



【■厳守事項:ライオン型「レオン」】

本機は製造から30年以上が経過しており、外装のラバーおよび内部配線が著しく劣化しています。特に以下の操作は、人命に関わる重大事故に直結します。

■水と電気の同時接触厳禁

本機に水がかかった状態で通電することは、絶対に行わないでください。

■予測される動作不良

水分によって基板がショートすると、安全装置が解除され、本機は当時の「演劇プログラム」を最大出力でループし始めます。

老朽化した油圧シリンダーは制御不能となり、射程内にいるものを「舞台装置」と見なして、凄さまじい力で叩き潰し、あるいは引き込みます。

■清掃員への警告

かつて、水拭き中に漏電が発生した際、人形は作業員の首を掴んだまま、幕が下りるまで「決めポーズ」を維持し続けました。

電源を落とすまで、その手は決して開きませんでした。



「やるしかない……!」


アキはリュックから水筒を取り出し、錆びたバケツに中身をぶちまけた。手にはイワタのスタンガン。


ミミが震える手で空き缶を投げると、レオンの耳がピクりと動き、音のした方へ巨体を向けた。


その隙に、猫丸がバケツの水をレオンの足元へぶちまける。

水が配線に触れた瞬間、レオンの瞳の奥で青白い火花が散った。


「……ッ!!」


レオンが狂ったように吠え、アキたちを認識して飛びかかる。

その鋭い爪が、サイガの横を掠めて背後の鉄柱を豆腐のように真っ二つに切り裂いた。


「アキ、今だ!」


サイガの叫びに応じ、アキはレオンの背後、剥き出しの基板へとスタンガンを叩きつけた。


「おおおおお!」


激しい放電と共に、レオンの巨体が痙攣し、やがて力なく沈黙する。


だが、安堵の時間は一秒も与えられなかった。



『警告:危険を察知しました。これより全シャッターを強制閉鎖します』



非情なアナウンスが響き、退路が次々と閉ざされていく。

クラたちがパニックに陥る中、アキだけは、その光景に「真実の恐怖」を見た。

レオンが狂乱し、周囲の鉄棒をなぎ倒していたあの数秒間。


カイトだけは、一度も狙われなかった。

カイトの目の前を巨大な爪が通り過ぎても、レオンは彼を、まるで「最初からそこには存在しない空気」のように無視していた。


アキは、親友の背中を見つめた。

そこには、逃げ惑う自分たちの必死さとは無縁の、不気味なほどの「静寂」があった。


(第7話 完)




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



クレジット:キャラ提供



光暗クラ  このキャラは@banirakokoaさんに作ってもらいました!!

ミミ    このキャラは@gekioko-punpunmaruさんに作ってもらいました!!

猫丸    このキャラは@nekomi611さんに作ってもらいました!!

兵司サイガ このキャラは@aisu1452さんに作ってもらいました!!



四名ともありがとうございました!!

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