第6話:「錆びた歯車と温かい血」
「……報告する。レナはロスト。……救出に向かったしめはたも、ラピスにやられた」
監視室に、イワタの凍てつくような声が響く。
「……は?」
カイトが、馬鹿力でイワタの胸ぐらを掴み上げた。
「嘘だ! 死体だって見てないだろ! あいつは……しめはたは、まだどこかで戦ってるはずだ!」
「……現場を見てきた」
イワタは動じず、カイトを冷たく射貫く。
「通路は、直視できないほどの血の海だった。……あれだけの血を流して、骨が砕ける音まで聞こえたんだ。……人間なら、即死だ」
「骨が砕ける音……?」
カイトの力が抜け、その手が離れる。イワタはさらに続けた。
「……だが、見当たらなかった。レナも、締旗だ。……肉体だけが跡形もなく消えていた。……奴らは、殺すだけじゃない。……何か別の目的で、”中身”を回収している」
「……っ、でも! スピーカーから、しめはたさんの声が……」
クラが震える指でモニターを指す。そこからは、機械的なノイズの混じった締旗の声が漏れていた。
『……痛いよ……助けて……カイト……アキ……』
「……違う」
アキが絶望に顔を歪める。
「……あれはもう、しめはたの喉じゃない。……鉄の喉が、あいつの”記憶”をなぞってるだけだ」
イワタが監視室の奥にあるダクトを蹴り破った。
「……一人ずつ行け。奴らが”回収”に来る前にだ」
「……アキ、カイト、クラ。ダクトの先で何を見ても、止まるな」
四人は埃の舞うダクトを這い、部品保管庫へと辿り着いた。そこで出会ったのは、B班の生き残り――兵司サイガ、猫丸、ミミの三人だった。
「合流した方が生存率は上がる。……行くぞ、離れるな」
だが、目前に広がる廊下は、永遠に続くかと思えるほどに長く、暗かった。
「……待て。足音が聞こえる。……伏せろッ!」
イワタが銃を構えた瞬間、背後で重厚なシャッターが降り、退路を断った。
振り返ると、通路の奥からコンクリートを溶かす「シュウゥゥ……」という嫌な音が聞こえてくる。カバのアニマトロニクス――バブルスが、口から強酸の淀みを滴らせて立っていた。
「走れ!!」
全力で廊下を駆け抜ける。イワタが放つ銃弾は、バブルスの煮え立つ口内へ吸い込まれた瞬間、飴細工のように溶けて無力化された。
ようやく辿り着いた広場の脱出用シャッター。だが、アキが狂ったようにスイッチを叩いても、機械は「ガガッ……」と空回りするような唸りを上げるだけで、ビクともしない。
「開け! クソッ、開けよ!!」
アキが拳を血に染めてスイッチを殴る。
その背後数メートル。バブルスが吐き出した消化液が床をドロドロに溶かし、アキたちの足元を包囲するように広がっていく。
もはや、銃も、逃げ場もない。
イワタの脳裏に、かつて見捨てたB班の戦友たちの断末魔がフラッシュバックした。
(………今度は、……俺が守る番だ)
イワタはアキの肩を掴み、無理やり自分の方へ向かせた。その手には、震えるほど重い愛用の銃があった。
「アキ、よく聞け」
周囲の爆音や悲鳴が、ふっと遠のく。アキの耳元で、イワタの低い声だけが響いた。
「◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯」
「イワタさん、何を……っ!」
イワタの顔から、軍人としての険しさが消えた。
一瞬だけ、誰かを慈しむような「大人」の顔に戻り、アキをシャッターの方へと突き飛ばした。
「……生きろ。アキ」
イワタは近距離用の爆薬を起動させると、ピンを抜く小さな金属音と共に、猛毒の涎を垂らすバブルスの喉元へと全力で踏み出した。
「死に損ないの軍人の、最後の仕事だ……!!」
ドオオオオオオオオオオオオン!!
鼓膜を蹂躙する爆音が、広場を真っ白に染め上げた。
通路の天井が粉々に砕け散り、巨大なコンクリートの塊が、バブルスの悲鳴ごとすべてを圧殺し、道を完全に封鎖した。
それと同時に、沈黙していたシャッターがようやく、ゆっくりと、無慈悲に開き始めた。
「そんな……イワタさん……ッ!」
泣き崩れるアキとクラ。B班の三人が呆然と立ち尽くす中で。
カイトだけは。
親友を救うために命を散らした男が消えた、その瓦礫の山を。
ただじっと見つめていた。
(第6話 完)
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クレジット:キャラ提供
光暗クラ このキャラは@banirakokoaさんに作ってもらいました!!
ミミ このキャラは@gekioko-punpunmaruさんに作ってもらいました!!
猫丸 このキャラは@nekomi611さんに作ってもらいました!!
兵司サイガ このキャラは@aisu1452さんに作ってもらいました!!
四名ともありがとうございました!!




