サラの帰還と、三冊目の地図帳
南部の海岸線調査を終えたサラが、ラメールに帰り着いた。
三ヶ月の旅だった。
食堂の扉を開けると、父と兄が向かいに座っていた。
兄のマルクスが「お帰り」と言った。
「マルクス兄さん!」
「やっと帰ってきたよ。親父から話は聞いてる。地図師になったって」
「なりかけ、だけど」
「地図帳見せて」
サラが鞄から地図帳を三冊取り出した。
マルクスがそれを開いた。一ページ、また一ページとめくっていく。
「……すごいな」
「本当に?」
「俺は出稼ぎで東の街道を何度も通ったことがある。でもこんなに細かく記録したものは見たことがない」
父が「だろう」と自慢げに言った。
「父さん」
「お前が自慢なんだから仕方ない」
三人で夕食を食べた。
マルクスが東での仕事の話をした。父が体の回復の話をした。サラが旅の話をした。三人の話が交互に続いて、食堂が賑やかだった。
秀はその食堂にいた。
サラが旅立ったときに見送った食堂と、同じ食堂だ。でも全然違う。
父が動ける。兄が戻った。サラが帰ってきた。
同じ場所に、増えたものがある。
(良い家族だな)
秀は思った。
自分の家族のことを、少し思った。完璧主義の親。プレッシャーの多い家だったが、大切に育てられたこ
とは確かだ。
前世で言えなかった「ありがとう」を、今更ながら心の中で言った。
届かなくても、言った。




