「もう一つの目」が伝えようとしたこと
ある夜、「もう一つの目」がまた積極的に気配を動かした。
前回より明確に、何かを伝えようとしている。
秀は集中した。
最初に来たのは、音楽のイメージだった。前回と同じだ。
次に、特定の感触が来た。
ピアノ。
鍵盤を押す指先の感覚が、気配の中に混じっていた。
(ピアノを弾いていたのか)
肯定。
(ピアニストか。それとも……)
次に来たのは、もっと複雑なイメージだった。
練習室。一人で弾いている。でも誰かに聴かせるためではなく、何かを作るために弾いている。
(作曲家か)
気配が揺れた。正確ではないが、近い、という揺れ方だった。
(音楽を作る人間だったのか)
肯定。そして何か、悲しいものが混じった。
(作り切れなかった曲が、あるのか)
長い沈黙があった。
それから、静かな肯定が来た。
(それが、やり残したことか)
また肯定。
秀は「もう一つの目」の気配の中に、この数ヶ月で一番重いものを感じた。
作り切れなかった曲。届けられなかった音楽。それを抱えたまま、テアトルムに来た。
(でも今は、誰かの人生を見ている。フィアを見ている。それは、お前にとって意味があることだろう)
気配が揺れた。
意味がある、という肯定と、でもやはり曲のことが頭にある、という複雑さが同時に返ってきた。
秀はしばらく考えた。
(前世の未練は、消えないよな。俺もメンバーたちのことを思う。消えない。でも、消えなくていいのかも
しれない。それが前世を生きた証だから)
気配が、ゆっくりと落ち着いていった。
完全な安心ではない。でも少し、楽になったような揺れだった。
二人はその夜、長い時間並んでいた。
言葉を越えた場所で、互いの前世を、少しだけ共有していた。




