フィアと錠前の注文
秋が深まった頃、フィアの工房に珍しい客が来た。
商人ふうの男で、丁寧な服装をしている。ラメールの人間ではない、とフィアはすぐに感じた。
「あなたが、蔦と花の錠前を作った鍵師ですか」
「はい」
「ヴェロ・ドーンに見せてもらいました。素晴らしいものでした」
フィアが少し驚いた。
「あれは売り物ではないんですが」
「知っています。贈り物だと伺いました。だからこそ、依頼したい。同じ技術で、別のものを作ってもらえませんか」
男の名前はハーバン・セッテといって、王都近くの商会の主だった。商会の金庫に使う錠前が欲しいという。
「市販の錠前では不満なんですか」
「市販のものは、腕のいい解錠師なら開けられる。でもあなたの錠前は、装飾と機構が一体になっていると聞いた。そういう錠前は、設計を知らない人間には開けられない」
フィアが少し考えた。
「……やったことのない規模のものです。時間がかかります」
「構いません。一ヶ月でも二ヶ月でも待ちます」
「材料費と工具費が先払いで必要です。報酬の話は完成してから」
「わかりました」
ハーバンが先払いの金額を快く受け入れた。
男が帰った後、フィアは作業台の前に座った。
しばらく天井を見ていた。
「来た、か」
独り言を言った。
ヴェロに届けた錠前が、自分の知らないところで人の目に触れ、仕事を引き寄せた。
祖父のものを受け取って、自分のものを作って、それが外の世界と繋がった。
フィアが設計図の紙を広げた。
「やってみるか」
マルが鳴いた。
「そうだよ、やるしかないよな」
秀はフィアの背中を見ていた。
「もう一つの目」が、嬉しそうに揺れていた。




