レインとフィアの、二度目の話
フィアが市場に買い物に来たとき、レインが見回りをしていた。
目が合った。
「こんにちは」とフィアが言った。
「こんにちは」とレインが言った。
「あの日はありがとうございました」
「いいえ」
「その後、錠前が見つかりました」
「見つかったんですか」
「はい。骨董品店に、老人が守っていてくれていました」
レインが「良かった」と言った。短い言葉だったが、本心が入っていた。
「そちらはお変わりないですか」
「まあ」
二人が並んで少し歩いた。特に目的があるわけではなく、フィアが市場の方向で、レインの巡回コースがそちらだっただけだ。
「鍵師さんは、ずっとラメールにいるんですか」とレインが聞いた。
「しばらくは。仕事があるので」
「あの廃屋の近くで育ったんですか」
「違います。ラメールで生まれました。父が死んでから、初めてあの場所を知りました」
「そうでしたか」
「あなたは、ラメール生まれではないですよね。前に流れてきた、と言っていたので」
「三歳のときに来ました。前の町のことはほとんど覚えていない」
「今はここが故郷ですか」
レインが少し考えた。
「……そう言えるようになってきた気がします。最近」
フィアが「最近、というのがいいですね」と言った。
「なぜ」
「故郷って最初からあるものじゃなくて、作るものだと思うから。ここが故郷になってきた、という言い方が、すごく正直に聞こえて」
レインが少し黙った。
「鍵師さんは、面白いことを言う」
「そうですか」
「ほめてます」
「ありがとう」とフィアが笑った。
市場の入り口で二人が別れた。
秀はその短い会話を聞いていた。
「故郷を作る」という言葉が、秀の中に残った。
前世には帰れない。でもここで、テアトルムが秀の場所になってきている。レインと同じように、「なってきた気がする」という感じで。




