フィアが届けた錠前
秋の初め、フィアは完成した錠前を持って、ラメールを歩いた。
届ける相手は決まっていた。
骨董品店の老人、ヴェロ・ドーンだ。
祖父の錠前を五年間守り続けてくれた人。幼馴染の娘が来るのを待ち続けた人。その人に、何か返したかった。
「持ってきました」
フィアが錠前を差し出した。
ヴェロが受け取った。重さを確かめるように持って、それからゆっくりと見た。
「蔦に花が咲いている」
「私が足したんです。祖父のものとは違うので、おかしかったら」
「おかしくない」ヴェロが言った。「お前の祖父さんは、蔦だけで十分だと思っていた。でもお前は花が必要だと思った。その違いがそのまま出ている。これはお前の錠前だ」
「祖父のものを参考にしているのに?」
「参考にするだけでは、同じものしかできない。お前はここで、自分のものにした」
フィアが黙っていた。
ヴェロが「いくらで売る」と聞いた。
「売りません。もらってください」
「受け取れない。職人の仕事にはちゃんと値をつけろ」
「では……友人への贈り物、ということにしてください」
ヴェロが少し目を細めた。
「友人か。お前の祖父さんも、俺をそう呼んでいた」
「知っています。手紙に書いてありました」
ヴェロが錠前を両手で包んだ。
「……大切にする」
「はい」
フィアが店を出た。
秋の光の中に出ると、空気が澄んでいた。
肩が軽くなっていた。工房に帰り着くまでの道が、いつもより軽やかだった。
秀はフィアの後ろを漂っていた。
「もう一つの目」も並んでいた。
二つの気配が、フィアの歩みを送っていた。




