表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テアトルムのナレーター  作者: yuruhuwa回路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/99

夏の夜のナレーターたち

 夏の夜は短い。


 それでも夜が来ると、テアトルムの空に星が出た。


 秀は「もう一つの目」と並んで、その星を見ていた。


 今夜は互いに、追っている人物たちから少し離れて、ただここにいた。


 テアトルムに来て、どのくらいの時間が経ったのか。秀には正確にはわからない。でも季節が何度か変わった。レインが十四歳から成長した。サラが地図師になった。ガルドが笑えるようになった。フィアが祖父と繋がった。エイルが王宮で話した。コルが剣を持った。


 たくさんのことが、変わった。


(テアトルムに来て、良かったか)


 秀は自分に問いかけた。


 答えはすぐに出た。


 良かった。


 間違いなく、良かった。


 体がない不便さも、干渉できないもどかしさも、ある。でもそれ以上に、毎日が豊かだ。見るべきものが尽きない。人の生き方を、こんなに深く見ることができる場所は、他にない。


「もう一つの目」に気配を向けた。


(お前はどうだ。良かったか、テアトルムに来て)


 しばらく間があった。


 それから返ってきた気配は、とても複雑だった。


 良かった、という気持ちは確かにある。でもそれと同時に、何か引っかかっているものがある。迷いというより、まだ果たせていない何かがある、という揺れ方だった。


(何か、やり残したことがあるのか)


 気配が肯定した。


(前世で、か)


 また肯定。


(そうか)


 秀は前世のことを思った。


 自分には前世でやり残したことがあるか。


 ある。メンバーたちに、ちゃんと「ありがとう」を言えなかった。ファンへの最後の挨拶もできなかった。やりかけのことが山ほどあった。


 でも今の秀には、テアトルムがある。


 この世界で、見届けるべき人生がある。


 やり残したことは、やり残したまま。でも今日できることが、ここにある。


(お前のやり残したことが何かは、まだわからない。でも……一緒にいるから)


 気配が、ゆっくりと温かくなった。


 星が流れた。


 夏の夜空の下で、二人のナレーターが並んでいた。


 言葉もなく、体もなく、それでも確かにそこにある存在として。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ