夏の夜のナレーターたち
夏の夜は短い。
それでも夜が来ると、テアトルムの空に星が出た。
秀は「もう一つの目」と並んで、その星を見ていた。
今夜は互いに、追っている人物たちから少し離れて、ただここにいた。
テアトルムに来て、どのくらいの時間が経ったのか。秀には正確にはわからない。でも季節が何度か変わった。レインが十四歳から成長した。サラが地図師になった。ガルドが笑えるようになった。フィアが祖父と繋がった。エイルが王宮で話した。コルが剣を持った。
たくさんのことが、変わった。
(テアトルムに来て、良かったか)
秀は自分に問いかけた。
答えはすぐに出た。
良かった。
間違いなく、良かった。
体がない不便さも、干渉できないもどかしさも、ある。でもそれ以上に、毎日が豊かだ。見るべきものが尽きない。人の生き方を、こんなに深く見ることができる場所は、他にない。
「もう一つの目」に気配を向けた。
(お前はどうだ。良かったか、テアトルムに来て)
しばらく間があった。
それから返ってきた気配は、とても複雑だった。
良かった、という気持ちは確かにある。でもそれと同時に、何か引っかかっているものがある。迷いというより、まだ果たせていない何かがある、という揺れ方だった。
(何か、やり残したことがあるのか)
気配が肯定した。
(前世で、か)
また肯定。
(そうか)
秀は前世のことを思った。
自分には前世でやり残したことがあるか。
ある。メンバーたちに、ちゃんと「ありがとう」を言えなかった。ファンへの最後の挨拶もできなかった。やりかけのことが山ほどあった。
でも今の秀には、テアトルムがある。
この世界で、見届けるべき人生がある。
やり残したことは、やり残したまま。でも今日できることが、ここにある。
(お前のやり残したことが何かは、まだわからない。でも……一緒にいるから)
気配が、ゆっくりと温かくなった。
星が流れた。
夏の夜空の下で、二人のナレーターが並んでいた。
言葉もなく、体もなく、それでも確かにそこにある存在として。




