フィアの錠前が完成した日
夏の終わり、フィアの新しい錠前が完成した。
祖父の錠前を参考に、でも自分のやり方で作り上げた一品だった。
蔦の模様は残したが、その形は少し変えた。蔦の先に、小さな花が咲くようにした。祖父の「蔦だけ」の厳格さに、フィアの「花を咲かせたい」という感性が加わっていた。
内側の機構は、祖父のものより少し単純だが、それでも市販の錠前とは比べ物にならない精度だ。
フィアは完成した錠前を光にかざした。
「よし」
その一言だけで、評価は十分だった。
翌日、骨董品店の老人のところへ行った。
「これを見てほしい」
老人が錠前を手に取った。
しばらく見た。蔦の模様を指で辿った。内側を覗いた。
「……オルウィンの娘だな」
「どういう意味ですか」
「腕だよ。父親の腕を継いでいる。いや、父親よりもこの花のアイデアは……」老人が首を振った。「祖父さんが見たら何と言うかな」
「何と言うと思いますか」
「『やりすぎだ』と言いながら、嬉しそうな顔をすると思う」
フィアが笑った。
老人も笑った。
秀はその二人を見ていた。
フィアが工房に帰り着いてから一ヶ月。この一ヶ月で、フィアの鍵師としての仕事が変わった。祖父の錠前を知る前と後では、作るものの「深さ」が違う。
自分がどこから来たかを知ることが、どこへ行くかを決める。
ルーツというものの力を、秀はこの一ヶ月のフィアを通して、身を持って学んだ。
「もう一つの目」の気配が、穏やかに揺れていた。
フィアを見るその気配は、いつも温かかった。誰かを本当に大切に思っているときの揺れ方をしている。
(お前、フィアのこと、本当に好きなんだな)
秀がそう気配で送ると、「もう一つの目」が少し照れたような揺れ方をした。
秀は笑った。




