「もう一つの目」の伝言
ある晩、「もう一つの目」の気配が、これまでと違う動き方をした。
秀がラメールの空に漂っていると、気配が近づいてきた。いつもより明確に、意図を持って近づいてくる。
(どうした)
気配が、何かを伝えようとしていた。
言葉は使えない。でも気配の質と揺れ方で、今夜は「何かを伝えたい」という強い意図が感じられた。
秀は集中した。
気配が、特定のイメージを運んでくるような感じがした。
音楽。
それが最初に伝わってきた感覚だった。
はっきりした音ではない。でも音楽に関係した何かが、「もう一つの目」の中にある。
次に来たのは、舞台のイメージだった。
照明。大勢の観客。拍手。
(お前も……ステージに立っていたのか)
気配が揺れた。肯定に近い揺れだったが、少し複雑なものも混じっていた。
舞台に立っていた、というのは正確ではないのかもしれない。舞台の傍にいた、とか、舞台に関わっていた、という感じのニュアンスだった。
(アイドルか、俳優か、それとも別の何かか)
そこまでは伝わってこなかった。
でも一つだけ、はっきりと伝わってきたものがあった。
日本語だ、という感覚。
向こうも日本から来た転生者だ。
(やっぱりそうか)
秀は確信した。
「もう一つの目」は、自分と同じように日本から来た人間だ。前世があって、死んで、ビブリオラに会っ
て、テアトルムに来た。
(名前は、聞けないか)
気配が揺れた。伝えたいが、伝える方法がない、という揺れだった。
(わかった。無理に伝えなくていい。でも……お前が日本から来た人間だとわかっただけで、なんか嬉し
い)
気配が、温かくなった。
同じだよ、と言っているような揺れだった。
テアトルムの夜空の下に、二人の日本人がいる。
体もなく、声もなく、名前も知らないまま、それでも並んでいる。
それがどれほど奇妙で、どれほど心強いことか。
秀は長い間、その気配と並んでいた。




