ナレーターの冬
テアトルムに深い冬が来た。
北では雪が厚く積もり、南では霜が降りた。人々の動きが少し遅くなる季節だ。
秀はこの冬、三人と一人を交互に見ていた。
レインは冬の任務をこなしながら、毎朝コルと稽古をしていた。コルの動きが確実に良くなっていた。
サラは春からの本格的な地図作りに向けて、これまでの記録を整理していた。地図帳が三冊になっていた。
ガルドはエイルたちの訓練を続けながら、夜はオルデンと北方の後処理について話し合っていた。グレイ・ハンドは壊滅したが、その後の村々の復興支援が次の課題だった。
そしてフィアは、春を待ちながら、静かに鍵を作り続けていた。
四人の冬が、それぞれの形で積み重なっていく。
秀は冬の夜、「もう一つの目」と並んでいた。
もはや習慣になっていた。言葉は交わせない。でも互いの気配が近くにあることで、何かが補われる。
前世でメンバーと同じ移動バスに乗っていたとき、話していなくても同じ空間にいることで安心できた。あの感覚に似ていた。
秀は気配に向けて、問いかけた。
(フィアのこと、心配か)
返ってきた気配は、複雑だった。
心配と、でも信じていると、それから何か遠慮がちなもの。
(遠慮するな。俺もフィアが気になっている)
気配が少し柔らかくなった。
(春になれば動くな、あいつが。二人で見ていよう)
返ってきたものは、明確な肯定だった。
テアトルムの夜が、静かに深まっていく。
雪が音もなく積もり、星が冷たく光り、どこかの家から明かりが漏れている。
レインが眠り、サラが眠り、ガルドが眠り、フィアが眠り、コルとエイルが眠っている。
ナレーターは眠らない。眠れない。でも夜は嫌いではなかった。
人が眠っているとき、世界は呼吸をする。
その呼吸を感じながら、秀は今夜も、テアトルムにいた。




