サラの帰還と決断
サラがラメールに帰り着いたのは、初雪が降った翌日だった。
食堂の扉を開けると、父がカウンターの前に立っていた。杖なしで。
「父さん」
「お帰り」
父が少し胸を張って立っていた。足元はまだ覚束ないが、立っている。
サラが走り寄って、父の肩を抱いた。
「いつから立てるようになったの」
「二週間前から。フィネさんとリハビリした」
「なんで手紙を」
「手紙を書いたら、お前が心配して旅を切り上げるかと思ったから」
サラが「もう」と言いながら、笑った。
夕食を作りながら、旅の話をした。父が熱心に聞いた。地図帳を見せると、隅々まで見た。
「これ、すごいな」
「でしょう」
「売れるんじゃないか」
「それが……」
サラがクロウの話をした。商会からの依頼の話。旅の費用が出ること、報酬が出ること、地図を仕事にできること。
父は最後まで黙って聞いた。
「どうしたい」
「やりたいです」
「やれ」
「でも、父さんのこと」
「マルクスが来月帰る。俺はもうそこそこ動ける。お前がいなくてもやっていける」
「でも」
「サラ」
父がサラを見た。
「お前は子供の頃から、地図を見るとき別の顔をしていた。普段の顔じゃない。もっと遠くを見る顔だ。その顔が、帰ってきたお前にはずっとある。旅に出てから、ずっとその顔だ」
サラが何も言えなかった。
「それがお前の本当の顔だろう。ずっと見たかった顔だ。行ってこい」
秀はその父娘を見ていた。
「行ってこい」という言葉を、この父は何度口にしただろう。そのたびにサラは前に進んだ。
背中を押し続ける親というのは、それだけで十分に偉大だ。
翌日、サラはクロウに「受ける」と手紙を書いた。




