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ガウル  作者: キヌミタロ
第13章 力の道
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第81話 山道の影

 ダンネが必死に嘘を隠している! それを言いたい口を、ダンネが必死に塞いで来る!

「いい加減にやめなさい」

 ユリの声に、俺とダンネは同時に離れる。ダンネもユリが怖い人だと分かっているのだろう。俺はダンネと睨み合う。そしてダンネはキツネである。キツネ、モフモフ尻尾、カーリーもキツネ……思い出した!

「そうだ! ハリス直下の部隊と揉めてた人だ!」

 文政長官。ハリスが揉めてた人だ! だからダンネは僕の口を必死に塞いでいたんだ!

俺は思い出した嬉しさに、文政長官ザスロを見上げる。顔は笑顔なのに気配が怒っている!

「ハリス……あー! あのキツネか。帝国の軍事力を恐れたキツネが、一将殺そうと北周りで帝国に侵入したのよ。そのときの小娘が頭が良くてね。当時の領主を見限って、私に点いたのよ。その後! 私がこっぴどくザスロを叱ったのよ! 警備に穴があるって! 当時は文政長なんて役職も無かったし! お陰でザシは出世したようなものじゃない! 良かったわね!」

 笑顔のザスロが、ゆっくりとユリに顔を向けている。明らかに怒りの表情を抑えている。

「その話は出来ればして欲しくないですね。俺のたったひとつの汚点だ」

「汚点なんて、そこらへん皆点々してるから気をつけることはないのよ。じゃあ皇帝斬りは届けたから、あとは任せたわ」

「どちらへ?」

「帰るのよ、皇帝斬りも弱かったし、敗軍の将とシルヴァにこれから説教」

「そうですか……この子たちは?」

「ガルデが下手な指示を出した。要所要所が合っていたが、あろうことか皇帝斬りに協力を求めた」

「ハチは悪い人じゃないよ」

 ユリとザスロに睨まれる。怖いからダンネの影に隠れる。

「ちょっと!」

「ハチは記憶喪失なんだ」

「ハチ? あの男?」

「うん。ハチは記憶喪失なんだ」

 ザスロがユリに顔を向ける。

「皇帝斬りの身元は洗いざらい調べました。家族はいませんが……そうか、記憶喪失か」

「いっそのこと、叩いてみるか?」

「今ですか?」

「お前たちついて来い。なに、ただ尋ねるだけさ」

 ユリとザスロが先を行き、俺たちは付いて行く。

 ザスロが急に足を止め、ユリに立ちはだかる。

「牢をお見せするのは流石に」

「構わん、どうせ皇帝斬りしか入っていないのだろ?」

「まあ……この局を立ててから重犯罪は減りましたからね」

「そら長お墨付きのガキが文政長してれば、誰も悪いことはしないさ。ついてきな」

 ユリたちがまた歩きはじめる。奥へ奥へと進み、薄暗い鉄格子の牢、そのひとつにハチが放り込まれていた。両手両足の縄はそのままに、一生懸命両手の縄を食いちぎろうとしていた。俺たちに気づいて顔を上げる。

「なんだなんだ大勢で。俺の死刑でも立ち合いに来たのか」

「あなた、記憶喪失なんだってね?」

「誰から聞いた?」

「ガウルから」

 ハチが俺を睨んでくる。怖いのでダンネの影に隠れようとするが、ユリに掴まれ前に出される。

「俺の記憶が無いからどうだってんだ?」

 近くの鉄格子を両手に掴む。ハチはことあるごとに、細かい嘘をついていた。ハチは皇帝を斬ったんだ。それは悪いことだ。理由はどうあれ、それでも俺はハチが悪い人じゃないと……いや、あれだから人を殴り飛ばしたら悪い人か? ちょっと分からなくなってきた。

 ユリが鉄格子を握りこぶしで叩き、そのまま寄り掛かる。

「どうせその首跳ねるんだ。知ってること全部言いな」

「け! まあそうだなあ。どうせここで終わりだ、冥土の土産に話とするか」

 ハチが止まった。皆で少し待つ。抵抗があるのか?

「そうだなあ……気づいたら、目隠し男に拾われてた」

「目隠し男?」

「まあ聞け、気持ちの悪い男で。森でひとりで暮らしているんだ。探したって見つからねえよ。あっちから現れて来るんだ。最初は不気味だったけど、その内になれた。大きくなったところで、皇帝を斬って来いと言われた。と、言う訳で言われるままに斬った。ただし殺すな、そう言われてたから殺しはしなかった。ほいで、森に戻ったらそいつは姿を見せなくなった。あとはまあ、帝国で暴れえの王国に行きーの南でお寿司を食べたりと。楽しい人生でございましたと」

 ハチが地面に横になる。

「それで、どうして帝国に戻って来た?」

「帝国で暴れてたら妙な気配……まあ、あんたを含めてだと思うが。怖くなって王国へ逃げた。その場凌ぎの生活をしてたが、退屈も退屈! 喧嘩をしてみりゃ一発で終わり、その内にだーれも俺に挑まなくなった。そのあとポチに拾われて、一緒にダンネを探し王国に届け。帝国で暴れたくなったから戻ってきたと」

 ハチは嘘をついた。

「嘘だ」

 ハチが僕を強烈に睨む。

「何が嘘だよ?」

「僕って、いま知らない人の記憶が混ざってるんだ。だから、その知らない人の記憶の手掛かりも探してる。だって気持ち悪いんだもん。自分が誰なのか分からなくなる。だからハチも、自分が誰なのか?」

 ユリの片足が、俺と鉄格子の間に入り、力強く俺を鉄格子から引き離す。俺が今まで立っていた場所に、ハチが全身で鉄格子に体当たりをする。建物全部が揺れたと思うぐらいに部屋が揺れた。

「俺の記憶喪失と! てめえの訳の分からねえ状況は関係ねえだろ! 二度と俺の話はするんじゃねえ! ガウルだろうと容赦しねえ!」

 少しだけ、ハチの体が大きくなったように見えた。さらに剥き出しの気配に恐怖する。歯を食いしばる歯に牙を見て、髪の毛や尻尾の毛が逆立っている。何度も鉄格子に体当たりをし、鋭い牙で鉄格子を噛み始める。ハチから聞いたことのない唸り声が聞こえ、俺たち子供はユリの影に隠れる。

「それがお前の本性か、帝国軍が束になっても勝てない訳だ。ザスロ、サジルをここの警備に当たらせろ。サジルに直接だ。お前ら兄弟でこの男を閉じ込めておけ」

「は」

「おいで子供たち、ここは危険だ」

 皆が逃げるようにユリへついて行く。俺は立ち止まりハチに振り返る。その姿はまるで別人だ。俺の前身に鳥肌が湧きたつ。いまのハチなら、ユリと互角に戦えるかもしれない。ハチは何度も鉄格子に体当たりをしている。

「ガウル、行くんだ」

 ザスロに促され、僕は牢の外に出る。

 少し遠く離れた場所に皆がいる。いつも闘争の火とかニャーニャー騒いでるニャーでさえ、瞳を縦長にして……どういう顔だ? あとの皆はかなり怖がっていた。

「あの男が言った、ただし殺すな。あれは血を好む類だ」

「血?」

「そう、血の臭い嗅ぐと闘争本能が湧きたつ。極稀にいるんだ、オオカミの中にそう言うのが。ガルデが殺しを命じられているのもそれが原因だ、奴は息子のお前に弱みを

見せたくはないだろうが」

「ユリは?」

「私は問題ない……私はな」

 ユリが少し遠くを見る。ハチもユリも、顔に人の良さが何故か見て取れる。

「ねえ、どうしてもハチを殺しちゃうの?」

 ユリの表情が引き締まり、俺を蒼い眼でしっかりと見る。

「当然だ。皇帝斬り、それは私の夫を斬った男なの。死刑は当然」

「そうなんだ」

「一緒に過ごして情が湧くのも分かる。が、今回はガウルが口を出してどうこう出来る話じゃない。さっさと山に登りなさい、孫が会いに来たとなれば。長はきっと喜ぶから。私は各将と打ち合わせするわ、じゃあね」

 ユリが俺たちを置いて去っていく。俺たちは取り残されてしまった。

「北……そう! 北へ行きましょう!」

 ダンネが文政局を駆け出し、俺たち皆逃げるように文政局を後にする。

 逃げ惑いながら、会う人に道を尋ね、ウルガ帝国の北を駆け続ける。途中でドロップの体力が尽きたから、俺が背負って駆ける。ウルガ帝国を南に見て、北にそびえる山脈を見る。ダンネが足を止めたので、皆で息を切らして立ち止まる。

「私この国嫌! 怖すぎる!」

「ぼ、僕も苦手かも」

 ニャーは何も言わずに、カーリーはいつも通りだ。

「私怖いから、ガウル先歩いてよ」

 ダンネに押されながら道を歩く。

「今は誰もいないから怖がる必要は」

「いいから歩いて!」

 力強くダンネに押されながら、山へと続く道を行く。




 山が見えるから近いと思ったが、そんなことはなかった。既に空は夕焼け空になり。山へ登る道は、森に囲まれ薄暗い。何かが道の真ん中に立っている。棒が地面に刺さり、家の形みたいな板がある。

「これなに?」

「立札ね。えっと……礼儀知らずは、この山登るべからず、その首落ちて、道を転がり落ちるなり……」

 かなり物騒なことが書いてある気がする。ダンネが俺を見ながら、泣きそうになっているのを堪えている。泣きたいのを隠すように、ダンネが俺の背中を押し進める。仕方ないので俺は先頭を歩く。

 薄暗い森の山道……産まれ育った山を思い出す。

「確か、ドロップが落ちて来たときも、このぐらい暗かったと思う」

「そうなんだ」

「うん。流れ星が凄くて、星空を眺めていたら落ちて来た」

「でも、私はそれを見てないのよね。星空は綺麗だったけど、流れ星は見なかった」

 俺は予兆なく足を止める、そのせいでダンネが背にぶつかる。

「ちょっと、急に止まらないでよ」

 薄暗い森の中、登りの坂道をじっと見つめ、耳を澄ませて音を聞く。

「なにして」

「静かに」

 微かに……微かに人の音がする。この音はなんだろう? きっと息をする音だ。その音が無数に聞こえてくる。

「人がいっぱいいる」

「どこ?」

「あっちこっちに」

 ダンネとドロップが僕に抱き着いて来る。なぜかニャーが僕の肩の上に登って来て、肩車をする形になる。

「降りてよ」

「降りないニャ! ここからなら良く見えるニャ。でも誰も見えないニャ」

 改めて、登りの坂道を眺める。本当に息をする音だったのか、風の音の様な気もしてくる。俺の勘違いかな。

「俺の勘違いかも」

 ダンネが離れ、俺を軽く殴ってきた。

「いて」

「驚かさないでよ!」

「ごめん」

 音ではなく気配を探る。間違いない、道の両脇にそれなりの人数が潜んでいる。

「この道は」

 見覚えがある。始めた来た場所、始めた見る道なのに。俺はこの道を歩いた記憶が微かにある……それは俺の記憶じゃない。別のガウルの記憶。この先に何か手掛かりがあるのだろうか? ニャーの足を両手で掴み、降ろさずそのまま道を行く。

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