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ガウル  作者: キヌミタロ
第13章 力の道
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第79話 追いつめられるガウル

 ハチとガルデが、僕を眼で完全に捉えている。恐らくこれから質問攻めになりそうだ。いまの内に眼を逸らしておこう。ハチが両眼を細くし睨んでくる。

「まずなんで俺たちの刀を落とした?」

「それは……ガルデがハチを斬り殺そうとしたから」

 ハチはガルデを睨む。ガルデも眼を逸らす。

「いやだってほら、皇帝斬りだし生死問わないから」

「俺が聞き手ねえのはそこじゃねえ」

 ハチがまた僕を睨んでくる。面倒だな。

「ガウル、なんで俺たちの刀を落とした?」

「だから、ガルデがハチを」

「ガルデがいつ俺を斬り殺そうとしたんだよ?」

「峰内で叩いたところを、ガルデが斬り殺そうとしてたから」

 またハチがガルデを睨む。

「確かか?」

「うん……その狙いは確かにあったけど……」

 ハチがまーた僕を睨む。怖いので目を逸らしておこう。

「傍から見てたお前が、先を見たのか?」

 恐らくハチの言っていることは正しい。僕だって自分がどういう状況か良く分かっていない。ハチとガルデの戦いを見て、何故かその先が容易に想像出来てしまった。危ないから、ダンネの双剣を拝借して刀を落としたが……その後、質問攻めにされるのは予想していなかった。ここは皆を見習って、ダンネの背後に隠れよう。その場から動いた瞬間、ハチが俺の肩を掴んだ。

「待てい」

 逃げられなかった。

「お前……ややこしいな。いまのガウルは血の香りを嗅げたな」

「血?」

 血の香りってなんだ? そんな物嗅いだこともない。ハチが刀の刃を、僕に見せて来る。

「王国で俺に言ったこと覚えてるか?」

「どのこと?

「俺がこの刀を首に添えたときだ」

 ガルデから強烈な殺意を感じる。

「俺の息子の首に刀を添えたのか?」

「それは悪かったよ。ただし、お前の息子というより……違う奴……こいつも違う気がするぞ」

 ハチが眉間に皺を寄せながら、僕を奇妙な眼で見下ろしている。流石にダンネに助けをうこおう。

「助けてダンネ。たぶん、難しい話をしている」

「私にだって難しいわよ! 結局、ハチは何が言いたいの?」

「俺が皇帝を斬ったことは、まあ皆知ってるところだが。こいつは俺がひとり斬ったことを、刀を見ただけで悟った。俺が首に刀を添えるぐらい強烈な気配だ。サジルやガルデもそれなりだが、格が違う。王国であったお前はまさに強者のそれだ。よく考えてみろ、ふたりして戦っている最中の刀に、剣を投げて当てられると思うか? だからこいつは、ふたりいるうちのひとりだと思ったが……いまのお前は気配が弱すぎる」

 流石に僕は首を傾げる。

「つまりどういう」

 ハチは片手で頭を必死に掻く。

「あー面倒くせえ奴だなあ! どう言えばいいのか。港で出会ったガウル、王国で俺の刀の血を見抜いたガウル、そして刀を落としたガウル……俺の感覚だと三人いるぞ」

 ハチが怖いことを言い始める。僕は全身鳥肌を立て、ダンネの背後に隠れる。

「怖いこと言わないでよ!」

「いやたぶん合ってる。港で会ったガウルは、なんというかそれ相応に子供だった。王国で俺の刀を見たガウルの気配は強烈だ。ガウル、真面目に答えろ。王国で俺の刀を見たときのことを思い出せ」

 僕は王国でハチの刀を見たときのことを思い出す……たぶん、あのときだ。

「覚えてるけど……思い出させないで」

「なんでだよ?」

「あのあと僕は壊れたんだ。ふたつの記憶が同時に重なったんだ。知らないことを覚えている。分からないことが理解できる。だから」

「あ! あの!」

 突如、カーリーが珍しく大声を上げた。あまりにも珍しかったので、全員カーリーに驚きの顔を向ける。ガルデが「どうしたの?」と、尋ねる。

「そ、その……ガウルに色々と聞くのは……駄目なんだ。シ、シルケが……ガウルを治してくれたと思うから……不安定なんだ……ガウルは不安定なんだ」

「僕って不安定なのか」

「どう見たって普通じゃないニャ」

 ニャーの言葉に少し腹が立った。

「黙れ。ニャーニャーニャーニャーやかましい」

「シャアアアアアア!」

 ニャーが両耳を横にし、赤い眼で僕を睨む。

 ハチは両眼を必死に瞑り、震えているカーリーを見る。

「じゃあお前に聞く。ガウルのなんだ不安定か? これ酷くなるとどうなるんだ?」

「わ……分からないよ。だから……だから怖いんだ……何が起こるか分からない」

 ハチが大きなため息を吐く。

「俺は体動かして暴れるのが好きだ、皇帝を斬ったんだ。帝国に来て命狙われるのは当然さ、それで殺されても文句は言わねえ。言わねえが……ガウルを先に見たほうが良くないかこれ?」

 ハチがガルデに顔を向ける。

「それはつまり?」

「いやまあ! 何かと縁のあるガキだ、ちょうど目の前にその親父がいる。俺は逃げる気はねえ、何だったら退屈で戻って来たしな。ガキを先に助けたほうがいい気がするぞ」

 ガルデはハチを睨み、そのまま僕を睨む。僕は怖くてダンネの背後に隠れる。それを察したのか、ガルデは右手でゆっくりと顔を拭う。

「つまり、皇帝斬りを捕らえず。ガウルを助けろと言うことだな?」

「そういうこと」

 ドロップを診てくれた、ニヤメが少女と一緒に近づいて来る。

「私もそのほうが良いと思います。恐れながら、この子の状況に加え、あなたの息子。そうなると、皇帝斬りに構っている場合でないかと。ここにいますけど」

「なあどっかで食事でも」

「娘の前で下手なこと言ったら、タダじゃおかない」

「それもそうだな」

「ヘイズ!」

 ガルデの声に、地面に倒れていたヘイズがゆっくりと起き上がる。

「な……なんでしょうか?」

「全軍に伝令を出せ、皇帝斬りを一時保留にする」

「しかし長が」

「長なぞ知るか! おのれ息子が大変な状況で! 座ってるだけの能無しに用はない!」

「失礼しました。お許しください」

「なあガルデ」

「なんだ!」

「ガウルは長に会いに行く予定だった。俺も山登っていいか?」

「確実に殺されるぞ?」

「そこをガルデがなんとかしてくれよお。ガキの面倒は見るからさあ」

「なぜお前が俺の息子を見る?」

「ひとつは、まあ俺が気になっているから。もうひとつは、下手な帝国軍より俺のほうが強い」

 ハチは嘘をついた。なのでダンネの袖を引っ張る。ダンネが少しだけ、僕に首を向ける。

「皇帝斬りのお前が山に登るのは駄目だ。確実に死ぬ」

「山ってそんな強いのか?」

「異常者の集まりと思っていい」

「それを、確かめたい。俺がガウルから感じ取った、気配と同等の奴がいるかどうか。なに、こちとら皇帝斬りだ。殺されてなんぼよ」

 ハチはまた嘘をついた。僕はダンネの袖を引っ張りながら、ハチを静かに眺める。ハチは嘘だらけだ。隠し事が多い気がする。

「ハチはどうしてウルガ帝国に来たの?」

 ふと尋ねてしまう。ハチは無表情で僕を見る。

「そりゃあ退屈だったからだよ」

 僕はそっと、ダンネの袖を引っ張る。

「よし。ならサジルを連れて、文政長のところへ行け」

「文政長?」

「山の警護の管轄は文政長だ。そのまま行けば話にならない。そこで義理の弟であるサジルを連れて行け。俺は先に山へ行く」

「なんだ、一緒に行かないのか?」

 ガルデが僕を見る。

「気配がね」

 その言葉を残して、ガルデは去って行った。

 ニヤメが近づいて来た。少女がダンネの尻尾に手を伸ばそうとするが、ニヤメが少女を掴んで下げた。

「もし気分が悪くなったら、私のところに来てね。お薬あるから」

 ダンネがニヤメを見上げる。

「ドロップになに飲ませたの?」

「元気が出るお薬。薬草を調合して飲ませたお薬」

 本当に何を飲ませたんだ? 僕とダンネは、ドロップへ顔を向ける。顔色からして、別人のように元気だ。

「なに飲んだの?」

「なんか丸い葉っぱ?」

 ドロップは首を傾げる。

「粉末の薬を、薬草で包んで水で飲むの。薬の成分は秘密。分量間違えると大変なことになるから。あと出来ればご飯」

「ご飯ニャ!」

「それがね。ウルガ帝国は食糧難だから、一日三食食べられないのよ」

「ウニャア!」

 なんかニャーから変な声が出たな。

「そのせいもあって、体調が崩れたかもしれない。食事が取れないのは厳しいのよねえ。出来れば、今すぐにでも王国に帰ることをお勧めするわ」

「じゃあニャーは王国へ帰るニャ!」

「そう、じゃあね」

「止めろニャ!」

「うるさいなあ、ニャーニャーニャーニャー!」

「シャアアアアアアアアア!」

 ニヤメが不意に、ニャーを掴み上げる。

「この子なに?」

「ニャーはネコニャ!」

「へえ」

 ニヤメがニャーをゆっくり左右に揺らす。

「なにしてるニャ?」

「珍しいからつい」

「どうして左右に振るニャ」

「なんとなくよ。ありがとう」

 ニヤメはニャーを降ろす。ニャーは不思議そうに、ニヤメを見上げている。

「ママ! 私もやって!」

「はいはい」

 ニヤメは少女を掲げて、左右にゆっくり降り始める。

「どうして左右に振るニャ?」

「なんとなくよ」

「私おおきくなったらキツネになる!」

「無理よ、諦めなさい」

「嫌だ! 私は絶対に諦めない!」

「可愛い娘、いずれ現実を知るときが来るわ」

「どういうこと?」

「キツネにはなれないってこと」

「私は絶対に諦めない!」

「そう、頑張ってね」

「うん! 私頑張る!」

 少女の強い決意は、明らかに叶うことないだろう。

 僕はダンネの尻尾を見る。確かにモフモフしている。毛先も白い。

「ダンネの尻尾って、なんで先白いの?」

「産まれたときからこうだった」

「へえ」

 両眼を瞑り震えているカーリーにも、もふもふ尻尾がある。

「そう考えると、やっぱりドロップの尻尾は短いよ」

「僕の尻尾のことは言わないで!」

「なんで?」

「だって恥ずかしいんだもん! 皆ちゃんと長いのに、僕だけ短いから」

「別に恥ずかしくないと思う」

「そうかなあ?」

 ドロップは自分の尻尾がある箇所を眺める。

「そうだよ」

「尻尾の長さは強さに比例しないニャ!」

「誰も強さの話はしていない!」

 僕とニャーは睨み合う。ハチが手を二回叩いた。


 なんか一瞬、頭が真っ白になった気がする。

「それじゃあぼちぼち……なんだっけ? 文政長だっけ?」

 ニヤメがハチに顔を向ける。

「文政長は北の、文政局にいるわ。気をつけてね、帝国いち厳しいから」

「強いのか?」

「色々な意味でね。じゃあ私は、あなたが増やした仕事を片付けてくるから」

 ニヤメは少女を連れ、怪我人のほうへ歩いて行く。

「バイバイ」

 少女が手を振った。

「うんまたね」

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