↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガウル  作者: キヌミタロ
第12章 強者集いし北東
PR
78/85

第77話 父のガルデ

 槍のファルテがいなくなったと思えば、物陰から笑顔のヘイズが姿を見せる。屋根の上にオオカミが姿を見せ、大勢が弓矢を構えハチを狙う。地上ではオオカミたちが鞘から刀を引き抜き構える。ハチは自らの刀をゆっくりと鞘から引き抜いて行く。

「へえ、槍女と最中に手を出して来ると思ったが。意外とそこは律儀なんだな」

「あそこでもし邪魔をすれば、それこそ僕らの首が飛ぶ」

「まあそれもそうか」

「はじめ」

 ヘイズのひと言で、屋根の上にいた全員が矢を放つ。宙を飛ぶ矢にハチは慌てることなく、ゆっくりと後ろへ下がる。数本の矢がハチの足下に落ちて行き、命中しそうな矢だけを刃を傾け受け流した。

 槍を持つ男が三人、ハチへ目掛け駆け始める。

「槍ばっかじゃねえか」

 ひとりの男が槍を突くも、ハチが槍先かわし深く前へ。その槍を片手で掴む。続けて他のふたりも槍をハチへ放つも、ハチが手に持つ槍を一気に引き男を盾代わりにする。寸でのところでとまった槍ふたつ。そこへハチは槍ごと男を押し出す。ひとりの男にぶつけ、別の男の槍を素早く斬り裂く。

「流石に斬れるな」

 刀を逆に持ち、峰打ちで男を容赦なく叩く。叩かれた男は地面に倒れ、体勢を立て直した残りのふたりも槍を放つも、ハチは地面すれすれを滑り男たちの足下へ。そのふたりの足首を峰打ちで叩き、上半身も叩いて行く。こうして槍の三人は地面に倒れた。

 ふと、ニャーが宙を嗅いだ。

「パンの香りがするニャ!」

「パン?」

 俺も嗅いでみるが、どこにもパンの香りはしない。扉が誰かにノックされた。

「入っていい? パン持って来たよ」

「パンニャ!」

 ニャーが扉へ駆け、勝手に扉を開けてしまう。銀の髪に蒼い眼をした男。間違いない、王国の共和国大使館であった男だ。両腕にパンを五個持っている。

「はい」

 男はニャーにパンを差し出し、ニャーはパンを手に取り貪り始める。その男が部屋に入って来るので、俺は両手をあげ構える。

「どうして構える?」

「お前は誰だ!」

「あー、そのことか。パンどうぞ」

 男は大きい丸いパンをダンネに差し出す。

「ありがとうございます……」

 ダンネが少し嫌そうにパンを受け取る。

「そのパン不味いでしょ?」

 男が笑顔で尋ね、ダンネが顔を上げる。

「ごめん。少し意地悪だったかも。でも、王国のパンを食べると、帝国のパンはとてもじゃないが味が酷い。貴重な食糧だけど」

 ダンネは男を見上げながらパンを口にする。

「それで、ガウルはパンいる?」

「いる!」

 差し出されたパンを奪い取る。そして、男を睨みながらパンを食べる。美味しい。

「本来はもうちょっと後で自己紹介をするはずだった。ところが、サジルが全将に手紙を書いてしまったらしく、少々予定より早いが会いに来た」

「王国でいちど会ったじゃないか。どうして言わなかった?」

「理由はいくつかある。報告を受けたガウルの環境が異常な状態であること、ガウルが本当に僕の息子どうか分からなかった。まあ、見て分かるけど。君はパルムにそっくりだ」

「パルム?」

 男はため息を吐く。

「まさか自分の名前すら言ってないとは思いたくないが。ガウルのお母さんはパルムと言うんだ。パルムに眼がそっくり」

 ダンネが俺の眼を覗き込んでくる。

「ところで、そのパルムはどこで何をしている?」

「旅に出た」

「旅?」

 ダンネが噛み終えたパンを飲み込む。

「ガウルの家に書き置きが」

「旅ねえ。皇帝斬りを探しに旅に出ますと……僕の机の上にも書き置きがあったな。ガウルが産まれる前の話だけど」

 ふとダンネが一歩前に出る。

「じ……自己紹介させて貰っていいですか?」

 男は笑顔を見せる。

「どうぞ、そう言えば僕もまだだったし」

「フォクシネル共和国領主の娘、ダンネと申します。この度は」

 男が片手をあげ、ダンネは口を止める。

「待った。息子の友達にまで、そんな堅苦しい挨拶はしてほしくない。いつも通りでいいよ」

「だ……ダンネです」

「よろしく。僕はガルデ。長の孫ってだけで、これと言って何もしてないんだけどね」

「でも、帝国軍が王国で反乱を鎮圧している際に」

「それは子供がしていい話ではない。大人になったら調べるといいさ。キツネは皆頭がいいからね」

「は、はい!」

 パンを食べながら、父であるガルデの顔を睨む。

「一体何したんだ!」

 ガルデが手を伸ばし、僕の食べているパンをそっと掴む。ゆっくり引いていくので、俺は全力で唸り声を上げる。

「まったく……父に腹を立てるのまで似なくて良いんだよ。安心しなよ、手は汚してないよ。育つ芽と枯れた芽を、少し整理したまでさ」

 ガルデはパンを離し、俺は奪われないよう部屋の隅へ逃げる。そしてパンを急いで食べ始める。

「どうしてガウルは怒ってるの?」

「気配が似てるからさ。そりゃ親子だもん。同じ気配を嫌うんだ。だから僕は父さんも母さんも苦手なんだ。身分も高けりゃ態度もでかい。あ、これ言わないでね」

 窓の外から、ヘイズの怒りが聞こえてくる。

「たったひとりに何をしている! それで御身お守りできると思ってるのか!」

「ヘイズは元気だな。ところで、足元のこれはなんだい?」

 床に白い布がふっくらしている。カーリーだ。

「カーリー」

「カーリー?」

「初めまして」

「おお驚いた!」

「ハリスの息子のカーリーです」

「人の眼が苦手なんだって」

「へえ、お父さんとお母さんに会ったら、よろしく伝えておいてね」

「わかりました」

 俺はパンを飲み込む。美味しかった。そしてカーリーに近づく。

「カーリーは頭が良いんだ」

「そうなんだ」

「なんでも答える」

「僕、なんでも答えられる訳じゃ」

「じゃあカーリー、ガウルの状況を鑑みて。僕を最大限利用できるならどうする?」

 俺はガルデを見上げる。ガルデは俺のことを心配している!

「やっぱりガルデ嫌いだ!」

「それが父に対して言うことか!」

 急にガルデが俺に抱き着いてきた。ガルデは尻尾を振っているが、俺は逃れようと必死に暴れる。

「離せ!」

「誰が離すか! 僕に子供ができるとは夢にも思わなかったよ! その息子が大変なことになってるんだから! 僕を上手く利用してくれ!」

 カーリーが「じゃあ」と割って入る。

「僕たちは白く光った花。原初の花というのを探しています。それと、お婆ちゃんからの助言で。ウルガを並び替えると、ガウルになる。ガウルの中には、別のガウルという人の記憶が混ざってるんです。なので、ガウルについて知っているなら」

 ガルデは俺から離れる。

「悪いが母に関しては直接聞いてくれ、僕は母が大嫌いなんだ」

 俺は首を傾げる。

「どうして? 気配が一緒だから」

「単純に好かん、見ているだけで腹が立つ」

 いつの間にかパンを食べ終えたニャーが、ガルデの足に抱き着く。

「ん? どうしたんだい?」

「強烈な負を吸っているニャ」

「強烈な負?」

「怒りの感情がニャーの糧になるニャ」

「そうか、君が手紙に書かれていた、クロネコのニャーだね」

「そうだニャ! ニャーがニャーニャ!」

「変わった話し方するね」

「方言ニャ」

「方言? へえ、ネコの国にも方言があるのか」

 ダンネがドロップを起こし、パンを渡している。

「ウルガ帝国にも方言とあるのですか?」

「山上にあるよ。ほんの些細な方言だけどね。」

「へえ、カーリー知ってた?」

「うん。ただ、使う人……オオカミは珍しいとされているよ」

「僕が産まれた、北の北。いまは亡き部族たちが使っていた言葉だからね。ネコの国に方言があっても大した不思議はないんじゃないか?」

 俺はニャーを指さす。

「でもニャーは股に何もついてないんだ」

「股って……あれだよね?」

「お尻の穴も無いんだ」

「……ん?」

 ガルデは首を傾げ、ニャーを見下ろす。

「ニャーは食べた物全部魔力になるニャ」

「へえ……そうなんだ?」

 ガルデは反対へ首を傾げる。ニャーの体を理解できる人は……いた。カーリーがいた。

「ねえカーリー」

「いまニャーについて尋ねようとしてるよね? 僕は全部答えられる訳じゃないんだよ」

 ガルデがカーリーに近づく。

「悪いが、念のため姿を見せてくれないか?」

 ガルデの気配が濃くなった。ちょっと怖いから、カーリーから白い布を取り上げる。

「ぎゃあ! いきなり白い布を取らないで!」

 ガルデが慌てて両手を振る。

「ごめんよ! 念の為に確認しておきたかったんだ! その……流石にずっとそこにいるもんだから」

 カーリーが床で丸くなり、全身を震わせている。可愛そうだから、白い布を被せてあげる。

「僕は人が苦手なんです! 人の眼が苦手なんです! お許しください!」

「大丈夫、大丈夫だから」

 ドロップが急にくしゃみをする。ダンネがドロップの頭に手を当てる。

「大変、ドロップが風邪を引いたかもしれない」

「風邪引いただと!」

 ガルデが急に大声を出す。

「今すぐ医者のところに行くぞ!」

 ドロップがガルデを見上げる。

「でも僕そこまで」

「黙れ! 風邪を舐めるな! 風邪は死ぬんだぞ!」

 ガルデがドロップを抱きかかえ、部屋の外へ歩いて行く。ドロップが連れていかれる!

 急いでガルデを追う。

「ドロップを返せ!」

「返さん! お前もついて来い!」

 唸り声を上げても、ドロップが連れていかれる。階段を降り扉を開けて外に出る。ハチはまだ戦い続けていた。

「おらあ! てめえら威勢だけか!」

「ハチイ! ドロップが連れていかれる!」

「なに!」

 ハチがガルデを睨みつけ、ガルデはハチを睨む。

「てめえ、ガキをどこに連れて行こうとしてんだ!」

「風邪を引いた子を医者に診せて来るんだ!」

「風邪如きでビビってんじゃねえよ!」

「黙れ皇帝斬りが! ヘイズ! 俺が戻ってくるまでに、そいつの首を斬り落とせ!」

「承知しました!」

 ハチとヘイズたちは再び戦い始める。ふと、俺は気になった。

「ガルデは戦わないのか?」

 そのひと言で、周囲のときが止まったように静かになった。ハチも異変に気づいて、刀を下げる、

「ん? どうしたお前ら?」

ドロップを抱えているガルデが、ゆっくりと俺に振りかえる。

「僕はその……」

 ガルデは何も答えない。俺はまた首を傾げる。

「どうして戦わないんだ?」

「いやほら……僕は僕力とは無縁というか」

「ガルデは弱いの?」

 そのひと言で、ガルデを俺を堂々と睨みつける。かなり怖いが俺も負けじと睨み返す。

「お前ら動くなよ!」

 ガルデと睨み合っていると、近づいてきたハチが俺の頭を叩く。

「何するんだ!」

「あのなあ! この国で、弱い! なんて言葉使うな! それでこそたたっ斬られるぞ!」

「じゃあガルデは俺を斬るの?」

「ガルデ? こいつか?」

「流石に斬らないよ」

「俺のお父さん」

「へえ、親子だけあって似てるな。まあ単なる親子喧嘩なら構うことねえや」

 ハチは刀を鞘から抜き、ときをとめた集団に歩いて行く。

「ガウル! とりあえず謝れ! ようし次倒れたい奴は出て来い!」

 ハチはまた戦い始め、俺はガルデを睨む。ガルデも俺を睨んでいたが、先に折れため息を吐く。

「僕は戦うことを禁じられてるんだ」

「なんで?」

「だから母さんも父さんも嫌いなんだよ。医者に行こう。こっちだよおいで」

 ガルデがドロップを連れて行くので、怒りを滲ませるガルデの後を追う。

 明らかにニャーが、ガルデの負を狙おうと周囲を歩いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。