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ガウル  作者: キヌミタロ
第12章 強者集いし北東
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第76話 槍のファルテ

「出て来い皇帝斬り! その首を跳ねてやる!」

 物騒な朝がやってきた。外から女の人の声がずっと叫んでいる。

 ハチが大口開いて欠伸をする。

「面倒くせえのが来たな」

 皆も眼を覚ますが、まだ寝ぼけている。

「なぜ寝込みを誰も襲わないの!」

「しょ、しょうがないっすよ。ガルデ様のご子息が」

「それがどうした! 私はね! 師たる母上に皇帝斬りの首を持ち帰るまで敷居は跨がせないと言われたのよ! あの男は私を女だからと逃げやがった! 許せん!」

 ハチが部屋の窓を開ける。

「うるせえぞ! 日の出と同時に来るんじゃねえよ!」

 誰と話しているんだろう。俺も窓に近づいて外を見る。

 手に長く大きな槍、茶色い髪に両耳がふたつ、尻尾が水平になって浮いている。

 その背後に、大勢の女のオオカミが立っている。

「あの人誰?」

「あの女は……誰だっけな? お前名前なんだっけ!」

「ファルテだ! さっさと降りて来い!」

 ファルテは槍を構える。

「嫌だよ」

「だったら私から行く、そこで待ってろ!」

 歩き出したファルテが、背後の女の人たちに止められる。

「駄目っすよ! ご子息怪我させたら洒落にならないっす!」

「離せ! 奴の首を手に土産に帰るんだ!」

 ファルテが大勢に取り押さえられる。うるさいな。

 ダンネとニャーも窓の外を眺める。

「あの人強いの?」

 ハチが頭を掻く。

「強いんだけどまあ……」

「何かあるの?」

「女だから戦いたくないんだよ」

 ファルテが周囲の人たちを振り払う。

「聞こえたぞ! 聞いたかお前たち! 女だから舐められてるんだぞ! 男はどいつもこいつも舐めやがって! とっとと全軍突入しろ! 将軍命令だ!」

 あの人将軍なのか。うるさいな。

「だからご子息に怪我させたらまずいっすよ!」

「不祥事あれば腹掻っ捌いてお詫び仕る!」

「全員で将軍を取り押さえろ!」

 ファルテはまた大勢の人たちに取り押さえられていく。何しに来たんだろう?

「今ならニャーが纏めて」

 ややこしいのが出て来たので、片手で頭を抑えつける。

「離せニャ!」

「これからどうするの?」

「逃げる……と、言いたいとこだが。あのファルテは槍の名手だ」

「名手?」

「槍の使い方が上手いってこと。さっきから、なにふざけてんのか知らないが。あー見えてちゃんと将だ。槍を棒きれみたいに振り回す。おまけに地獄耳だ」

「誰が地獄耳だ! さっさと降りてこい!」

「だから! 女を殴る趣味もねえんだって!」

「腰抜けが!」

「いや将軍、あれは女性に優しい人であって」

 ファルテが助言をしようとした、女の人の胸倉を片手で掴む。

「貴様! 相手が皇帝斬りだと分かってるのか!」

「分かってるっす! お願いだから落ち着いて下さい! ご子息に怪我されたら本当に腹どころじゃなくて首が飛ぶんすよ! おまけにここ北東はヘイズの縄張りっす。もう既に囲まれてるの」

「そんなことは分かってるんだよ! 邪魔立てすれば容赦せん!」

「ここはニャーが代わりに」

 またややこしいのが出て来たので、片手で頭を抑えつける。

「離せニャ!」

「しゃあねえ、あの槍だけ斬り落としてくるわ」

「落ちるのは貴様の首だ!」

「朝から元気だな。お前たちここで待ってろ」

 ハチは欠伸をしながら部屋を出て行く。

 ふと、ドロップがベッドの上に座っているが、落ちそうになっている首をかろうじて会上げている。傍で両眼を瞑り、震えながらカーリーが……見守っているのか?

「ドロップどうしたの?」

「なんかすごい眠い。ちゃんと寝たのに」

「まだ横になってれば? ハチと……誰だっけ?」

 ダンネが振り返る。

「ファルテ」

「ハチとファルテがこれから戦うみたいだし」

「うん。そうする」

 ドロップはゆっくりとベッドへ倒れ込む。すぐに眠ってしまったのか、息づかいが穏やかになった。

「かかってこい!」

 外からファルテの声が聞こえてくる。うるさいな。窓へ戻り、ダンネとニャーと一緒にハチとファルテの戦いを眺める。ファルテが槍を構え、ハチも刀を鞘から引き抜く。

「ねえガウル。いまの内に、皆の名前覚えたほうがいいかも」

「もう誰が誰だか分からなくなった」

「分かる。私もたくさん紹介されて分からなくなったことがある。だから、密かに紙に名前を書いておくのよ。会う前にチラッと確認するのチラッと」

「チラッと」

「そうチラッと」

 ファルテが槍を突き、ハチが刀で刃先を逸らす。刀を滑らせたまま、ハチがファルテに近づくが、ファルテが下がり槍を縦に振る。柄がハチの迫るが、ハチは体を反り間一髪でかわす。ファルテはそのまま槍を回し続け、ハチは大きく下がる。

「相変わらずド派手な女だな」

「どうした! この槍斬り落としてみろ!」

 ハチとファルテは睨み合っている。ふたりとも楽しそうだ。

 ダンネが俺の袖を引っ張る。

「ねえどうやったら、フォクシイやファルテみたいに強くなれるの? 双剣貰っても私使えない」

「化け物に使うニャ」

 俺とダンネでニャーを見る。

「あの黒蛇か?」

「それっぽい武器ニャ」

「それでその。刺せばいいの?」

「その後は知らないニャ。それでなんとなく対抗できそうニャ」

 相変わらず良く分からない。仕方ない、ここは白まんじゅう先生に尋ねるか。ベッドから白い布をひとつ手にとり、カーリーに詰め寄っていく。カーリーはこちらに気づいたが、相変わらず両眼を瞑って震えている。その上から白い布を被せる。窓の外から、ハチとファルテが戦っている音が聞こえてくる。そちらも気になるので、カーリーの手を布越しに取り窓に連れて行く。外を眺める。

 ファルテが槍をハチに目掛けひと突きするも、ハチは体を横向きにし刀を掲げ、一瞬で降り下ろす。刀は確実に槍を捉えたが、火花が散って刀が弾かれる。ファルテは槍を横に振り回し、ハチが吹き飛ばされる。

「どうした斬り落とすんじゃなかったのか!」

「ふざけやがって、その槍は全部鉄か?」

 ファルテは槍を身軽に操り構えなおす。

「皇帝斬り! その首もらい受ける!」

 相変わらずふたりとも楽しそうだ。俺は白まんじゅう先生に顔を向ける。既に床で丸くなっていた。

「ねえカーリー。ニャーの言ってることがよく分からないんだ」

「ニャーが言いたいことは思ったより単純だよ。シルケの癒しの力が、王国に現れる化け物を追い払えるんだ。だから、僕たちは黒蛇から逃げれたんだ。ということは、ダンネが持つ双剣。それっぽい……癒しの力が宿った双剣は化け物に対抗できる武器となった。問題なのが、化け物が大きすぎて、ドロップの癒しの力じゃまだ完全に対抗できない。ということさ」

 ダンネが白まんじゅう先生に顔を向ける。

「つまり……ドロップの癒しの力を強化すれば」

「その武器で化け物に対抗できるよ」

 原初の花が脳裏に浮かぶ。

「原初の花だ」

「そう。ドロップの癒しの力。それは原初の花も影響している」

 ダンネが「そうだ」と声を漏らす。

「ニャーが、ネコの国でニャットが原初の花を探していると言ってた。それにバカラスも、ドロップの杖を奪おうとしたし」

「ネコの国は一旦置いておこう。どこにあるかも分からない。問題は、理ですら欲する原初の花。それをいま、ドロップの杖が吸い取っている。行く先々で原初の花がある。何故か、僕のお婆ちゃん。孤児院の裏庭にもあった。恐らく、ドロップと原初の花は繋がっている。シルケはガウルに西へ行けと言った。原初の花を探せ、これが正解だと思う」

「ドロップの癒しの力を強化しろと言うことか」

「そういうことだね」

 そのドロップは、いまベッドの上で倒れている。外からはいまだに、槍と刀が激突する音が聞こえてくる。ファルテが槍を突きに突き、ハチが刀でかろうじて防いでいる。

「ねえ、あのままじゃハチ危ないよ」

「ハチ頑張るニャア!」

 ハチが刀を素早く振り、ファルテの槍を弾く。ファルテはすぐに槍を引き、次の一手を繰り出す。

「思ったより厳しい!」

「今日が貴様の命日だ!」

 傍から見てると、ハチが押し負けているように見える。けれどなんだろう。ハチがファルテの槍をいなしている様に見える。ファルテも槍の名手だからか、内心では気づいていると思う。槍が当たらない。なんだかんだ、ファルテは一撃もハチに刃を当てていない。窓から見下ろす、その姿に……なんかこうモヤモヤしたものが見えて来る。逆に、ハチの気配が徐々に増していく。何か狙っているのか、ハチは確か口にした。


 槍だけ斬り落とす。


ハチの狙いは恐らくそれだ。ファルテが突きの連打をやめ、半歩下がった瞬間。ハチは脱力し全身を下げる。両手に持つ刀は添える程度の力だろう。

「落とすよ」

 ダンネが「え?」と声を出す。

 ファルテは槍を横から振り、刃先でハチを狙う。ハチは両手で柄をしっかりと持ち、刀を下から斜め上に振る。一筋の動作に歪みなし、ハチの刀はファルテの槍に食い込み、槍の刃がハチの眼前をかすめながらも。ハチの両眼はその刃を捉えている。金属が衝突しあう音も静か。ハチはファルテの槍を斬り落とした。槍の刃は地面に落ちる。ハチとファルテは両者動かない。ハチは堂々と刀を鞘に納め、ファルテは理解できないのかその場で固まっている。

 ファルテは残された槍の柄を、乱暴にハチへ投げつける。

「クソが!」

「おい!」

 ファルテが両手を頭を抱え、地面に膝をつく。

「クソオオオオオオオオオオオオ! また母上に叱れるううううううう!」

 明らかにハチが、呆れた眼をしてファルテを見下ろしている。

「お前もしかしてその為だけに」

 ファルテは顔を上げ、ハチを睨む。

「貴様のせいだ! 皇帝を斬り! 私たちから逃げた! 母上が私に言った! 次代の将はこんなにも弱いのかと! 生き恥を晒す気はない、その刀を寄越せ!」

 ファルテはハチに手を伸ばす。

「何するんだよ?」

「この場で死してお詫び申し上げる!」

 ファルテがハチに飛び掛かる。ハチはファルテと押し合う形になる。

「おい! 誰でもいいから、この女連れて行け!」

 ファルテに女の人たちが群がり、叫ぶファルテが連れていかれる。

「二度の敗北など将として生きるに値しない! 潔く散って見せよう!」

「将軍! 今日は帰るっす! 再戦のときをお待ちください!」

「クソオオオオオオオオオオオオオ! そのクビ寄越せえええええええええ!」

 朝から元気いっぱいのファルテが連れていかれる。ハチは両眼を細くしてファルテを

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