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ガウル  作者: キヌミタロ
第11章 西へ
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第72話 東のザンガ

 ハチが作戦会議を道端で開いた。

「まずはこの東を抜けて北東回って北に抜ける」

 ダンネが手を上げる。

「なんだ?」

「国の外から北の山に入っちゃ駄目なの?」

「それは」

 ハチが先を言わずに別へ顔を向ける。俺はその先を見れば、明らかに大きなオオカミ、体格が大きすぎるオオカミが優しい笑顔でこちらを見ている。

「気にせず続けて。不意打ちとかする気はないよ」

 ハチが何事も無かったように、ダンネに顔を戻す。

「山には危ない連中が潜んでるから、ちゃんとした道を通らないと怒られる」

「また怒られるニャ!」

 やはり、ニャーは怒られるのが嫌らしい。俺も嫌だけど。

「ニャーは怒られるの嫌なんだ」

「ニャーは魔力の塊ニャ、怒られると魔力がグラグラするニャ」

「まあクロネコの話はいいや。とにかく、山へ登るには北から国を出て山道を辿ったほうがいい。だよな?」

 ハチは大男に確認をとる。

「そうだね。話は終わった?」

「終わったさ」

 ハチが腰に提げている刀の柄に手を伸ばす。

「あー待って違う違う」

 大男は両手をヒラヒラさせている。

「なんだよ、やらねえのか?」

「サジルからの手紙を受け取ってね。先に挨拶をさせて欲しい」

「挨拶? あーそうか。それじゃ先に済ませてくれ」

 大男が俺に近づいてきて跪く。それでも背は御男のほうが大きい。

「でっかいニャ」

「東の守護をしております、名をザンガと申します。参上遅れましたことお許しください。また、御身ご滞在の部屋と知らず部下が粗相をしましたこと、重ねてお許しください」

「許すな許すなー」

 ハチが茶化し、なぜかニャーが大男ザンガに登り始めている。

 ダンネとドロップがそわそわしている。

「降りなさい!」

「駄目だよ、降りなよ!」

「僕が言うのもあれだけど、あまり気にする必要ないよ」

 ハチがニャーに指をさす。

「おいクロネコ、挨拶の邪魔すると場合によってはなんだ……大変なことになるぞ」

「ニャ! 怒られるニャ!」

 ザンガはゆっくりと立ちあがる。本当に大きい、背が高くそれでいて体がスラっとしている。ポチより大きい気がする。

「お前相変わらずデカいなあ、一番大きいんじゃないか?」

「まあ……そうなんだけど。僕はもっと小さくても良いんじゃないかと」

「もう高いニャ!」

「登るなら登っていいよ、よく登られるから……」

「頑張って登るニャ!」

 ニャーはまたザンガを登り始める。ハチの知り合いなのだろうか?

「ハチの知り合いなの?」

「前に俺を殺そうとした将軍のひとりだ。いやあ、前勝ったのは運が良かったよ、殴る蹴るの重みがちげえ」

 物騒なことを言うハチに対し、ザンガが穏やかに笑う。

「今日もそのつもりで出向いたのだけどね、サジルの手紙が届いてね。ところでハチというのかい? 前は皇帝斬りで通してたからね」

「あー、名前が無いからハチにされた」

 そういえば、ハチも記憶喪失だったはず。

「ハチは記憶喪失なんだ」

 ハチが刀の柄に手を伸ばし、俺をしっかりと睨みつける。巨体のザンガが間に入ってくれた。

「君はそこまで馬鹿じゃないだろ?」

「まあいいか、ガキの言うことだ。ガウル、誰から聞いたよ?」

「ポチが言ってた」

「あのお喋り野郎が」

「なるほど。皇帝斬りの出生を調べても出て来ない訳か」

「俺を調べても家族はいねえぞ」

「まあいたらいたで」

「おう、ちょちょい」

 ハチとザンガが俺たちを見る。

「それで、挨拶終わったところでやるのかい?」

「いや、仕切りなおしと行こうか。この先どう行くんだい?」

「まあ、北東地区にあがって北でサジルの食糧をかっさらって山?」

「サジルの食糧? あーそれならもうばら撒かれたよ」

「登ったニャ!」

 ニャーがザンガの肩まで登る。

「登ったねえ。そうだ、僕の名前でご飯食べなよ。配給所すぐそこだし」

「いいのか? 俺からすると敵のど真ん中だが?」

「僕の名前上げれば大丈夫だよ! あとで君にぶつけたい将兵連れて行くから、意味は分かるね?」

「いいねえ! 帝国に戻ってきた甲斐があるってもんだ! このガキたちはどうすんだ?」

 ザンガはニャーを、大きな両手で掴み降ろす。

「降ろされたニャ」

「正直なところ……どうすればいいと思う?」

「皇帝斬りの俺に聞くんじゃねえよ」

「いや、手紙にもあったけど。あの方のご子息ならば、こちらで保護すべきと思うんだけど。怖いから念のため、確認の兵は送ったけど」

「おい! 将軍が迷うな!」

「それもそうだな。よし! 君がこのまま預かってくれ!」

 恐れ知らずのダンネが、ザンガの足下へ行く。

「私たち皇帝斬りと一緒に行動するの? 保護して!」

「うーん!」

 ザンガは両腕を組み両眼を瞑る。震えていないカーリーみたいだ。

「サジルの手紙には野放しにしろ、それが野郎の狙いだと書いてあったから……保護しないほうがいいと思うんだあ」

 野郎、恐らくあの男。俺の父親だろう。

「俺の父さんはそんなに怖いのか?」

「怖いよ。いえ! 失礼しました! 父君は身分の高さ故、将軍の地位に留まらずご自身で動いております。帝国を陰ながら支えているお方で、基本一歩引かれてのお立場。故にガウル様の教育方針となりますと」

「あれか、我が子を崖に落とすみたいな」

「たぶんねえ」

 俺は崖に落とされるのか。なんて父親だ。

「じゃあ俺が預かったほうがいいだろ、皇帝斬りの傍にいながら帝国見たほうが楽しいと思うぞ」

「それもそうだね」

 そうなのか? なんか会話がおかしい気がする。

「じゃあ僕は君にぶつけたい将兵を連れて来るよ。弱すぎると無駄に大怪我させちゃうからね、既に峰打ちで何人か叩いたろ?」

「囲まれたからやった。大丈夫だったか?」

「まあ骨折は免れないね、しかし君は面白い。どうして殺さない?」

「俺は戦えればそれでいいのであって、殺しは趣味じゃねえな」

 ふと、ハチが嘘をついた。

「なるほど。ではまた後で」

 巨体のザンガが去っていく。俺はハチに聞きたいことがある。

「ねえ、記憶喪失のこと聞いたら駄目なの?」

「お前……何も覚えてねえから、聞いてもしょうがねえだろ」

「そうなんだ。俺の記憶も断片的だし、ドロップの記憶喪失も……」

 ドロップをじっと眺めてしまう。ドロップは杖を横に動かし両手に持つ。

「な、なに?」

 ドロップの記憶にはシルケという手掛かりがある。

「ドロップはシルケという手掛かりがある」

「そ、そうだね」

「でも俺の記憶に手掛かりはない。フォクシイとトルピーのことは思い出した。あと帝国に来る前の景色に見覚えがあって」

 誰かに頭を叩かれる。

「アホか、だから思い出せねえのが記憶喪失だって言ってんだろ。ごちゃごちゃ考えてないで飯行くぞ飯!」

「ご飯ニャ!」

「配給所を探すぞ! 続けクロネコ!」

「ニャア!」

 意気投合したふたりが先を行く、考えるのをやめてふたりを追う。ハチは道を歩いている集団、腰に刀を提げている集団に声をかけている。

「ザンガの配給所はどこだ!」

「飯はどこニャ!」

「東の配給所はこの道を真っすぐ行って右だ。香りで分かると思う」

「よっしゃあ! 続けえクロネコ!」

「ニャア!」

 またふたりは駆けだす。皆でふたりを追いかけていると、ハチが足を止めて振り返る。

「どうしたニャ?」

 ハチは返事をせず、震えているカーリーに近づいていく。カーリーは俺の背後に隠れる。

「どうしたの?」

 カーリーの代わりに尋ねてみる。ハチはカーリーを眺めている。

「気のせいか? よく見てるなあと思って」

「カーリーが?」

「そうカーリーが」

 ハチと一緒にカーリーを見る。相変わらず、両目を瞑り体を震わせている。

「まあいいや、行くぞクロネコ!」

「了解ニャ!」

 またふたりが駆けていく。なので皆で追いかける。ハチの言ったことが気になったので、俺はカーリーの足音に注意する。カーリーは最後尾を駆けている。足音からしてドロップの背後を駆けている。いや、ドロップに合わせて駆けているのか? それがハチの言ったことと、どう繋がるのかが分からない。

「ここだあ! パンの香りがするぞ!」

「パンニャ!」

 他と違って大きい建物だ。煙突から煙が上がっている。ハチとニャーが我先に入っていくので、黙って俺たちも続く。中はオオカミでいっぱいだ。深緑色の服を着て、皆腰に刀を提げている。壁際に入る集団は槍を肩に掛け、椅子に座りながらパンを食べているオオカミ、壁に寄り掛かりながらパンを食べているオオカミ。ハチに気づいたオオカミたちがこちらを真っすぐに見ている。

「お前どこのオオカミだ?」

「ザンガがここで飯食えって、ちょっとした待ち合わせだ」

 オオカミの男はパンを食べながら奥を指さす。

「ありがとよ」

 ハチは軽く手を振って奥へ行く。周囲がざわつき始めた。

「おい見ろよ、キツネとイヌがいるぞ」

「あの黒いのなんだ?」

「キツネじゃねえの?」

「でも尻尾が違うぞ」

 明らかにニャーが目立つ。それもそうだ、どこにあるか分からないネコの国。テレポーニャの事故だったか、それでこっちの世界に来たという……なんかよく分からない集団になってきた。考えるのをやめよう。

「パンをくれ!」

「パンくれニャ!」

 奥のカウンターでパンを焼いているオオカミがいた。白いエプロンを着ている。そのオオカミが眼を細めてハチを見る。

「あんたどこの隊だ?」

「ザンガの名前を出して、ここで飯食えと言われた。俺とガキの分……合わせて五個くれ」

「将軍が言うなら」

 男は奥からちょっと大きい丸いパンを五個、ハチの前に出して来る。ニャーは奪うようにパンをひとつ取り、ハチが残りを俺たちに渡して来る。すごい大きいパンだ、ニャーはすでにかぶりついている。俺もパンを咥える。美味しい。

「なにこれ? すごい味」

 ダンネがパンをひと口食べ、険しい表情でパンを眺めている。

 パンを渡してくれたオオカミが顔を覗かせる。

「味は悪いが我慢してくれ、何かと薄めているからな。ここは軍の配給所、腹が膨れればそれで良しみたいなところだ」

 ハチがパンを食いちぎる。

「へえ、前もそうだったけど、帝国って大変だな」

「あんたどこから来たんだ? 見慣れないな」

「前に皇帝を斬って戻ってきたんだよ」

 ダンネがハチに顔を向ける。

「それ言っちゃ駄目だと思う」

「え?」

「てめえ皇帝斬りか!」

 配給所にいた全員が立ち上がり武器を手にする。

「おいおい! 長の孫がいるんだぞ、怪我するぞ」

 パンをくれたオオカミが包丁を手にしている。

「ふざけんな! 長の孫がこんなところにいる訳ないだろ!」

「いるぞ。ほら」

 ハチがパンを口に銜え、俺を両手で掴む。俺はパンを食べ続ける。美味しい。

「よく見ろ、長に似ているだろ?」

「俺が知るか!」

「じゃあ親父は?」

「知らねえよ!」

「その子は長の孫だよ」

 男の声がして振り返る。笑顔のオオカミが立っていた。気持ち悪いぐらい姿勢が真っすぐだ。

「ヘイズ将軍……」

 ハチが俺を降ろしてヘイズ将軍を睨む。

「ヘイズ……あー、あの狂信者か」

「失礼な! 俺は狂信者ではない! ガウル様、恐れながらご挨拶は後ほど。失礼致します!」

 ヘイズ将軍と名乗った男が、駆け足で配給所の外へ出て行く。パンを飲み込んでハチを見上げる。

「狂信者?」

「忠誠心が異常なんだよ。後で分かる」

「へえ」

 俺はパンを食べ続ける。ダンネがパンを食いちぎる。

「あの人、何しに来たの?」

「ガウルをつけてるな。面倒なのに眼をつけられたな」

 もしかして、いつも笑顔の間抜けか?

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