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ガウル  作者: キヌミタロ
第11章 西へ
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第71話 連れさらわれるガウル

 ハチが刀の鞘を使い、割れ残った窓ガラス壊して行く。そして床に顔を向ける。ガラスの破片が散らばっていて危ない。

「これじゃあゆっくり休めねえな」

「ハチのせいだよ」

 ハチが鞘を俺に向ける。

「お前、血の臭いが分かるガウルだろ?」

 俺は顔を背ける。

「なんのこと?」

「おうおう、僕ちゃんは嘘をつくのが下手なんでちゅか?」

 初めて強烈に馬鹿にされた気がする、俺はハチを睨みつける。そんな俺を、ハチはにやけながら見下ろして来る。

「おんやあ、可愛い子供が睨んでるぞお! おー怖い怖い!」

「俺は可愛くなんかない!」

「なーるほど。てめえ逆になったな?」

「逆? なんのこと?」

「さっきの言い回しは世間知らずのガキから出る言葉じゃねえよ。そのときてめえ、僕。そう言ったな? 俺が皇帝を斬った血の香りを刀から嗅ぎやがった。気にならねえ野郎はいねえよな? 俺とお前が最初あったときは馬鹿なガキが僕とほざいてたぞ。それがどういう訳だ? いまの口調からすると、てめえ逆になったな。僕が俺で俺が僕になってる。どうだ?」

「そ……そんなこと言われても分からないよ」

 俺は少し考えた。そして、先ほどハルに言ったことを思い出す。


 いま口にしたのは俺なのか?


 いや、口にしたのは俺だ間違いない……久々に頭が痛くなってきた。頭を掻く振りして頭を抑える。

「まあどっちでもいいや! 助けられたのは事実だし! ありがとよ」

 ハチはベッドに座り込む。

「ところで、さっきのハルって男誰だ?」

「俺、頭痛いから横になる」

 俺は空いているベッドへ前のめりで倒れ込む。

「大丈夫?」

 ドロップなのか、ガラスを踏み鳴らしながら足音が俺に近づいて来る。たぶん、杖で白い光をピカピカしていると思う。

「それで、さっきの男は誰だ?」

「ダンネえ」

 説明をダンネに丸投げする。

「門番の人」

「名前はハル」

「長と皇帝両名の勅命において任じられた、門番の人だって」

「あーあ。ついに山が降りて来たか」

 俺は首を横に動かす。少し輝きの光が視界に入るも、刀を肩に掛け、片足を膝に乗せているハチの姿が気になる。ちょっとカッコイイ。

「山ってなに?」

 俺はゆっくりと起き上がり、ドロップが杖を下げる。

「皇帝を斬って来いと言われて、まあ言われるがまま斬ったんだよ。ただし殺すなと言われててな。ほんで、皇帝斬ったあとは追われる羽目になった訳よ、まあウルガ帝国は大して強くねえな。なんと言うか、出来立てホヤホヤの軍隊みてえな。将軍は別だぜ、あれは強い。それぐらい、さっきの門番が強いってこと。山にいる連中は気配からして違う、さっきのハルとかいう門番は、臭いで俺の立ち位置まで把握しやがった。焦ったよお! こんな狭い部屋で一刀降られたら誰か怪我しちまうかもしれねえ! よく追い払ったな」

 ハチが笑顔で俺を褒める。ちょっと嬉しい。

「俺が王国へ逃げたのも山が関係している。流石に目障りになったか、気持ちの悪い気配の連中があちらこちらに出て来てな。こいつはヤベーと言うことで、とんずらかました訳よ」

「気持ちの悪い気配ってなに?」

「そうだなあ……人を無感情に斬れる連中。まあ俺がいけないんだけど! 己の間合いを完全に網羅して相手との距離を測る。あとは粛々と斬るだけ。みたいな連中だ」

 俺は起き上がる。さっきのハチもかなり凄かった。

「屋根の上で走ってたハチも凄かった! カッコよかった!」

 俺の言葉を耳にしたハチが、嬉しそうに笑顔を見せる。

「そうかカッコよかったか! お前は人を見る目があるな!」

 ハチが俺の頭をグシャグシャに撫でて来る。ちょっと嬉しい。

「で? なんでお前らここにいんだ? 知らねえのがひとり増えてるし」

 ハチがカーリーに顔を向けると、カーリーはベッドの物影に隠れた。

「なんだあいつ?」

 ダンネがハチとカーリーの間に立ちはだかる。

「カーリーをイジメないで!」

「俺何もしてねえぞ」

 俺はハチの服を引っ張る。

「見なければいいんだよ」

「なんだそりゃ?」

「あれでカーリーは頭が良いんだよ。国で一番なんだって」

「へえ! 学者様か! 俺には縁がないこった」

「二番がダンネだよ」

「二番」

「あ」

 しまった。言ってはいけないことを口にしてしまった。

「すげえじゃん! 国の一番二番の学者様が一緒なら怖いもんねえだろ!」

 ハチの言葉にダンネが嬉しそうな顔をする。

「それでこのネコが訳の分からねえネコだろ?」

 ニャーがハチを睨む。

「訳分からなくないニャ!」

「ニャーは魔法使えるし、負の感情も吸えるんだよ」

「へえ……なんか凄い奴しかいなくねえか?」

「ドロップは癒しの力を使える」

「化け物集団じゃねえか。それで、刀でも買いに来たのか?」

 確かにそれは欲しいかもしれない! けれど本当の目的は手掛かりを探すことだ。

「王国で化け物に襲われて、シルケが西へ行けって。それとウルガを並び替えるとガウルになるから、カーリーのおばあちゃんに聞いて来なさいって言われた」

「ウルガっつったら、長の名前だよな?」

「ハチは長を知ってるの?」

「何人か倒して強い奴誰だと尋ねたら、満場一致でウルガだな。そいつに会いに行くのか?」

「うん。僕のお婆ちゃんなんだって」

「へえそうなのか……は?」

「僕のお婆ちゃんなんだって」

 ハチは何も言わず、俺は瞬きをする。

「お前が嘘をつくガキじゃないのは知ってるが……本当なのか?」

 ハチがダンネに答えを求める。ダンネは首を縦に振る。そして、ハチはゆっくりと俺に顔を向けてくる。

「お前はあれだ。ちょっと頭が悪い」

「俺は頭悪くないぞ!」

「俺が追われているのは、皇帝様を斬ったからだ。ということは、帝国の敵になってる訳だ。その帝国で一番偉い長の孫が俺の前にいたら、これを利用しない手はないよな?」

 そうなのか? 俺はダンネに顔を向ける。ダンネが細い眼で俺を見ている。

「なんだその眼は?」

 不意にハチが俺を両手で掴み立ち上がる。

「そうかあ、お前は長の孫かあ。こいつはいいや! お前を持ってりゃ下手な奴は襲ってこねえ!」

 俺はハチの脇に抱えられてしまう。

「よっしゃ! 今から全員で長の元へ行こうぜ!」

 ダンネがハチに立ちはだかる。

「駄目よ! ハチは皇帝斬りなんだから! 私たちも襲われちゃう!」

「安心しろダンネ! ここにガウルがいる!」

「ガウルを盾にしないで!」

「大丈夫大丈夫! この国の連中は長に逆らえねえ! この部屋も窓が割られてるし」

「ハチが壊したんでしょ!」

「まあ俺と一緒にくれば帝国がどんなところか分かるだろ! ほら行くぞお」

 ハチは誰の承諾も得ないまま、部屋の外へ歩き始める。

「ちょっと待って! 止まってハチ!」

「止まらない」

 ダンネがハチを必死に止めようとするが、所詮は大人と子供。ハチは俺を脇に抱えたまま、ダンネの必死の抵抗を無視し続け、廊下を歩き階段を降りていく。

「ねえ!」

「止まらない。それにだ、この国は子供だけじゃ何かと危ない。ここは大人の俺と一緒にいたほうが安全だ」

「あなたが一番危ないの!」

 ハチは大声で笑う。

「それもそうだな! だからこそ離れずついてきてくれ!」

「ガウルを離して!」

「離さない」

 ハチは宿の外へ出る。大通りには人の気配がない。

「さあガウル、ここで問題だ。敵はどこだ?」

「敵?」

「敵は分かり難いな、俺を狙っているのはどこにいる?」

「屋根の上にいる」

「武器は?」

「武器?」

「まあこれも分からないよな。じゃあ答え合わせだ」

 ハチは大通りを背に、上を見上げながらゆっくりと後ずさりする。

「無理して覚えることはねえ。ただし、人数と手に持っている武器はなんとなく把握しろ」

「なんで?」

「俺の勘が正しければ、お前はそれが出来る奴だ」

 ハチが屋根の上を指さす。変な物を手にしたオオカミが三人、男たちが何かをこちらに向けている。

「あれなに?」

「弓と矢。弓の弦で矢を引っかけて、びよーんと後ろに下げるとスパーっと矢が飛んでくるんだ」

「へえ」

 ハチが俺を高らかに掲げる。

「危ないぞ! 長の孫だぞ!」

 三人の男たちは弓を下げる。ハチはそのまま俺を地面に降ろす。

「そら見ろ、お前にビビッて矢一本撃てねえ。それだけ、お前を傷つけることを恐れている。長の孫が本当なら、それこそ俺について来い。ウルガ帝国とかいう物騒な国を肌で感じるいい機会だ」

 皆も宿の外へ出てくる。

「吹き飛ばしていいニャ?」

 全員でニャーに顔を向ける。こいつが一番危ないんじゃないか?

「あーうん。危ないから戦わなくていいぞ」

「残念ニャ」

「そう言えばクロネコ、この国は飯が無いぞ」

「ニャーのご飯はサジルが持って行ったニャ!」

「二刀のサジルか? なんであいつがお前のご飯を持って行く」

 ダンネが「違う!」と割って入る。

「ニャーが勝手に帝国軍が持ち帰った食糧を奪おうと追いかけたの!」

 ハチは頭に手を添えて笑う。

「良かったな無事で! あいつかなり強いほうだぞ!」

「そうなのニャ?」

「そうなのニャ。だから気をつけるニャ、この国は物騒だニャ」

 何故かハチがニャーの口真似をする。

「ニャーの真似をするニャ!」

「ようし目指すべきは北ニャ! 北に行くニャ!」

 ニャーは両耳を横にし、ハチを睨みつける。

「ニャーの方言を真似する奴は絶対に許さないニャ!」

 方言? 方言てなんだ?

 ドロップがカーリーに歩み寄る。

「ねえカーリー、方言ってなに?」

 カーリーは相変わらず震えている。

「とある……ち、地域で使われている……独特な……言葉遣い……」

「へえ」

 ハチが高らかに右手を掲げる。

「サジルの食糧を奪いたいか!」

 それを聞いたニャーが右手を高らかに掲げる。

「奪いたいニャ!」

 流石の俺でも分かる、絶対に駄目だろ。

「腹いっぱい食いたいか!」

「食べたいニャ!」

「ようしならば前進あるのみ! 進め子供だちよ! ここ東地区より北東を抜け北を抜け、長の下までたどり着くぞ!」

「ニャアアアアアアアアアア!」

 ニャーの大声がうるさく、ついニャーの頭をハタいてしまう。もちろん睨み返して来る。

「なにするニャ!」

「大声を出すな!」

「お、どうしたどうした。喧嘩か?」

 ダンネが俺を指さす。

「ガウル大声が嫌なんだって」

「大声? まあ確かにうるせえな。気をつけろクロネコ、この国は声が大きいと怒られる」

「怒られるニャ?」

「そうだ。怒られる」

 ニャーの両耳が立ち、瞳が縦に伸びる。どうもニャーは怒られるのを嫌う。

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