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ガウル  作者: キヌミタロ
第11章 西へ
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第67話 研がれた牙

 手助けした荷車と一緒に西へ向かう。ガタガタと木造りの車輪が鳴り続ける。たまに窪みにハマっては、俺たち皆で荷車を押して行く。ふたりのイヌの男が荷車を引いていく。

「いやあ本当に助かるわ」

「お陰で時間通りに間に合うな」

 ダンネが「時間?」と尋ねる。

「陽が沈むまでに、砦にこの食料を持っていかなくちゃ行けないんだよ。まあ、俺たちはただの運び屋だから。これで小銭を稼いでる」

 ニャーが荷車を嗅ぎ続けている。

「土の香りがするニャ」

「殆どが野菜だよ。農場で取れた野菜を砦に運ぶだけ。そこから先は帝国軍が運んでくれる」

 帝国軍が気になる顔を向ける。

「帝国軍?」

「ウルガ帝国はでっけえ軍隊持ってんだよ。そうだなあ、お前たちが生まれる前の話か。先代の王が亡くなって、王国がでちょっとした反乱が起きたんだよ。それを力でねじ伏せたのがウルガ帝国。反乱の首謀者を全て捉え、無血占領みたいなことをした。いつもなら反乱なんて死刑だが。反乱を企てたものは全員死刑か畑を耕すかの二択を帝国に迫られた。偉そうにしてた反乱貴族が、今じゃ平和に畑を耕しているのは王国の笑い話だぜ」

「子供にする話じゃないな」

「事実だろ。それで帝国の食糧難を解消しようとするのも。すげえ話だよな」

「ニャ! 帝国はご飯が無いニャ?」

「鉄は取れるが飯は取れん。みたいな土地と言うのは有名で、これも笑い話なんだけど。王国で使われてる鉄は、殆ど帝国から送られてくる鉄なんだぜ? 鉄の本場と戦って勝てる訳がねえよ。そういえば変な剣使ってたな。なんだっけ?」

「刀だよ。ちょっと曲がってる剣」

「あーそれそれ! 鉄が多いと剣は曲がるのか?」

「俺に聞かれても困るよ」

 刀。ハチが提げていた武器のことだろう。そうだ、ハチは先に帝国へ行ったんだ。どこかで会えるといいな。

「お芋があったニャ」

 ニャーが勝手に大きな紫芋を両手に持っている。

「お礼にあげるよ。ひとつだけね」

「やったニャ! あとで焼き芋にするニャ!」

 ニャーが大きな紫芋を掲げている。




 道のデコボコに捕らわれる荷車に手を貸しながら。木の塀……ちょっと大きな木の柵に囲まれた村が見えて来る。確かに村と言えば村だ。家がいくつも建っていて、オオカミが大勢、目につく全員が腰に刀をぶら下げている。

「やっとついた!」

 荷車をここまで運んだ男ふたりが、荷車に寄り掛かる。ひとりのオオカミが近づいて来る。背が高く俺は見上げてしまう。

「やっと着いたか。お前たちが最後だぞ」

「悪い、道が悪くて」

「まったく」

 オオカミが荷車を確認していく。途中で、大きな紫芋を持ったニャーに気づく。

「なんだこいつ? キツネか?」

「ニャーはネコだニャ!」

「ネコ? まあいいや、その芋を返せ」

「待ってくれ、その芋はお礼に上げたんだよ

「上げた?」

 オオカミがイヌの男に近づいて行く。

「ああ、ここまで荷車を」

 突然、オオカミがイヌの男の顔面を殴る。殴れた男は倒れてしまう。

「バス! 何するんだ!」

「食糧をここまで運ぶのお前らの仕事だろ! なに勝手に上げてるんだ!」

「そのぐらいでいちいち」

「やめろヘズ! 悪い、俺の間違いだ」

 殴られたバスがゆっくりと立ちあがる。大人の暴力を眺めながら、ダンネとドロップとカーリーが俺の背後に隠れる。ニャー両耳を横にして睨んでいる。オオカミはニャーに手を伸ばす。流石にニャーに暴れられても困るし、ニャーが怪我するかもしれない。

「ニャー、お芋を返すんだ」

 ニャーは両頬を膨らませ、貰った紫芋を荷車に投げる。

「この子供たちはなんだ?」

 ダンネがひょっこりを顔を覗かせる。

「て、帝国大使のドラスが……ここで一番偉い人に手紙を渡せって……」

「大使のドラス……そこで待っていろ」

 オオカミの男が去っていく。俺たちは殴られたバスに近づく。

「大丈夫?」

「すごい痛い。オオカミは手が先に来るとは聞いてたけど。容赦ないなあ」

「いっそのこと、ここを全部焼き払うニャ!」

 ニャーがかなり物騒なことを言っている。ドロップが慌ててニャーに近づく。

「そ、そんなことしちゃ駄目だよ!」

「何が駄目ニャ!」

 俺はニャーを眺めながらため息を吐く。

「また闘争の火か?」

「そうニャ!」

「そのアホの火どうにかならないのか?」

 ニャーが俺を睨み一気に距離を詰める。両手を伸ばされ、咄嗟にニャーの両手を掴み押し合う。

「そのへらず口をここでへし折ってやるニャ!」

「折れるもんなら折って見ろ! 間抜けの火が!」

「誰が間抜けの火ニャ!」

「勢いだけで何でもかんでも行動しやがって!」

「やめなよ二人とも!」

 ドロップとダンネが、俺とニャーを引き離す。

「シャー!」

「何がシャーだ!」

 ふたりして両手を振り回していると、バスが俺とニャーの間に入る。

「やめろ二人とも! 俺が、おっと」

 バスがふらつきながら地面に座り込む。ヘズが慌てて近づいて来る。

「おい大丈夫か? 打ち所が悪かったか?」

 そうだ、こういうときこそドロップだ。

「ドロップ、癒しの力で治してみれば」

「そうだね」

 ヘズとバスがふたり揃って顔を上げる。

「なんだ癒しの力って、新しい民間療法か?」

 ドロップが杖をバスに向ける。杖の先から白い輝きが広がり、バスを照らしている。

「俺、いま何されてるの?」

「癒しの力で治せる」

「お前ら変わったことしてんな」

 声をするほうへ見上げれば、癒しの力を覗いている黒髪のオオカミ、黄色い眼がしっかりドロップを捉えてる。腰の両脇に一本ずつ刀が提げられていた。少し後ろに、バスを殴ったオオカミが立っている。俺はそのオオカミを指さす。

「その男がバスを殴ったから、ドロップの力で治してるの」

「殴った?」

 黒髪のオオカミがゆっくり振り返る。

「勝手に芋を子供に上げていたので……」

「ん? それだけで殴ったのか?」

「この食料は帝国の食糧です。それを」

「おいおい! ここまで運んで来てくれた人を殴った理由がそれか?」

 ヘズが勢いよく立ち上がる、明らかに黒髪のオオカミの背が高い。

「子供たちに荷車を押すのを手伝って貰ったんだ! そのお礼に芋ひとつ渡しただけでバスが殴られたんだ!」

「なるほど。お前は子供に渡した礼を取り上げて、運んでくれた人を殴った訳か」

 殴ったオオカミは何も答えず。視線を下に逸らす。

「おいそこのふたり! ちょっとこっちに来て、この男を跪かせてくれ」

 遠くからふたりのオオカミが駆け足でやってくる。そして手際良く、殴った男を地面に跪かせる。

「将軍なにを」

 黒髪のオオカミ、将軍と呼ばれた男が刀の一本を引き抜く。

「お前みたいな恩知らずはいらね。首を斬り落として、お詫びとしてお前の首を渡すんだよ」

 バスがドロップの杖をどかして立ちあがる。

「ま、待ってくれ! なにもそこまで!」

「いやそれほどの問題だ、俺が気に入らん」

 まずい、黒髪のオオカミは本気だ。嫌に光る刀身が掲げられる。

「ドラスに一番偉い奴に手紙を渡せと言われた!」

 咄嗟に大声を出す。黒髪のオオカミが俺にゆっくり顔を向ける。

「それがどうしたよ?」

 俺は怯えて荷車に隠れている、皆へ体を何度かくねらせる。黒髪のオオカミはそれに気づいた。

「あー、子供の前でやることじゃねえな」

 黒髪のオオカミが刀をゆっくりと提げ鞘に納める。俺にゆっくりと右手を伸ばす。

「俺がいまここで一番偉い、将軍のサジルだ。手紙を寄越せ」

 黒髪のオオカミ、サジルがここで一番偉い人だった。

「カーリーが持ってる」

「そのカーリーはどこにいる?」

「えっと」

 荷車の後ろで皆があたふたしている。

「手紙を早く出すニャ!」

「カーリー早く出して!」

「こ……これだよ……」

 手紙を手にしたダンネが、俺に手紙を渡しすぐ隠れた。俺はそんなダンネを見ながら、手紙をサジルに渡す。

「何が書いてあるのかなあ」

 嬉しそうに手紙を開いたサジル、内容を読み始めながら徐々に表情が険しくなっていく。何が書かれているんだろう? ちょっと気になる。サジルが手紙を手際よく折り、元の封に戻す。

「ガウルは、お前だな?」

「うん。俺がガウルだ」

「へえ、これが」

 サジルがしゃがみこみ、澄んだ黄色い眼で真っすぐに俺を見据える。たぶん、俺は品定めされている。恥ずかしいのでゆっくりと視線を逸らしていく。それを見て、サジルが大声で笑い始める。

「これほど面白いことはそうはねえ!」

 笑いながらサジルは再び刀を引き抜く。

「よしガウル! この男の命をお前に預ける! 生かすか、殺すか。お前が決めろ」

 サジルは跪かされた男へ刃先を向ける。バスを殴った男は完全に怯えていた。

「なんで俺が?」

「ちょっとした練習だ。帝国へようこそガウル。さあ選べ、生かすか! 殺すか!」

 サジルの黄色い眼がギラギラに輝いている。元は首を斬り落とす算段だったのだろう、それを手紙を読み俺に選択権を与えて来た。答えは簡単だ。

「流石に首はいらないと思う。それよりも、何か別で詫びたほうがふたりも嬉しいと思う」

 バスとヘズが必死に首を縦に振る。サジルの黄色い眼から輝きが消えていく。

「この馬鹿を牢にぶち込んでおけ、後で俺が説教してやる」

「は」

 殴った男は立たされ連行されていく。

「さあてガウル。俺はどう詫びればいい?」

「それは俺じゃなくて、ふたりに聞いたほうがいい」

 バスとヘズが真っすぐに直立する。

「それもそうだな。俺の部下が殴って悪かったな。なに欲しい?」

「なに欲しいって言われても……」

「困るよなあ……」

 サジルは両腕を組む。

「俺も金がある訳じゃねえからなあ」

 全員考え始めてしまった。俺はここで待っていればいいのだろうか? 一緒に両腕を組んでみる。そして「あ」と声を漏らす。

「道がガタガタだった」

 サジルが俺に顔を向ける。

「それは王国から砦までの道のりだろ? 悪いがそれは王国領内だ。俺たちが勝手に道を整備する訳にはいかん」

「それをドラスに押し付ければ、たぶんドラスはエドにそれを押し付けると思う」

「ふむ。とても愉快な案だな。お前らふたりはそれでいいか?」

「だ、大丈夫です!」

「ありがとうございます!」

「どこの馬鹿が食糧運んでくれる人を殴れるのやら。お前たちのお陰で帝国の食糧が持っているみたいなもんだ。本当にすまないことをしたな」

「あ! あの!」

 バスがサジルに近づく。

「俺! やっぱり強くなりたいんです男として! どうしたらいいですか!」

「お前いい加減にしろよ! こんなときに!」

「ま、生き残ることだな」

 皆でサジルを黙って眺める。

「生き残る?」

「強くなりたいんだろ? 強くなるために生きて、生き残るために強くなる。理も武も真剣に学び認められて将軍になった。これに間違いはない。まあ! いまの帝国は上が最高に良いとだけは付け加えておく! 王国だと誰だ? それこそエドに会いに行け。あいつそれなりに手練れだぞ」

「分かりました! ありがとうございます! こうしちゃいられねえ! 行くぞヘズ!」

「おい待てよ! 将軍これで失礼ます! お前たちもありがとうな!」

 バスとヘズが駆け足で道を戻っていく。サジルは荷台にある紫芋を手に取る。ニャーが取り上げれらた紫芋だ。

「焼き芋食いたい奴は手を上げろ」

 荷台の影からニャーが手を上げる。

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