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ガウル  作者: キヌミタロ
第10章 影に差し込む光
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第66話 謎の男を追って

 すごい頭がグラグラする。気づけばベッドの上。それが多すぎて、ちょっと薄気味悪い。ベッドの横でフォクシイが両腕を組み、完全に俺を睨んでいる。

「子供の体で、酒を、飲むな」

「ごめんなさい」

 ゆっくりと上体を起こすと、やっぱり頭がフラフラするう。

「きのう何があった?」

「最悪よ。間違えて酒を飲んだガウルが、国王の前で吐き! 国王の前で酔い潰れ! 国王がガウルを抱いて医者まで運んでくれたのよ!」

「大声出さないで」

 フォクシイの大声が頭に響く。

「料理に夢中になった私も悪かったけど、何か話してたの?」

「うーん……」

 思い出せない。間違えてお酒を飲んで、ドロップに料理を運んで……そこから先を完全に覚えていない。フォクシイにだけは伝えておこうかな。

「ねえフォクシイ」

「なに?」

「最近……気づいたらベッドの上なんだ」

「それがなに?」

「その……断片的に記憶が飛んでる……かもしれない」

「それって中のふたりが……確か記憶と体験は共有しているはずよね?」

「そうだと思うけど。まあ昨日は間違えてお酒飲んじゃったし、気のせいだと思う」

 きっとそうだ。そういうことにしておこう。

「二日酔いで悪いけど、西へ出るわよ。あなたが伝えたシルケの言葉もそうだけど、自身の影響が少なからずあって。いま出たほうが何かと都合がいい」

「影響?」

「そんな大げさなことでもないけど、外壁がちょっと崩れたり道が歪んだり。修復作業で人が大勢動くから。あなたそういうの嫌でしょ」

「最近、気にならなくなってきた。ところで皆は?」

「朝ごはん食べてる。あー、帝国大使館でドラスに会ってから西へ向かう」

 ベッドから降りる。頭がちょっとフラフラする。

「どうして?」

「入国手続きの書類がいるんですって。少し調べたけど、ウルガ帝国は何かと厳しそうね。共和国より厳しい気配がする。少し用心したほうがいいかも」

「王国よりはマシだろう」

 王国の化け物は共和国まで追ってこなかった。ここから西、ウルガ帝国に行ったとする。そこでも化け物が出なければ、やはりドギルス王国に何かあるな。

「フォクシイはどうする?」

「用が無ければ王国に残るわ。帝国に行って、王国に戻って来るでしょ?」

「そのつもりだけど」

 フォクシイが眼を逸らす。

「西に何がある?」

 その問いに答えず、ただじっと俺の眼を真っすぐに見ている。

「西に」

「言いたくない」

 いい加減にフォクシイの拒絶も見飽きて来た。

「違ってたら違うって言え。俺の最後を知ってるな? これ以上は聞かない」

 フォクシイは何も答えない。

「そうか」

 記憶に残る友を置き去りに、部屋を出て行く。廊下を歩き階段を降り、広間に行けば皆が楽しく朝ご飯を食べている。

「あ、ガウル。もう大丈夫?」

 ドロップが俺を心肺してくる。

「ちょっと頭がフラフラする」

 俺は作り笑顔で返事をする。




 朝食を食べ終えて、あまりにもフラフラ歩いている俺に嫌気がさしたのか。俺はダンネに手を握られながら道を行く。ダンネの手は震えていない。頭のちょっとした痛さと、定まらない足下で引っ張られながら。ダンネが双剣を構えたときを思い出す。化け物も恐いだろうけど、武器のなんたるかを理解している震えも混ざっていた。握っているダンネの手を見る。この手は守りに徹底させよう。

「ついた! ここが帝国大使館よ!」

 ダンネの大声が頭に響く。握っている手を振り払い、両手で頭を抑える。

「大声を出さないで」

「あ、ごめん。ここが帝国大使館」

 ゆっくりと顔を見上げると、建物自体は小さくないが、共和国大使館より小さい。横が少し短い二階建てだ。

「ちっちゃいニャ」

「確か、ちょうど空いていた家をそのまま大使館にしたはず」

 皆が大使館に進みなか、俺はフラフラしながら歩きはじめる。ダンネが戻ってきた俺の手を握り、強引に引きずられていく。空いていた家というだけあって扉は一枚。ダンネが扉をノックする。

「はーい」

 少し聞きなれた声がする。扉が開くと帝国大使のドラスが現れた。

「やあ待ってたよ。はいこれ」

 ドラスは既に書類を用意していたのか、ダンネに封蝋の点いた手紙を渡す。

「ありがとうございます」

 ダンネが手紙を手にするが、ドラスは笑顔で手を離さない。ダンネは何回か引っ張る。

「あの」

「いいかい子供たち、よく聞いてくれ。この手紙を、絶対に折るな、破くな、開けるな。それぐらい入国にうるさいんだ。王国みたいに、ただ歩いていれば入国できる国じゃない。それと、入国に必要な書類と、とても大事な手紙も入れておいたから。絶対に落とさないでね。これをそうだな……西の道中、要塞がひとつあるんだ。まあ要塞と言っても木の塀で囲った村みたいなもんだけど。そこで一番偉い奴に渡せと、ドラスが言っていたと確実に伝えてくれ」

 ドラスは手紙から手を離す。

「質問は?」

 ダンネが手を上げる。

「なんだい?」

「一番偉い奴って誰なの?」

「分からない。ちょっとややこしい砦でね。帝国が王国の国境沿いに作った要塞なんだけど。いまの所有権は王国にある。ところが立地の都合上、王国からの食糧支援の引き渡し場。みたいに利用されていて、人の出入りが激しいんだ。だから、要塞にいる帝国で一番偉い奴を出せ。と言えば通じるよ。他にあるかい?」

 俺は少しフラフラしながら手を上げる。

「はいガウル」

「名乗らずに出てった男は誰だ?」

 銀色の髪に蒼い眼の男。名乗りもしない男が頭の片隅に残っていた。

「ふむ……やっぱり気になるよねえ」

「なんで教えられないんだ?」

「本人から教えるな、と言われているのは事実なんだ。その意味も僕は理解している。その男の顔は覚えているかい?」

「うん、覚えてる」

「ならこうしよう。確実に困ったときは、その男が最後の切り札になる。こうすれば分かりやすい。あの男と言おうか、ちょっと癖がある男でね。変わり者なんだよ。悪い男じゃないんだけど、何かと不器用というかなんというか。困ったら存分に頼ってあげて」

「そいつの名前は?」

「名前も教えるなって言われてるんだ。僕は言えよ、と言ったんだけどね。ごめんね。他に質問は? 無ければ僕は仕事に戻るよ。地震の被害状況を纏めて、帝国にお手紙を書かなくちゃいけない」

 ダンネが頭を下げる。

「ありがとうございました」

「気をつけてね。帝国すごい面倒くさいから。じゃあね」

 ドラスは笑顔で手を振って扉を閉めた。ダンネが手にしている手紙を見ている。

「はいカーリー」

 カーリーは相変わらず両眼を瞑って震えている。

「な……なんで僕が……」

「こういうのしっかり持てるの、カーリーだけかなと思って」

 俺はポッケに入らないからすぐ折る。ニャーはたぶんどっかで落とす。ドロップも怪しい。ダンネはよく動くので手紙が折れずとも曲がりそう……震えているカーリーが正解だな。カーリーは震える手で手紙を受けとり、そっと自分の服の中へしまう。

「服の下に入れてるニャ?」

「う……内ポッケだよ……」

 内ポッケ。つい俺とニャーとドロップで自分の服を探る。

「ニャーはないニャ」

「僕もないよ」

 俺の服の下に、内ポッケがある。思ったより大きい。

「俺の服ある」

「そっか。ガウルの服はキツネの福屋さんで買ったから」

「そうなると、ドロップも無いとおかしくないか?」

 ダンネは首を横に振る。

「秘密のポッケは私服のみで、ドロップの服は白薔薇協会のための服だから、内ポッケ作ってないのかも」

 俺とニャーはドロップの服を眺める。こう眺めると、真っ白なだけあって土汚れが目立つ。俺はドロップの服を両手に持つ。

「真っ白は汚れが目立つな」

「引っ張らないでよ」

 ニャーもドロップの服を引っ張る。

「いっそのこと黒にするニャ。ジャージにするニャ」

「それネコの国じゃないと買えない服だよね。二人とも引っ張らないで!」

 俺とニャーは手を離す。

「怒られた」

「怒られたニャ」

 ダンネが「とにかく!」と、大声を出すので、頭に響いて両手で抑える。

「あーごめん。とにかく。これで西へ行けることになったわね。まずは砦を目指しましょう。木の塀で囲ってある砦に行って……あとのことは行ってから考えましょう」

 ダンネに手を掴まれ、俺は引っ張られていく。皆で西へ歩いて行く。

「ちなみに、誰か何か王国でしたいことある? 私はもう無いけど」

「ニャーはないニャ」

「僕も……今は無いよ」

 カーリーは両眼を瞑って震えている。ダンネが無言で俺を見ている。

「行こうか」

 俺たちは西へ向かう。西門を越えてドギルス王国を……出た直後に、荷車のひとつ。左の車輪が道のデコボコに捕まり動けなくなっていた。

「せーの!」

 ふたりの垂れ耳、イヌの男たちが合図と同時に荷車を押そうとするけど動かない。

「これは駄目だな、食糧降ろすか?」

「降ろしたところで上がらないだろこれ」

 ダンネに引っ張られながら、荷車の横を通り過ぎようとして。俺だけ足を止める。ダンネが俺に引っ張られ足を止める。

「どうしたの?」

「いや……なんだろう……」

 荷車を押す人、西へ続く道。緩やかな平原の真ん中を進んでいく道。

「この道、なんか見覚えある」

「え?」

 過去の記憶がちらつく。王国から出て西。俺は西へ行ったのか? いまだに過去がハッキリしない。正確には、俺の知らない過去の記憶。我ながらややこしい体質だ。

「おいお前たち! ちょっと手伝ってくれないか?」

「子供に頼むのかよ」

「しょうがねえだろ、上がらねえもん!」

 前も確か……荷車に両手をかけ、そっと上げて前に押す。

「よっこいしょ」

 ふたりの男は何も言わずに荷車を眺めている。

「前も確か」

「すげえ! オオカミってすげえ!」

「子供なのに上がったぞ! やっぱりオオカミってすげえな!」

 喜ぶふたりの男に、俺は空を見上げる。前も確かこんな感じで、誰かの荷車を持ち上げた記憶がある。あまり深く考えないでおこう。

「なあ、お前たち砦まで行くのか?」

「うん」

「じゃあ一緒に来てくれよ! 金出すからさ、この道ちょっと悪路なんだよなあ」

「俺たちが載せすぎなんじゃねえのか?」

「でも一回で大量に運べたほうがいいだろ?」

「まあなあ」

 ニャーが荷車の周りで臭いを嗅ぎ始める。

「野菜の香りがするニャ」

 ふたりの男はニャーをじっと見ている。

「これは……どの種族だ?」

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