↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガウル  作者: キヌミタロ
第10章 影に差し込む光
PR
65/92

第64話 夢半ばに倒れ

 眠っていたのは分かる。いつベッドの上で眠ったのだろう? そんなこと思いながら、ゆっくりと起き上がる。部屋の扉が開きっぱなしになっている。誰か閉め忘れたのだろう。皆あちらこちらに眠っている。ドロップがまだ床に眠っているので、ベッドから降りてドロップを抱えベッドに落とす……右脚が動いている。軽く跳ねて見ると、しっかりと右脚が動く。治って良かった。ひとり胸中喜びながら、部屋の窓が開きっぱなしになっている。扉はまだしも、窓が開いたままは珍しい。

「開いたまま……」

 まさかと思い、窓から少し身を乗り出す。見える家々の窓、扉が全部開かれている。やられた。ここは夢の世界だ。見える範囲に人の気配を感じない。石畳の道、白い壁に茶色の柱が剥き出しの家、屋根は平らで近くの屋上には洗濯が干されている。俺の右脚は治っていないのだろう、夢だから動く。そして、こんなハッキリとした夢が存在していいのか?「皆大変だ! 俺たちは夢の中だ!」

 大声を出すと皆一斉に起き上がってくれた。

「何事ニャ!」

「なに! どうしたの!」

 ドロップは涎を袖で吹き、カーリーは白まんじゅうから姿を現す。前と違うところは皆いる。そして会話が出来ている。夢じゃないのか?

「大変だ、皆で夢の中にいる」

 寝起きのせいか、皆俺を見て何も口にしない。とりあえず、確認したいことだけ聞いておこう。

「俺をベッドまで運んでくれたの誰? いつ眠ったのか覚えてないんだ」

 ドロップが「あー」と口を開く。

「フォクシイさんだよ。疲れて眠っているから、そっとして上げてって。でもニャーが負を感じて騒いで、僕はガウルに杖を向け」

 ドロップは大きな欠伸をする。思い出した。広間で知らない男を見たあとに、自分のことについて考えていたんだ。それで自分が何者なのか、勝手に混乱して勝手に眠ってしまったのか。難しく考えないでおこう。ふと、両目を必死に瞑り、全身を振るわせているカーリーが気になった。相変わらず震えている。

「おはよう」

 カーリーの体がいちど跳ね、ちょっとだけ両眼が開いていく。俺をすごい嫌そうに睨んでいる眼つきなっている。

「お、おはよう」

「うん……おはよう」

 俺なんか悪いことしたかな? そんなことすら思わせて来る眼つきだ。

 ダンネが自分の両頬を勢いよく叩く。

「これのどこが夢なの? ガウルが皆を起こしただけじゃない?」

「外に出れば分かる」

 俺は部屋の外へ歩きはじめる。

「右脚動いてるニャ」

「たぶん、夢だからだと思う」

 部屋の外に出れば、他の部屋の扉は開かれていない。前は確か開かれたいたはず。

「あ、そうだ」

 俺の後をついてきた皆を掻きわけて、カーリーが被っていた白い布を手にする。それをカーリーに被せる。勝手に被せられたのに、カーリーは立ったまま白い布を両手に身を包む。

「前見た夢は、全部の扉と窓が開かれていたんだ。でも今は閉まっている。俺の勘違いかな?」

「そ、そうじゃないと思う。きっとその……ニャードロップの結界が生きたんだよ」

「ニャーの勝利ニャ!」

「僕、本当に杖を振ってただけだよ」

「手応えは無かったかもしれないけど。それなりに意味はあったんだと……思うよ」

 ダンネがカーリーを見つめている。

「ねえ、布越しなら話せるの?」

「え? あ、うん。まあ……うん」

 ダンネはため息を吐く。

「言ってくれればいいのに」

「ご……ごめん」

「とりあえず、外に行くか」

 俺たちは廊下を歩き階段を降りていく。ドロップが両手にしっかり杖を持ち、俺の背後に近づいて来る。

「ほ、他の人はいないのかな?」

「気配はないんだけど……どうかな白まんじゅう」

 カーリーは何も答えない。

「ごめん。どうかなカーリー」

「あ、僕のことか。そうだね……ガウルの近くにいた僕たち。ということは、ガウルの夢と言う場所に、傍にいた僕たちも巻き込まれた可能性がある」

 外へ続く両開きの扉は、しっかりと開いている。そのまま大使館の外へ出て、鉄柵の門を越え通りに出る。やはり、誰の気配も感じず、見える範囲の扉と窓が全て開いている。皆で周囲を確認する。

「ニャー」

「本当に窓と扉が全部開いてる。ちょっと気持ち悪い」

「僕はどうしたらいいの?」

「落ち着いてドロップ、その……いま何も起きてないと思う」

「ニャー」

 ニャーがニャーニャーうるさい。

「ニャーニャーニャーニャーどうしたんだよ?」

 ニャーは誰もいない道を見つめている。

「ガウルは赤黒い眼に追われたニャ?」

「あーそうだ。共和国には現れなかった。たぶん、王国のどこかで襲って来ると思うんだ」

「この人ニャ?」

「この人?」

 ニャーの周囲を見ても誰もいない。

「誰のことを言ってるんだ?」

 ニャーが誰もいない道を指さす。

「この人影は赤黒い眼をしてるニャ。真っ黒ニャ、これは影ニャ」

 皆が俺の背後に隠れる。ダンネはフォクシイから授かった、白い双剣を鞘から抜こうとして手を滑らせる。一本が地面に落ち慌てて拾う。ダンネの両手は震えている。俺はダンネの両手をしっかりと睨み、ニャーへ視線を戻す。

「どこにいるんだよ?」

「ここニャ! 真っすぐガウルを見てるニャ!」

 ニャーは誰もいない場所を指さしている。俺はただただ怖くなってきた。試しにニャーをぶつけて見るか。

「ニャー、そいつをやっつけられるか?」

「この人影ニャ?」

「そうだその……ニャーにしか見えないんだ。お前が頼りだ!」

 ニャーが凄い嬉しそうな顔を見せる。

「任せるニャ! ニャーにかかればいちころニャ!」

 ニャーはそっと両手を前にする。その立ち姿を俺たちは見守る。両耳は横になる、恐らく見えない人物を睨んでいるのだろう。すると、ニャーが両手を下げ、両耳は元の状態に戻る。そして真っすぐ俺のところに戻って来る。

「無理ニャ。ニャーがどうこうできる話じゃないニャ」

「そうか駄目か」

 俺はその場で項垂れる。ダンネが震える手で双剣を構えながら、ニャーが指さした場所へ近づこうとする。不安しかないので、ダンネの腕を掴んで力強く引き戻す。

「ま、まだいるの?」

「いるニャ。ガウルのこと真っすぐに見てるニャ」

「よし。皆大使館に逃げよう。駄目だ怖すぎる」

 俺たち全員足早に大使館の中に戻り、両開きの扉をしっかり締める。窓から外を皆で眺める。

「まだいるか?」

「いないニャ、消えたニャ」

 俺には見えないだろう人影を必死に探す。見つかる訳がない。

「俺たちは……どうしようか?」

 ダンネを見ると不自然に身構えている。

「ダンネ!」

「なに! 急に大声出さないでよ!」

「武器をしまえ、あぶないから」

 ダンネはぎこちない手つきで双剣を鞘に入れていく。俺はいまいちど外を確認する。赤黒い眼は大使館の中に入って来ない、のか? 見えないから分からないな。

「大使館から出ないほうがいいのか?」

 突如、窓カラスにヒビが入る。

「窓にヒビが入ったニャ!」

「こっちもだよ!」

 全部の窓にヒビが入ったのか。無意識に皆一ヶ所に固まる。

「ダンネごめん。武器を抜いといて」

 ダンネが急いで双剣を引き抜く。

「ど、どうすればいいの!」

「なんとなく構えて」

 震える両手でダンネは双剣を構える。

「ぼ、僕は杖を構えてればいいのかな?」

「それだ!」と、カーリーが大声を出す。

「いきなり大声を出すな!」

「あ、ごめん。その……赤黒い眼は中に入れないんだ。ニャードロップが……結界を張ったからだと思う」

 大使館の建物が大きく揺れる。至る所から、何かが落ちる音が聞こえて来た。

「でも! そ、それにも限界があるんじゃないかと思って!」

「じゃあどうすりゃいいんだ!」

「ここは打って出るニャ!」

「お前は無理だったろ!」

「そうニャ、ニャーには無理だったニャ」

 大使館からの揺れ具合からすると、明らかに結界が壊されそうな気配がある。結界があって入れないなら。

「結界があって入れないなら。もしかして、ドロップの癒しの力に対抗できないんじゃ?」

 皆で仲良くドロップに顔を向ける、ドロップは両手で杖を抱きしめる様に持つ。

「ぼ! 僕に戦えって言うの!」

 カーリーが珍しく、白い布を被りながらだがドロップに正面向く。

「いや、それが正しいかもしれない。ドロップの……張った結界が効いてるかも」

「僕、本当に言われるがまま振ってただけだよ!」

 ダンネが「あ!」と声を出す。

「ニャードロップだ! ニャーしか見えなくて、ドロップの癒しの力で対抗できる!」

「それニャ!」

 ニャーがドロップに背を向けるも、ドロップは怯えて下がる。

「それって僕に戦えってことだよね! いやだよ怖いよ!」

「いまこそ闘争の火を燃やすニャ!」

「大丈夫! 私がひゃんと守るから!」

 ダンネは明らかに噛んだな。あと両手が震えている。再び大使館が大きく揺れる。とりあえず、ドロップをニャーの背に乗せよう。ドロップを背後から抱き上げ、ニャーの背中に近づける。

「ちょっと待ってよ!」

「安心しろ、ちゃんと守るから」

「それ信じていいんだね!」

 カーリーがそっと窓の外を確認する。

「と、とりあえずはそれでいいと思う……大使館崩れちゃうかも」

 その言葉を聞いて、ドロップは慌ててニャーの背に乗り杖を構える。ニャーがドロップの足をしっかり掴み、こうしてニャードロップが完成した。

「いまこそ反撃のときニャ!」

 ニャーは外へ繋がる両扉の前に行く。

「開けてニャ!」

 俺は慌てて両扉へ行き取っ手を掴む。

「いいか開くぞ?」

「開けるニャ!」

 扉を開けるとニャードロップが勢いよく飛び出し。

「あいつはどこにゃ! どこ行ったニャ!」

 鉄柵越えて、石畳の通りまで出る。ニャーしか見えないのに、つい皆で周囲を探してしまう。建物の影か、遠くの道か、それともすぐ傍か。

「ニャアアアアアアアアアアアア! いたニャアアアアアアアア!」

 ニャーの大声に俺は耳が痛くなる。

「大声を出すな! どうした!」

「建物の上にでっかい黒蛇がいるニャアアアアアアア!」

「黒蛇?」

 大使館を見上げると、赤黒い眼、ひとつ目の黒蛇が巨体で大使館に巻きついていた、

「でっか」

 俺たちを見下ろす黒蛇が、大口を開き鋭い牙を見せる。少し巨体が動いたかと思えば、瞬時に大口が俺たちを食らおうと眼前に迫る。眩しい光が現れて、その大口を弾き飛ばす。黒蛇の咆哮が周囲に轟き大地を揺らす。巨体をするりと這わせ、黒い蛇が去っていく。

「逃げたニャ! 畳みかけるニャ!」

 ニャーがひとりで黒蛇を追い始める。

「待て! 追い払えただけでも」

「勝てるときこそ勝つべきなのニャ! 闘争の火を燃やすニャ!」

「待ってよ! 僕のこと忘れてないよね!」

 ドロップが連れ去られて行くので、皆でニャーを追いかける。大通りまで出ればニャーは立ち止まり、黒蛇の姿はどこにもない。

「どこ行ったニャ!」

「勝手に走るな!」

「あの感じは勝てそうニャ! いまこそ勝つべきなのニャ!」

「それなんとなくだろ?」

「そうニャ! なんとなく勝てそうニャ!」

 話にならない! そんなことだろうと思った! ダンネは震える両手で双剣を構え、両耳はペタンとしている。ついて来たものの、怯えていてしょうがない。カーリーは白い布の影から周囲を確認している。ニャーの背に乗ったドロップは両手をしっかり掴み顔は怯えている。話にならない。ここで黒蛇が現れたらどうする?

 ちょうどそこへ、空から巨体が降りて来る。言ってる傍から黒蛇だ。赤黒いひとつ眼の目が、俺を堂々と捉えている。俺も無意味に睨み返す。やはり狙いは俺だけのようだ。

 家々の開いている窓と扉から、黒の噴煙が一斉に噴き出す。逃げる隙すら与えられず、黒の噴煙に包まれようとした。ドロップの杖が光だし、周囲を照らすも黒の噴煙は消えずに残る。照らされているお陰で周囲だけが黒の噴煙に巻き込まれない。少し離れれば噴煙でなく暗闇だ。もう何も見えない。ダンネがくるくる回っている。混乱しているのだろう。双剣を両手にしているので、両手の動きを眼で捉え。ダンネの両手を掴む。

「なに! どうしたの!」

「落ち着けダンネ」

「あれ? 私いま何してた?」

「クルクル回ってた」

 ダンネは自分の行動を把握していない。

「カーリーこれって」

「僕たち……罠にかかったと思う」

「罠ニャ?」

「ニャーが駆けだすのがいけないんだ!」

「ニャーの上で暴れるニャ!」

 ドロップの杖から放たれている光が明滅している。

「動くなドロップ!」

 ドロップはピタリと止まる。

「ほら見ろニャ! 怒られたニャ!」

「お前も動くな!」

「怒られたニャ」

 動かなくなったところで、ドロップの杖の輝きはまだ揺らいでいる。

「カーリー、ドロップの杖が光らなくなったらどうなるんだ?」

「わ、わからない……どうなるんだろう?」

 黒い噴煙からひとつの影が現れる。黒蛇の眼だ、俺たちを見下ろし、大口を開けて牙を見せる。そのまま口を降ろし、俺たち全員飲み込もうとでもしていたのか。再びその大口を俺たちにぶつけてくるが、また弾かれてしまい暗闇へと消えてしまう。

「ガウル、僕眠くなってきた」

 場違いなドロップの言葉、いまにも眠りそうなドロップが眼を開くのもやっとだ。ドロップの杖から放たれる白い輝きが、大きく点滅して光が小さくなっていく。

「起きろドロップ! 寝ちゃ駄目だ!」

「かあ……」

 ドロップがニャーの背に体を託し、手に持っていた杖が地面に落ちると同時に、白い輝きは失われた。黒い噴煙が俺たちを一気に飲み込む。足元の大地が小刻みに揺れ、徐々に大きくなっていく。何かが崩れていく音が聞こえる。何も見えない暗闇に眼を凝らしていると、黒蛇の大口が眼前に現れる。

俺の頭上、背後から誰かが両手にしている、一本の杖が降ろされる。ドロップの杖だ、それが眩しい光を放ち、大口開いた黒蛇を掻き消していく。杖を持つ両手が大きい、振り返り見上げれば。大きくなったドロップ……シルケがいた。

「シルケ?」

「あれ、僕のこと知ってるの?」

「そうかなと思って。ドロップにそっくりなんだ」

「ドロップ? 僕にそっくりなんだね?」

「そうだ、シルケならドロップの記憶喪失を治せると思って探してたんだ」

「なるほど」

 シルケは振り返りながら、杖を大きく後ろへ振る。杖の先から巨大な光の球体が、暗闇吸い込みながら進んでいく。開かれた道は暗闇が渦巻いている。

「あの光に向かって駆けるんだ」

「待ってくれ。ドロップの手掛かりはシルケしかないんだ」

「ドロップに伝えてあげてくれ。君の答えはガウルを支える先にある。皆はもう光の先へ行った。さあ早く」

「シルケも一緒に」

「この世の闇はあまりに大きい、迷わず西へ行くんだ。いま王国に留まってはいけない。僕を見つけてはいけない。絶対に僕を探さないでくれ。皆が待っている、さあ行くんだ」

「でも」

「今の君じゃ何も出来ない! 今すぐ逃げてくれ!」

 シルケが俺を突き飛ばす、俺の体は光の先へ飛ばされていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。