↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガウル  作者: キヌミタロ
第8章 盾のダンネ
PR
51/96

第50話 ダンネとフォクシイ

 俺なりに考えてみるものの、理解出来ずに答えが出せず。

 ちょうどそこへフォクシイが、右腕に両耳がペタンとしたダンネを抱いて戻って来る。ダンネは全両腕両足尻尾を全ててをだらりと下げているが、しっかり俺を睨んでいる。

「フォクシイ、何をしている?」

「子キツネを捕らえた」

「そうか」

 俺に熱々のお茶を零し、駆けだして行ったと思えばダンネを狩っていたのか。

「トルピーと三ポテトは仕事に戻って」

 ポテト三兄弟がフォクシイに顔を向ける。

「助言中だぞ」

「そうだ助言中だ」

「お茶美味しかったです」

 フォクシイが左手で、ポテト三兄弟を追い払う仕草をする。

「いいから行けよ、大事な話をするんだから。クビにするぞ」

「雇用主だからって舐めるなよ! この優良商店が!」

「こんな仕事場やってられるぜ! 好待遇高給与が!」

「いつか見返してやるからな! 敏腕経営者が!」

 ポテト三兄弟が外へ駆けだし、洞窟の暗闇へと消えていく、どうやらフォクシイは上手く店を回しているそうだな。

「またねガウル」

 トルピーも歩いて洞窟の暗闇へ消えていく。

「じゃあニャーもお仕事手伝って来るニャ!」

 ニャーがポテト三兄弟を追いかける。

「お前は戻って来い」

 フォクシイの言葉にニャーは転進して戻って来る。

 解放されたダンネがドロップの背後に隠れる、それを見て俺はため息を吐いてしまう。

「どうしてダンネを捕まえた?」

「教えない」

 フォクシイの眼は明らかに不機嫌だ。今にも蹴り上げられそうだ。こいつはそういう女だ。とりあえず座らせるか。

「とりあえず座ってくれ」

「断る」

「なら俺は帰るぞ」

「それも駄目」

 選択を全否定された俺はフォクシイを睨む。

「じゃあ俺はどうしたらいいんだ?」

「条件がひとつ」

 フォクシイがダンネを指さす。

「この子をちゃんと連れて行って。真意はすでに伝えてある」

「真意?」

「あなたがダンネを案じたこと」

「あー」

 ドロップの背後から、俺を黙って睨むダンネ。ついでにドロップが俺を睨む。

「ガウル。まず謝ろうよ!」

「うん……悪かったよ」

 俺はつい視線を逸らす。

「そんなんじゃ駄目だよ! ちゃんとダンネを見て謝るんだ!」

 俺は何気なくドロップを睨んでしまう。ドロップが杖を両手でしっかり握る。かなり元気を取り戻したな。仕方ない、ここはしっかりとダンネに謝るか。

「えっと……悪かったよ。でも分かるだろ。ドロップは癒しの力があって、ニャーは訳の分からない魔力を持っている」

「誰が訳分からないニャ!」

「ダンネはなんというかその……頭がすごい良いのは分かるんだ。ただその」

 フォクシイが俺を軽く蹴る。軽いのに重い。

「ハッキリ喋りなさい」

 俺はフォクシイを睨み上げ、親指をダンネに向ける。

「先陣切って駆け抜ける性格だ。どっかの白キツネにそっくりじゃないか。それで危ない眼にあって……俺はいま何の話をしている?」

 右手をそっと頭に添える。

「フォクシイ、俺は過去に何をした?」

「覚えてないの?」

 俺は左手で円を描くように宙を掻き続ける。

「フォクシイは俺の幼馴染だ。弟はトルピー。どっかの……どっかの店に」

 何か大きく、記憶が大量に失われている気がする。俺は左手も頭に添える。

「俺は母さんと暮らしていた、そこにドロップが落ちてきた。こいつは記憶喪失でそのあとダンネと出会って」

 誰かが俺の両肩に両手を置いた。見上げた先にいたのはフォクシイだった。その眼からは珍しく涙が流れている。

「思い出せないなら思い出さなくていい」

 俺はフォクシイに疑いの眼を向ける。

「お前は俺の……片方の過去を覚えているな。俺は過去に何をした?」

「覚えてない」

「嘘をつくな。俺が嘘を見破られることを……お前は知っている。どうしてだ?」

「言いたくない」

「答えろ! さっさと言え! この」

 役立たず。その汚い言葉が口から出そうになる。何かが脳裏に浮かんで、俺も両眼から涙を流す。

「俺は最後に……お前に酷いことを言ったか?」

 堂々たるフォクシイが、何も言わずにそっと両眼を閉じる。

「俺はお前になんと言った! 答えろ!」

「胴ががら空きニャ!」

 ニャーがいきなり俺の背後から胴を掴み、全身を捻って布団の上に俺を投げ飛ばす。投げ飛ばされて天井を見ると、俺の怒りは綺麗さっぱり消えいてた。

「ニャーはガウルに悪いことしたニャ。だからニャーのこと話すニャ」

「お前のこと?」

 俺はゆっくりと起き上がる。

「ニャーの原動力は負の感情ニャ。怒り、悲しみ、憎しみを、ちゅるちゅる吸って原動力にしてるニャ。ここが一番強い力ニャ。だからニャーはガウルから負の感情を吸ってるニャ」

「俺の負の感情を吸ってどうなる?」

「ニャーはなんでも魔力になるニャ。負の感情を吸えば、嫌な気持ちが消え気分が晴れてさっぱりニャ! ガウルの負の感情は強すぎるニャ! ビックリニャ!」

 俺はニャーを睨みつける。

「お前も何か隠してないよな?」

 ニャーは必死に首を横に振る。

「ニャ! ニャーは何も隠していないニャ! この手法はニャリスとニャットがいつも喧嘩しているから自然と覚えた方法ニャ! 皆で幸せになるニャ!」

「つまり俺が怒りを込み上げる度に俺を投げる。そういうことか?」

「そういうことニャ!」

「危ないからやめろ!」

「じゃあどうしたらいいニャ!」

 ドロップが「あ」と声を漏らす。

「ガウルに抱き着けばいいんだよ。ニャーがガウルの負の感情を吸いたくなったら。ガウルに抱き着けばいいんだよ」

「ニャるほど、その手があったニャ!」

「まあそれなら」

 地面に投げ飛ばされる危険は無くなる訳だ。

 フォクシイが隙を見て逃げようとする。

「待て。逃げるな」

 友の足を強引に止めて、顔を見ようとして逸らしてしまう。

「本当に覚えてないんだ。何を言ったか覚えてないんだ。ごめん」

 それしか言うことが出来なかった。フォクシイは何も言わずに、外へ続く暗闇の洞窟へ歩いて行く。逆に、ダンネが俺の背を押す。

「おい」

「追いかけて」

「フォクシイを?」

「早く追いかけて!」

 ダンネの眼がしっかりしている。フォクシイみたいな、芯の強さがある眼をしている。

「あいつに何を言われた?」

「ガウルは……群れから離れる習性があるって。だから人を突き放す癖があるから。だから絶対にひとりにしないでって言われた」

「群れから離れる習性に、俺が人を突き放す?」


 失せろ役立たず。お願いだ、もうひとりにしてくれ。


 俺はフォクシイを全力で追いかける。

 俺があいつに言ったのはその言葉だ! あいつは俺をしっかり支えようとしてくれた! それを俺があのとき突き放した! それがどの「とき」なのかを思い出せない! ただし俺は確実にその言葉をフォクシイに言った! 謝らないといけない! ずっと支えてくれた友に謝るべきだ!

 暗闇の洞窟を抜けて、茜の空に見えるかすかな暗闇。森の木々に積もる雪景色、そこに友の「白」はいなかった。凍てつく寒さが心に染みるのか、俺の心が冷え切っているのか。フォクシイは恐らく隠れたであろう、気配を消すのはあいつが一番上手かった。洞窟の前で座り込んでしまう。両脚の体温が雪を溶かし、すぐに服を冷たく染めていく。

「ごめんよ……僕が……僕がいけなかった」

 誰もいない眼前に意味の謝罪を漏らす。

 俺はとあるときから「僕」と言う一人称を強引に変えさせられた「変」という非常に不愉快な理由でだ。こんなときに、そんなことを思い出してしまう。自然と両耳が下がっていく。

「今ニャ!」

 背後からニャーが、座っている僕に抱き着いてくる。

「どうした?」

「負の感情でニャーの魔力の糧にしてるニャ! 目指せ皆が幸せな世界ニャ!」

「それはいいな」

 気分は少しづつ晴れていく。しかし心の重さは変わらない。

 もうふたつの雪を踏み潰す足音が、俺の背後で静かになる。

「会えた?」

 ダンネの声だ。

「いや、隠れたよ。あいつは……フォクシイは隠れるのが一番うまいんだ」

「謝れたの?」

 俺は首をゆっくり横に振って、抱き着いてるニャーをそっと引き剥がして行く。

「何も思い出せない。けど……けど僕が知らない自分の記憶は酷いものかもしれない」

 なぜ僕はフォクシイにあんなことを言った? その「とき」が本当に思い出せないんだ。教えてくれよ友よ、僕は……俺は何をした?

 ドロップが杖を両手に近づいて来る。

「ガウル、いま僕って」

「いま俺にふたつはない。前は自分のことを僕と言っていた。フォクシイは……俺の幼馴染だよ」

「とりあえず、そろそろママとパパの所に帰らないと」

「先に行って」

 ダンネが僕を……俺を無視して腕を掴む。掴む力は強く、引きずる力も強い。

 俺は慌てて立ち上がり自力で歩く。

「離せよ」

 なんど伝えても、ダンネは俺から手を離さなかった。




 部屋まで引きずられて、久しぶりにダンネの両親。タリヌとハスタに会った気がする。

「おお帰って来たか! 杖も無事に見つかったし、ガウルも戻って来たし。そろそろ夕飯だよ」

 タリヌの言葉からして、そんなにときは経っていないだろう。

「ご飯ニャ! 食堂で食べるニャ!」

 ハスタが笑顔をニャーに向ける。

「この部屋で食べるのよ。運んできてくれるって」

 そこへちょうど、赤いお盆をポテト三兄弟が運んで来た。

「お待ちどうさまですう」

「ですう」

「料理ですう」

 皆嬉しそうに机に運ばれていく料理を見る。視界にはとても美味しそうに見えるが、俺はどうしてもフォクシイのことが気になっている。皆が喜びの声をあげるなか、俺はただ呆然と天井を眺めていた。その内に、ポテト三兄弟が三人分の食事を運んできてくれた。

「ほらガウル、食べようか」

 タリヌに言われて、膳の前に腰降ろす。

「いただきニャ」


 ニャーが巧みに箸を使って食べようとした。俺は気にせず箸を手に持つ……急の静けさに驚いて顔を上げる。ニャーが箸に挟んだ、赤いニンジンを飲み込もうと大口を開けている。そこから完全に動かなくなっている。他全員も完全に停止している。

「動くな」

 声に驚いて反対を向く。ポテト三兄弟の黒キツネ、ポルテだ。

「なあ」

「動かずに聞いてくれ。よくぞここまで来てくれた。世の崩壊が間近に迫っている」

「世の崩壊?」

「この世界の崩壊じゃない、全世の崩壊だ。それを食い止めるためか、何かが大きく動き出した。ガウル、君の始まりは黒い腕を握ったところから始まったろ?」

「た、たぶんそうだと思うが」

「違う、崩壊の兆しはそれよりも過去に遡る。紡がれていた糸が焼き切られてしまった。北の大地は死の大地、全ての始まりがそこにある」

「でも北の大地に行っちゃ駄目なんだろ?」

「そうだ。今の君は狙われている。こうして話していることすら危険なんだ」

「俺が誰に?」

「君の両脚にそれがまだ残っている。脚を掴まれたな?」

 俺はドギルス王国、礼拝堂の階段で両脚を掴まれたことを思い出す。俺は赤黒い赤い眼を思い出す。

「あいつか」

「今は絶対に駄目だ。絶対に北へ意識を向けるな、そして君は対する者から確実に逃げろ。背を向けて逃げていい」

「あいつは誰だ?」

 ポルテが口に人差し指をつける「シー」俺は上下の唇を軽く内に入れる。

「いま世の中心はガウル、君となっている。全ての物ごとが君を中心に動いている、そして君は気づかないだろう。君が出会う人や場所は全て無意識に操作されている。その場所で出会うように動かされている」

「誰に?」

「君が握った黒い腕にさ。ガウルという名を侮るな、その名を決して忘れるな」

「じゃあ俺は進むだけでいいのか?」

「違う。人というのは不完全なものだ、朽ちて堕ちるように作られている。そこからの反動を糧にするため。今ここにいるガウルはガウルでありガウルではない。人々は道なき道を歩く、しかしガウルは隠された道を歩いている。何人も悟られず、それが通常の道であるかの如く。だから君は間違った道を行く。それを周囲に微調整してもらうんだ。行く場所を侮るな、出会う人々を侮るな。君がしくじれば全世が崩壊する」

「そんな大事な話をなんでいま?」

「全てを悟りし者の指示だ。盾なるダンネの意思は強固となった。剣と光を手に入れろ」

「剣というのは?」

「盾をよく見よ! 盾を見るんだ! 物質形状の問題ではない! 不完全な人がこの世に生き残るために磨き上げた物、それこそが剣となる! これは説明しても無駄だ! 自らを持って芽生えさせなくてはいけない! 既に全世の崩壊は始まっている、あらゆる世界がヒビ割れて世界が消えていく。君は理たちに出会ったろ?」

「あ、ああ」

「彼らの世界が消えたのも崩壊が原因だ。バカラスは激情にかられ、ヒキコウモリは光を失い、トゥビラは自我に押しつぶされた」

「お前もその」

「三光の道標は理にあらず、輪廻を照らす光なり。理に出会ったならばこう告げよ、君らはガウルの渦に流されているのだと。剣を求め西へ行け、そこが次なる目的地だ」

「ま、待ってくれ。いまのを全部覚えろと?」

「いました話を君は忘れる」

「はあ?」

 意味が分からない。

「悟られてしまうからだ! この話も君の無意識下に置かれる。悩み進み悩み進むように偽装しておいた。申し訳ないが我々が出来るのはここまでだ」

「どうして俺に」

「慈愛の世界が怒りと憎しみで崩壊してしまう! 既にこの世界の崩壊も始まっている! 死者が輪廻をはみ出し、生者となって活動している!」

 俺はふと、フォクシイとトルピーを思い出す。

「人は無意識下の意識なり、自我をしかと持ち、この無意識下の話を導き出せ」

 俺は馬鹿みたいに髪を掻く。

「俺にそんなこと出来るのか?」

「影は心に忍び寄る。その影を跳ねのけよ、さすれば央の光も自然と見つかる。さあ、食事の時間だ。ニャーは今何を食べようとしている?」

「それは」

 俺はニャーに顔を向ける。


「ニャム」

 そう言ってニャーは紅いニンジンを口にした。

 考えていても仕方ない、俺も食事を取ることにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。