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ガウル  作者: キヌミタロ
序章 光輝くその光
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第4話 謎多き仮面

 家に帰った僕は机の上にある紙を見つける。そして何かが書いてある。でも僕は読めない。ダンネが覗き込んでくる。

「ガウルへ 母は旅に出ます 帰ってきます 村から出ないで」

 僕は紙を机の上に置く。母さんは旅に出たらしい。

「ガウルのお母さんはいつも旅に出てるの?」

 僕は首を横に振る。

「もうなんかよく分からない家族ね」

「そんなこと言っちゃ駄目だよ」

「だって訳が分からないじゃない! 嘘を見破るオオカミにいきなり旅立つ母親なんて聞いたことないもん!」

 母さんはどこへ行ったのだろ? そんなことを考えていると、すごい甘い匂いがしてくる。

「甘い」

「甘い? あ、ほんとだ。甘い匂いがする」

 ダンネが宙を嗅ぐ。ドロップが家の外を指さす。

「あれじゃない?」

 外を見ると真っ黒な服を着ている誰かがいる。黒い綺麗な帽子を被ってカラスみたいな仮面をして真っ黒な服に黒い手袋をしている。靴も黒い、全部黒い。木製の段差に大きなガラス瓶がいっぱい並んでる。中に色々な色の液体が入っている。

「さあさあ皆さん飲んでみてください! 果汁百%の野菜ジュースですよ!」

 村の皆が大きなガラス瓶を手に皆飲んでいる。僕たちは歩み寄る。

「デカいガラス瓶」

「あれジョッキと言うのよ。大抵はお酒が入ってるの。酒場とかでよく使われてるの」

「へえ」

 近づくと甘い匂いのほかに草っぽい、野菜の匂いがしてくる。

「おやあ! やっと子供に会えたよ! さあほら飲んで見てよ! ご老人たちは皆青汁が好みでね!」

 カラスの仮面は服の下からピンク色の液体が入ったジョッキを僕たちの前に置く。すごい甘い香りがする。ダンネがジョッキを両手に持ってカラスを睨む。

「あなた誰? 見るかに怪しいけど」

「僕はカラスだよ!」

カラスが仮面の嘴を開いて「カア!」と鳴き声を上げる。カラスが嘘をついてるのが何故か分かるけど、僕は両手に持ったピンク色の液体を飲んでみる。とても甘くて美味しい。こんな美味しい飲み物は始めてだ。

「美味しい」

 ダンネが僕に顔を向ける。

「あなた警戒心というのがないの?」

 カラスがダンネを見おろす。

「おんやあ? キツネのお嬢さんはまさかジュースに毒が入ってるとお思いかな?」

「実際、中に何が入ってるか分からないし」

「それもそうだね!」

 仮面の嘴が開いてカラスは「カア!」と鳴く。

「僕は黄金の果実を自家栽培しているんだ! そこからどれだけ手を咥えず如何に美味しいジュースを作れるかを試しているんだ! 自分では飲み飽きてね! こうして降り立って皆にも味わってもらおうと思ってるんだ!」

 ドロップは目を瞑ってピンクの液体を飲み始める。急に眼が大きく広がる。

「すごい美味しい!」

「それはそうだよ! それは苺ジュースさ! しかも果汁百%なんだ!」

 ダンネも目を瞑って苺ジュースを飲み始める。そして目を見開いて苺ジュースを見る。

「なにこれ! すごい甘いけど美味しい!」

 ダンネはジョッキに入っている苺ジュースを一気に飲み干す。

「喜んでくれて何よりだ! ところでオオカミの少年」

「ぼく?」

「そう僕だ、君はこの辺りじゃ珍しい子だね」

 僕は首を傾げる。ダンネが「おかわり」とジョッキを差し出す。

「ガウルの何が珍しいの?」

 カラスはダンネから空のジョッキを受け取ると服の下に隠す。新しいジョッキには黄色い液体が入っている。それをダンネは受け取る。

「君はとっても真っすぐな眼をしている。その澄んだ蒼い瞳は大事にするんだよ」

「あおいめ?」

 ドロップが苺ジュースを飲み終える。

「ガウルの目は蒼いよ」

「そうか蒼いのか」

 知らなかった。僕の眼は蒼いのか。

「そうだ! 大人にはもう尋ねたんだけど! 君たち宝探しは好きかい?」

「宝探し?」

「そうさ宝探しさ! ジュースを味わって欲しいというのは事実だけど、もうひとつこの島に用事があってね! 実はあるお宝を探しているだ! 原初の花というものを探しているんだ! 聞いたことないかい?」

 僕たちは首を振る。

「そうかそれは残念だ! 最近噂で耳にしたんだ、どうも原初の花というのが各地に現れたらしく。いちど見てみたいと思って!」

 ダンネがカラスを指さす。

「あなたどこから来たの?」

「それは言えないんだごめんね! 僕の畑に黄金の果実が実っているから、それを知られると皆欲望のままに狩りとって行っちゃうんだ! だから秘密なんだ!」

 僕は苺ジュースを飲み干して空いたジョッキをカラスに渡す。

「美味しかったかい?」

「うん、美味しかった」

「そうかそれは嬉しいよ! そのひと言が欲しくてジュース屋さんをしているんだ!」

 カラスの仮面は表情を見せない。でもカラスがとても喜んでいることが何故か分かる。

「ところで少年、君は……」

 カラスは体を大きく左右に振って僕を眺めている。

「いや気のせいだったよ!」

 ダンネが黄色の液体を飲み干す。

「オレンジジュースだった。ごちそうさま!」

「美味しかったかい?」

「美味しかった! ところで何が気のせいなの?」

「そうだね思わせぶりは失礼だね! 僕の知ってる人にちょっと似てるなあと思っただけだよ! たぶん気のせいだごめんね!」

 僕はカラスの知っている誰かに似ているらしい。




 カラスのジュース屋さんは村の人たちが優しいという理由だけで樽を村にいくつか置いていき、元気に手を振りながら村を去って行った。僕たちはジュースでお腹いっぱいになってそのまま眠り始めた。そういえばカラスの名前は「カラス」じゃない。何故か嘘をついてることが分かったし、何故分かるかも分からない。ダンネに聞いてみよう。僕はベッドを降りるとダンネとドロップが寝ている母さんのベッドへ向かう。ドロップの杖がゆっくり光っては消えるを繰り返している。とりあえずダンネを起こそうと揺する。ダンネは片手で僕の手をはたく。怒られてしまった。ダンネが起きるまでじっと待つ。

 いきなりダンネの眼が開いて飛び起きる。

「なに?」

「なんで嘘ついてるのが分かるんだろう?」

「知らないわよ。何この光?」

 ダンネがドロップの杖を見る。

「ドロップは記憶喪失じゃないんだ」

 ダンネが振り返る。

「え? 記憶喪失が嘘ってこと?」

 僕は首を横に振る。

「でも自分の名前が思い出せないのは本当なんだ」

「記憶喪失が嘘で、名前が思い出せないのは本当。ということ?」

 僕は頷く。

「それでカラスの名前もカラスじゃないんだ」

「何がなんだかさっぱり分からない。私寝る」

 ダンネはベッドに横になるとすぐ起き上がる。

「いや待てよ……」

 ダンネは何も言わないでじっと前を眺めている。何かあるのかと僕もダンネの見ている方向を眺める。何もない。するとダンネが笑みを見せる。

「これは使える」

 そして僕に顔を向ける。ダンネが裸足のままベッドから降りる。

「ねえ! 今度から私が前に立つ」

「前に?」

「誰かと話すときは私が前に立つ。それで誰かが嘘をついたら私の袖を引っ張るの」

 僕はダンネの腕を掴む。

「それは腕。袖」

 ダンネが服を掴んで僕に袖を掴めと見せてくる。僕は袖を掴む。

「それで軽く引っ張って」

 僕はダンネの袖を引っ張る。

「これで誰か嘘をついたのか私にも分かるようになる」

 つまり、誰かが嘘をついたらダンネの袖を引っ張れということか。

「じゃあ私は寝るから起こさないで」

 ダンネはあくびをしながらベッドで横になり尻尾を丸める。僕も自分のベッドで眠ろうと戻る。今日の夜は隙間風をすごい感じる。嵐でも来るのかな。




 誰かに頬を叩かれて目を覚ます。ダンネだ。

「起きて! 外! 外が大変なの!」

 大声を出されたのもあって僕は慌てて家の外に出る。真っ白な服を着ているドロップが震えながら杖を抱きしめている。今にも泣きそうな顔を僕に向ける。

「ガウル。これって」

 辺りを見渡すと全てが枯れていた。草木は灰色、茶色い土の地面まで灰色になっている。畑には水の気配すらない。風が吹くと流された枯れた葉が体にいくつも当たる。少し離れたところでカラスの男が空を軽く見上げて立っている。そしてカラスが僕たちに気づく。

「おや? 君たちは無事なんだね」

 カラスが近づいてくる。ダンネが前に出る。

「これはあなたがしたことなの?」

 カラスは両手を上げ首を振る。

「まったく心当たりないね。僕も目が覚めたらこうなっていたんだ。あまり大したことじゃないけど流石に驚くよ」

 ダンネが横目で僕の顔を見る。僕が首を横に振るとダンネは驚いた顔を見せる。カラスは嘘をついていない。

「まあ僕もこの格好をしてるから怪しまれてもしょうがない。ちなみに村の人々は眠りから目を覚まさない。うーむ面白い事象だ」

「これの何が面白いのよ!」

 ダンネの大声がに少し体が反応する。

「ふむ。確かに失言だったね謝るよ。君たちにとっては絶望の状況だろうが、僕にとっては面白いひとつの出来事にすぎない。ごめんね」

 カラスは嘘をついていない。このカラスというのが良く分からない。僕は「ねえ」と声をかける。

「なんだい?」

「本当の名前はなんて言うの?」

「僕の名前? カラスだよ」

「それは嘘だ」

 カラスの仮面がじっと僕を見つめている。

「どうして嘘だと分かるんだい?」

 それが分からない。あるときから何故か「これは嘘だ」というのが分かるようになった。

「もしかして君は嘘を見破れるが、何故そうなったのか説明ができない。違うかい?」

 僕は頷く。

「なるほど。そして僕の名前がカラスでわないと言いたいんだね」

 僕はまた頷く。

「なら君にとって優しい回答はこうだ。僕の本当の名前は言えないし、言いたくない。君のことが嫌いだから伏せたい訳じゃない。ただ言えないし、言いたくないというのが僕の考えだ。偽名になるが君にとって僕はカラスだ」

 カラスの説明が長くてちょっと訳が分からなくなった。僕は首を傾げる。ダンネがカラスを指さす。

「とりあえずあの人の名前は、カラス」

「カラス」

「そう僕はカラス。本当の名前は別にある」

 なるほど。カラスはカラスなのか。

「ところで僕から見ると、君たち三人のほうが非常に怪しいのだが?」

「僕たちが?」

「他の村人たちは皆眠ったまま目を覚まさない。なのに君たちはいまこうして僕と話をしている? どうしてだい?」

 僕たち三人は顔を見合わせる。

「つまり僕たちはいま大いなる矛盾に片足を突っ込んでいることになる」

「むじゅん?」

「オオカミ君が見た者は恐らく全て事実だ。空に流れる流れ星のひとつが流れ星として落ち、そこに君がいた。つまり、落ちてきたのは恐らく流れ星じゃなくてイヌ君だ」

 カラスはドロップを指さす。

「ぼく?」

「そうイヌ君だ。どういう訳か、流れ星に運ばれたイヌ君をオオカミ君が見つけ同時に縛りの契約という呪いをかけられた。問題はここだ、オオカミ君は呪いをかけられて苦痛も不安も怪我もしていない。逆に僕はオオカミ君の右手を握ったとき身の危険を感じた。だから対抗しようと少年にちょっとした攻撃をした。そしたらもうビリビリで体は綺麗に消滅するわでもう大変」

 僕はカラスの説明がなにひとつ理解できない。話が長すぎてちょっと眠くなってきた。

 ダンネが僕の体からそっと顔を出す。

「それが矛盾なの?」

「僕も非常に説明が難しいのだが、オオカミ君は呪いによって保護されている。こんなことはまずありえない。正直、僕に説明を求められても困る。というところだね」

「じゃあ誰も理解できないってこと?」

「そうだね!」

 カラスは笑った。僕はうとうとしてきた。

「僕は分からないことは考えないことにしている。僕で理解出来ないなら誰も理解できないさ。だから君たちもあまり考える必要はないよ。ところでオオカミ君が寝そうになっている」

 ダンネが僕のお尻をつねる。

「痛い」

「こんなときに寝ないで」

「さてそうなると次はオオカミ君じゃなくてイヌ君になる」

 カラスはドロップを指さす。

「ぼ、僕?」

「人が流れ星に乗ってほいほい飛んでくるなんてまずおかしい。君はそもそもどこから来たんだい?」

「ぼ、僕は」

 ダンネがゆっくり顔を出す。

「ドロップは記憶喪失なの」

「へえそうなのかい」

「でも記憶喪失じゃない」

 僕は知っていることを口にした。ドロップが「え?」言う。

「記憶喪失で記憶喪失じゃない。なるほど、そういうことか」

 そういうこと? どういうことだ?

「それってどういうことなの?」

 ダンネが聞いてくれた。

「その場合何かによって記憶が封じられている可能性がある」

「僕の記憶が誰かに?」

「そう。ただその記憶がなんであれ、イヌ君がこの地に来たか送られた理由があるはずだ。そうなってくると。キツネちゃんも怪しくなってくる」

「わ、私?」

「そうだよキツネちゃん。この不可解な状況でキツネちゃんも僕と話してる時点で矛盾しているのさ。キツネちゃんはどうやって彼らと出会ったんだい?」

「私は川でお魚を取ろうとしたけど釣れなくて。そうしたらちょっと離れたところに釣りをしてるガウルとドロップがいて。ふたりともお魚釣ってたからお魚を貰おうと」

「そもそも、ここまでどうやって来たんだい?」

「間違えて船に乗って。帰ろうとしたら台風で帰れなくなったから、知らない場所を散歩してたら遭難したの」

「ふむ、キツネちゃんは偶然のようだね」

「あ」

 そう言ってダンネが固まる。

「何か思いついたかい?」

「ドロップの杖だ」

「杖?」

「寝てるときになんか光っているのよ」

 皆でドロップの杖を見る。

「ぼ、僕は何も知らないよ」

 そういえば言ってなかった。僕はドロップの杖を指さす。

「その杖、ドロップが寝ているときに光ってるんだ」

「そうなの?」

「うん」

 そうか、ドロップは眠っているから気づかないのか。ダンネがドロップに近づいて杖の先を見る。

「私たち寝ているときにドロップの杖から出る光を浴びてた」

 カラスもドロップの杖に近づく。見下ろされたドロップはちょっと後ろに下がる。カラスはドロップの杖の先を指先でつつく。

「それはどんな光だった?」

「ゆっくり光ったり消えたりしてた」

「恐らくオオカミ君の見た流れ星の正体はこれだ」

 皆でドロップの杖を見上げる。

「そうなると目指す場所はただひとつ。オオカミ君、その流れ星が落ちた場所まで案内してくれ」

 僕は頷く。ドロップを見つけた場所は枯れた古い木だ。僕は皆をそこまで案内していく。そこまで行く途中の全てが枯れ果てていた。木についていた葉っぱも殆ど落ちている。幹と枝だけが立っている状態。ほぼ全てが灰色になった一ヶ所に光輝く場所がある。そこが流れ星の落ちた場所だ。




「これは本当にすごいな」

 枯れた古い木には白い花がたくさん咲いていた。それにひとつひとつが光っている。この木だけが枯れていない。緑色の葉っぱも白い花も、幹も枝も灰色になっていない。ちゃんと木だ。

「ところで本当にこの木は枯れていたのかい?」

 僕は頷く。

「うん。ずっと枯れてた」

「落ちてきた流れ星、縛りの契約、呪いによる保護、枯れた世界、目を覚まさない村人。そして枯れていたはずの木が花を咲かせた。これは矛盾だ、間違いない」

 僕はカラスの言っていることが分からない。代わりにダンネが「どういうこと?」と聞いた。

「全てが反対になったんだ。生けるもの全てが死に、死せるもの全てが生まれた」

 ドロップがカラスに顔を向ける。

「それじゃあ、村の皆も?」

「今は眠っているだけだね、もちろんこのままじゃ死んでしまう」

 村の皆が死んでしまう。それがどれだけ大変なことかは僕にも分かる。

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