第38話 ポテト三兄弟
僕たちはダンネのママについて行く。皆がまだダンネのママを見ている。ダンネのママは両手を出して手を二回叩いた。それを聞いて僕は尻尾を振る。
「皆、そろそろ講義の時間でしょ」
周りにいたキツネたちが我に返って足早に歩いていく。僕は呼ばれたのでダンネのママを見上げながら尻尾を振り続ける。それに気づいたダンネのママが僕の頭をそっと撫でる。
「じゃあ小学生はこっちだからついてきて」
僕たちはダンネのママについて行き建物の角を曲がる。
その先にはダンネの姿があった。ダンネと僕たちと同じ子供三人、皆茶色い服を着ている。ダンネは黒い髪のキツネの胸倉を掴み、残りの茶色い髪のキツネ、白い髪のキツネがダンネの腕を頑張って引っ張っている。
「ふっふっふ。そんな態度を取って許されると思うのか?」
「煽って来たのはあなたたちでしょう!」
「兄さんを離せ!」
「そうだ兄さんを離せ!」
「あなたはそこで何をしてるの?」
ダンネのママの声にダンネは黒いキツネの胸倉から手を離し振り返る。その他三人も一列に並ぶ。ダンネのママが怒り始めたので僕はドロップに抱き着く。
「また……もう!」
ドロップは僕を必死に引き剥がそうとする。
「ママ」
「説明しなさい」
ダンネが三人を指さす。
「私が家出したことを馬鹿にしてきたから懲らしめようと思って」
ダンネのママが三人を睨む。
「そうなの?」
「いえ、そんなことありません!」
「兄さんが煽りました」
「兄さんです」
「おい!」
ダンネが黒いキツネを指さす。
「ポルテが煽った」
それを聞いてダンネのママはため息を吐いた。
「相変わらず仲が良いのはいいけど、そろそろ講義の準備をしなさい」
「はい」
ダンネはそう返事するけど、ポテト三兄弟はニャーに近づいていく。ニャーが両耳を横にして三人を睨む。
「シャー!」
「なんだこいつ?」
「睨まれている」
「睨んでるね」
三人のキツネはニャーを眺めている。
「ちょうどいいから紹介するわね。これがジャガイモ農場を営んでいるポテト三兄弟。黒いキツネが長男のポルテ、白いキツネが次男のテルト、茶色いキツネが三男のトルボ。頭文字を取ってポテト三兄弟と言われているわ。三つ子だから皆ダンネと同じ小学生よ」
僕は話を聞いていたけど、誰が誰だか分からなくなった。黒いキツネの……確かポルテがニャーにそっと手を伸ばす。するとニャーが素早くポルテの手をはたく。
「殴られた! 殴られたぞ!」
「兄さん怪我をしたかもしれない!」
「この謎の生物はなんなんだ!」
「この子はネコのニャーよ」
ポテト三兄弟はダンネのママを見上げる。
「ネコ?」
「ネコって?」
「ネコ?」
ポテト三兄弟はまたニャーに視線を戻す。ニャーはまたポテト三兄弟を睨んでいる。
「あ、私たちそろそろ講義だ。行くわよ赤点三兄弟」
ポテト三兄弟はダンネを睨みつける。
「誰が赤点三兄弟だ!」
「そうだ! ポテト三兄弟だ!」
「成績良いからって調子乗るなよ!」
「それで私がいない間は赤点じゃなかったの?」
「全部赤点でした!」「全部赤点でした!」「全部赤点でした!」
ポテト三兄弟は同時に言った。ダンネのママが手を振る。
「ダンネと赤点三兄弟は早く行きなさい」
ポテト三兄弟はダンネのママを睨む。
「誰が赤点三兄弟だ! 覚えてろ! 親子共々今日も美人なご身分で!」
ポルテが駆けていく。
「兄さん! 領主さまの奥様だから身分は高いんだよ!」
テルトが追いかけ。
「それに僕たちは皆赤点じゃないか!」
トルポが駆けていく。なんともうるさい三兄弟だ。ニャーを見るとまだ睨んでいる。
「そんなに怒ってどうしたの?」
「あの三人は嫌いニャ! 好きじゃないニャ!」
ドロップがニャーの顔を覗く。
「え? どうして?」
「三兄弟だからニャ!」
またよく分からないことを口にする。僕はつい両肩を落とす。
「とにかくあの赤点……ポテト三兄弟が今朝話した、ジャガイモを農場を営んでいる三つ子よ」
「僕たちと同じ子供だった」
「共和国に年齢制限はないわ。知識を元に正式な手続きを踏めば誰だって開業出来るの。もちろんある種の仕事に年齢制限は設けられてるわ、その……グルグルするから」
「グルグル」
「そうよグルグルよ。ちなみにダンネたちが行った先を案内するからついてきて」
僕はニャーを見ながら歩く。ニャーが僕を睨んでくる。
「なに見てるニャ?」
僕はそっとニャーに手を伸ばす。ニャーは僕の手を何度も叩いて来る。痛くない。
「この手はなんニャ! この手はなんなのニャ!」
「ニャーニャーニャーニャーうるさいニャー」
「シャー!」
僕とニャーは睨み合いながらダンネのママについて行く。ちょっと強引にドロップが僕とニャーの間に入る。
「ほ、ほら! これから中に入るよ!」
ドロップが指を刺した先は建物が入り組んでいた。大きく開いた建物の中央は円状になっていて。どこがどこだか分からなかった。
「この中央部分は通路なの、講義で使われる教室の一部が扇状になっているから。まあ見て貰ったほうが早いわね。階段はこっちよ」
ダンネのママが階段へ歩き登っていく。僕たちはそれに付いていく。ドロップは広く開かれた階段すら楽しんでいる。
「本当に大きな建物ですね」
「これで耐震性もしっかりしているの。たまに地震が起きるから」
「じしん?」
ドロップが尋ねて僕も気になった。
「共和国の北に火山があるのよ。いまは休火山、噴火はしないのだけど地震。たまに大地が大きく揺れるのよグラグラって。火山から少し離れたところに白蛇山温泉街という場所があって。地震がたまに起きるからその温泉街と共和国の建造物は耐震性があるのよ。だからもし地震が来ても慌てずにね」
「大地が大きく揺れるのは流石のニャーでも慌てるニャ」
僕は咄嗟にドロップに抱き着く。
「階段で危ないからやめて!」
「慣れれば問題ないわ。ガウル、階段は本当に危ないから離れなさい」
ダンネのママに言われて僕はドロップから離れる。
ドロップが僕を睨んでいる。僕は逃げるように階段を上がっていくダンネのママを追いかける。二階に上がって廊下を歩き、ダンネのママが扉を開ける。
「そして」
キツネの男の人が僕たちに顔を向ける。ダンネのママを見て軽く頭を下げて視線を戻す。
「貴族社会は半ば崩壊した形になり。今のドギルス王国の実験を握っているのが近衛隊長エドになります」
ダンネのママが中に入るので僕たちも入る。キツネの子供たちが階段みたいな椅子に腰を降ろしている。全員こっちを見ているので僕は怖くなってドロップに抱き着く。ドロップは何も言わずにキツネの子供たちを見て固まっている。キツネの男の人が手を二回叩く。呼ばれたと思った僕はドロップから離れる。その人に近づこうとして、ダンネのママに服を掴まれる。
「講義中だ集中しなさい」
キツネの子供たちが一斉に男の人に顔を向ける。
「講義はこのように行われているの。じゃあ次は図書室に向かいましょう」
僕はダンネのママに引き連られるように講義室を後にする。
今度は図書室に連れて来られた。本棚にいっぱい本があるけど、王国の図書館より遥かに小さい。
「あんまりないね」
ダンネのママが静かに笑う。
「王国の図書館に比べたら確かに少ないわね。基本図書室は学術書しかないから。各校舎にそれぞれひとつずつあるの。ここは小学生の校舎だから子供が学ぶてき基本的な本ばかりよ。少し歩いて眺めてみるといいわ」
ニャーが迷いなく歩き始め、ドロップも本を眺めながら歩きはじめる。僕も本棚を見上げながら図書室を歩いていく。壁に並んでいる本棚は背に壁があるけど、中央に並んでいる本棚は背に壁がない。なので向こう側が見える。僕は王国図書館で見た赤い眼を思い出す。そして、ここでは現れないだろうと確信してしまう。理由は分からない。本を眺めながら念のため警戒していると。茶色い眼と眼が合ってしまう。
「あ」と、言う小さな声がかろうじて聞こえた。
僕はその茶色い眼をずっと眺めてしまう。すると茶色い眼は今にも泣きだしそうになり本棚越しにでも分かるぐらい震え始めている。僕はつい「大丈夫?」と尋ねる。僕から眼を離さずに茶色い眼が逃げるように歩きはじめる。なので僕はつい追いかけてしまう。
「あら、カーリー。ここで何してるの?」
ダンネのママの声が聞こえた。
「こ、こんにちは」
どうやらダンネのママと知り合いらしい。僕はいまいる通路を歩いて、その子がいる通路まで歩く。茶色い髪のキツネの男の子が僕を眺めている。ダンネと違って黒い服を着ている。そして見て分かるぐらい震えている。
「この子はカーリー、ハリスの息子よ」
僕は震えながら今にも泣きだしそうなカーリーを睨む。カーリーは怯えて顔を反らす。まったく似ていない。すごい臆病な気がする。僕は睨みながらカーリーに近づく。カーリーの両耳がペタンとなってダンネのママの背後に隠れる。なので僕はカーリーを追いかけ始める。ダンネのママが僕とカーリーを捕まえる。
「あなたたちは何してるの?」
そこにニャーが歩いてきてカーリーに抱き着く。
「うわあ!」
カーリーが悲鳴を上げ、ニャーは何故かカーリーに顔を沈めている。
「臭うニャ! 何か臭うニャ!」
僕は首を傾げる。
「何が臭うの?」
「程よい出汁の香りがするニャ!」
「あ、朝にうどんを零したから」
「それニャ!」
ダンネのママがニャーを両手で掴んでカーリーから離す。
「カーリーはここで何してたの?」
「基本の参考書を……借りようと」
カーリーは僕のことをチラチラ見ている。僕を警戒している。隙を見てカーリーに近づいて抱き着いて見る。
「ギャア! 離して! 僕食べられちゃう!」
カーリーが泣き始めてしまった。僕は何もしていないのに。カーリーの鳴き声を聞きつけたドロップが通路の奥から僕を睨みながら歩いて来る。
「ガウル! 何してるの!」
「僕がカーリーを食べると思ってるんだ」
「いいから離れて!」
ドロップはカーリーから僕を離す。カーリーはドロップの背後に素早く隠れる。
ダンネのママが少しため息を吐く。
「カーリーは人が苦手なのよ。いつからかしら、前はそんなこと無かったと思うけど」
僕がカーリーを見ようとするとドロップがカーリーを庇う。
「ガウル! 抱き着く癖を直してよ!」
僕はドロップに怒られてしまった。
「怒られちゃった」
「怒られたニャ」




