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ガウル  作者: キヌミタロ
第6章 キツネの学校
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第37話 登校

 僕たちは歩き疲れたこともあって暖炉の前でグッスリ眠った。そこをひとりひとりダンネのママにベッドへ連れていかれる。ダンネの家は客室まであった。僕たちはその客室のベッドでグッスリ眠り、僕だけ先に眼を覚ます。昨日、いけないことを考えてた気がする。なんであんなこと考えたんだろう。気をつけよう。ダンネに相談しようかな? いや物騒すぎる、やめておこう。僕はベッドから足を降ろして少しだけ息を整える。

 手掛かりに近づけば近づくほどに僕の思考が汚染されている気がする。僕の知らない強い意思がこの国に来てからかなり強くなっている気がする。静かでありとても強い意思、気づけばその強さに飲み込まれそうになる。ふたつの感覚がひとつにあるのならば、弱いほうは自然と消えるのじゃないのか?

 ハリスの言葉を思い出す。思考が毒になる。今がまさにその状況だろう。僕は理由なくベッドへ倒れる。不時着した衝撃で思考が砕けて散っていく。僕はいつからこんなに考え事をするようになったのか。その切っ掛けは間違いなくシルケの光だ。僕を崩壊から救ってくれた彼は僕の記憶、恐らく他の何かも整理してくれたのだろう。それは正しかったのか?

「うるさい!」

 つい大声を出してしまう。思考が巡る、よろしくない方向へ巡っていく。頭痛がしないのに片手で頭を抑えてしまう。大声を出したせいかドロップがゆっくりと眼を覚ます。

「どうしたの?」

「ごめん……なんでもないよ」

 僕は王国から逃げるようにこの国、共和国に来た。どこへ行っても苦痛が付きまとって来る。眠っているようで眠れていない。体が重く起きた瞬間に疲労が僕を襲う。首を上に向けると何かがベッドの下から出て来る。黒い耳の中はピンク色、ゆっくりと両耳が現れてニャーがゆっくりと顔を出す。赤い眼が僕と眼を合わす。

「なんでベッドの下でいつも寝てるの?」

「ニャーは明るいところが大嫌いニャ。暗いところが大好きニャ」

「でも昼間歩いてるよね?」

「それとこれとは別の話にゃ。寝るときは暗い所が大好きニャ」

「なんで?」

「暗い所が大好きだからニャ」

「う、うん」

 やっぱりニャーがよく分からない。でもお陰で頭が空っぽになった気がする。ゆっくりとベッドから起きてドロップに顔を向ける。ドロップはまた眠り始めている。扉がノックされて開く。ダンネが顔を覗かせる。

「ご飯」

「ご飯だニャ!」

 ニャーが飛び出して部屋を出ていく。ダンネはニャーに慣れたのかただ見送る。そして顔を部屋に戻す。

「さっき何か言った?」

「言った」

「大丈夫?」

「うん……」

 顔に何もついてないのに頭の上からゆっくりと手で何かを拭っていく。

「大丈夫」

 拭った手をなぜか見てしまう。何もついていない。ちょっと息を吸って欠伸を大きくする。ベットから立ち上がって部屋を出ていく。ダンネが「ねえ?」と声を掛けて来る。僕は足を止めて振り返る。

「本当に大丈夫なの?」

「うん。大丈夫」

 僕は嘘をついた。だけど皆嘘を見抜けない。それが普通なんだ。僕に騙されたダンネが「そう」と声を漏らす。

「先行くね」

「私はドロップを起こす」

 ダンネが部屋に入っていく。僕は階段を一段一段降りていく、ダンネに嘘をついたからなのか。一段ずつ軋む音が大きく聞こえる。だからってダンネに相談できることでもない。なんと言うのか、このモヤモヤは僕の中にそっとしまっておこう。

「これ美味しいニャ! 美味しすぎるニャ!」

 ニャーが朝食を絶賛する声が聞こえてくる。階段を降り切って向かうと、お皿いっぱいのジャガイモ? がある。ジャガイモいっぱい。皮が向かれて湯気が立っている。

「おはよう」

 ダンネのママがフォークで刺したジャガイモを食べる。ニャーも同じくフォークで刺したジャガイモを食べている。

「大変ニャ! このジャガイモフォフィフィーファ!」

「何を言っているのか分からない」

「この国のジャガイモはポテト三兄弟が作っているの。ちょっとした名産品なのよ」

 ダンネのママはまたジャガイモをフォークで刺して食べ始める。どうぞと言わんばかりにジャガイモに手を伸ばす。僕は用意されていたフォークを手にしてジャガイモを刺す。柔らかい。そしてただジャガイモを口にする。まろやかな甘みが口を襲う。

「ファフィフォレフォイフィー!」

 ニャーがジャガイモを飲みこむ。挙句にジャガイモの山を睨みつける。

「こんな美味しいジャガイモ食べたことないニャ!」

 僕もこんなジャガイモ食べたことない! 美味しくて夢中で食べ続ける!

「気に入ってくれたようで嬉しいわ」

「あ、三兄弟ポテト」

「三兄弟ポテト?」

「うん。ポテト三兄弟という三人兄弟が国の北でジャガイモ農場を運営してるの。味が良いし、どういう訳かいつも豊作だから。ポテト三兄弟のジャガイモはこの雪国では貴重な食糧になってるの」

「おはよう、さああなたたちも食べて」

「おはようございます。じゃあ、頂きます」

「三兄弟ポテトは確かに美味しいけど、私は食べ慣れてるしなあ」

「なにこのジャガイモ美味しい!」

「美味しすぎるニャ!」

「うん、久しぶりに食べると美味しい!」

「ところでダンネ、これからどうするの?」

「ガウルから聞いた、星空のガウルを探そうと思う」

「そうね。ところでダンネ、たぶん何かと大変で重要なことを忘れていると思うの。もういちど確認するわね。今日ダンネは星空のガウルを皆で探すのね?」

「うん!」

「なら学校はどうするの?」

 僕はジャガイモを飲み込む。非常に美味しかった。もうお腹いっぱい。

「そうだ私学校があるんだった!」

 ダンネが二階へ駆けあがっていく。

「ダンネはどうしたの?」

「学校があるんだって」

「へえ」

 ダンネのママがダンネの使っていたフォークとお皿を下げる。

「共和国で義務教育があるのよ。ダンネはいま小学校クラスにいるの。その後に中、高があって卒業してから皆お仕事に就くの」

 僕はまだジャガイモを食べているニャーを見る。

「そういえばニャーも学生だったよね」

「ニャ」

「あら、じゃあ良かったら皆学校見学していく? 共和国は学問の門を大きく広げているの」

「僕見てみたいです!」

 ドロップが嬉しそうに答える。学校……どんなところなんだろう?

「僕もちょっと興味がある」

「見学させてもらおうよ!」

「それがいいと思うわ。実はハリスがあなたたちに興味持って、すでに手掛かりを本格的に探し始めてるの。その手掛かりである星のガウル、が見つかるのも時間の問題だと思うし。話の内容が難しすぎて、ちょっと休憩してもいいんじゃないかと私は思う」

 休憩か。頃合いかもしれない。

「僕も学校見てみたい」

 ダンネがすごい勢いで階段を駆け降りて来る。服が茶色になっている。

「学校に行かなきゃいけないし手掛かりは見つけなくちゃいけないし皆いるし!」

「学校に行きなさい、今日は皆で学校の見学に行くから」

「行ってきます!」

 ダンネはすごい勢いで家を飛び出して行った。

「さて、皆満足したら行きましょう」

「ニャーはジャガイモを食べるニャ!」

「僕の分も取って置いてよ!」

 ニャーとドロップはジャガイモを食べ続ける。ふたりとも良く食べる。




 ダンネのママに連れられて、皆で学校に来たけど。大きい建物があっちこっちにあってどれか分からない。見える範囲赤いレンガ造りの建物ばかりだ。

「これが共和国の学校」

 僕は目の前の建物を指さす。

「これ?」

「いいえ、この正面見える範囲全部よ。街一角そのものが学生街になってるの。ここで学び卒業して、ここで技術を磨いてから国で活躍したり国外で活躍したり。ここの建物全部卒業生がしっかり作ったのよ。基本ここで学べないことは……あなたたちが体験したようなことは流石に学べないわね。付いてきて」

 僕たちはレンガ造りの建物を見ながら雪道を行く。

「ニャーの学校より広いニャ」

 ドロップがニャーに顔を向ける。

「そうなの?」

「ニャーの学校は校舎があるだけニャ」

「建物ごとに分野が違うのよ。社会、経済、政治、軍事、外交、情報工作。その他ありとあらゆる分野があるの」

 難しい説明を聞きながら僕は視線を強く感じる。

「見て、オオカミとイヌがいる。すごい珍しい」

「あの黒い子誰だろう? イヌかな?」

 キツネの人たちがすごい僕たちを気にしている。ただし殆どの人がダンネのママを気にしていた。

「あの人、九尾のハスタさんじゃないか?」

「本当か? うわあ、俺話聞きたいなあ」

「こんなところに何しに来たのかしら、彼女から学びたい」

 僕たちはきょろきょろしながらキツネたちの顔見る。皆ダンネより歳上に見える。それに来ている服が白に黒だ。特に白い髪に白い尻尾をで白い服を着ているキツネを見ると不愉快になる。出来るだけ見ないようにしよう。

「服の色が皆違う」

「茶色いが小学生、白が中学生で黒が高校生なの。小学生は授業が朝から昼の間だけなの、午後の生活は各自に任せてあるわ」

 ドロップがダンネのママに近づく。

「なんで小学生だけ短いんですか?」

「その代わりに宿題が出されるの。その宿題の提出状況と点数でそれぞれ見合った教授に割り振られて行くの。理解出来ていない子を先に進ませる意味はないのよ。出来るならさらに、出来ないなら出来るように。これがこの国のモットーよ」

 僕も気になったことを尋ねようとドロップの隣に並ぶ。

「きゅうびってなに?」

「ガウル、家からずっとつけてきているのは何人?」

「八人」

「よく出来ました。その八人に私を咥えて九人。普段は九尾と呼ばれているのよ」

 ドロップとニャーは背後を見る。

「家からずっとつけてるニャ?」

「僕気づかなかった」

「九尾というのは国内外問わず活動する領主兼ハリス直下の部隊よ。なんかこう……グルグルしてるのよ」

「グルグル?」

「そうグルグルしてるのよ」

 ふと、三人組の黒い服を着た女の人が近づいて来る。皆尻尾がモフモフだ。

「は、ハスタさん。おはようございます」

 ダンネのママは笑顔で「おはよう」と答える。

 三人は「おはようございます!」と言って駆けだしていく。

 僕はダンネのママを見上げる。ダンネのママってすごいんだ。

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