↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガウル  作者: キヌミタロ
第4章 異変
PR
27/96

第26話 誰もいない王国

 水を暖めて白くて固いお風呂にお湯を入れる。服を脱いで入るとすごい心地よかった。ベッドで寝ているみたいな。寝そうになったところをニャーとドロップに注意されて。僕は用意された部屋のベッドに倒れ込んで布を丸めて眠りにつく。




 誰かに見られている気配を感じて咄嗟に眼を覚ます。悪夢でも見たか? つい鳥肌なんか立ててしまう。ゆっくり上体を起こすと窓から見える外はまだ明るい。頭痛がして俺は片手で頭を抑える。情けないかな、ひとりでいることに不安が溢れて来る。誰かいないのか?

「ダンネ! ドロップ!」

 名前を叫びながらベッドから降り立ち部屋を出る。

「クロネコお!」

 ニャーを呼んでも返事もない。皆どこへ行った? 廊下に出るとちょっと変わった光景を目にする。扉が全て開かれた状態になっている。それが不気味でしょうがなかった、部屋の掃除でも始めているのか?

「ポチ! ハチ!」

 俺が先に眠ったから、俺を置いて皆でどこかへ向かったのか? 逆にそうであって欲しかった。あまりにも人の気配が無さすぎる。それに恐怖してまた鳥肌を立てる。開いてる扉の部屋を覗き込み。誰もいないことを確認して扉を閉じていく。広い大使館を出来る限り探した。本当に誰もいない。そうだ、大通りに行けば人が大勢いるはずだ。そこへ向かおう。大使館から逃げるように足早に外へ出る。

 すると、民家の扉も開きっぱなしになっている。それも見える範囲全てだ。不気味でありきもちが悪い。俺は軽く走りながら大通りを目指す。足音は俺のだけ。全ての家がそうだ、扉が開きっぱなしになっている。どうして誰もいないんだ、誰の気配も感じないんだ。うるさすぎる人の喧騒がまったく耳に入って来ない。

「誰かいないか!」

 大声で叫んでも返事もない。夢でも見てるのか? いやありえない。こんなハッキリとした夢は今まで見たことがない。大通りに出ると俺は混乱し始める。本当に誰もいない。あれだけ歩いていた人が誰ひとりとしていない。また見える範囲の扉が全て開いている。家の中を覗けば見えるし、試しに入って見ると入れるんだ。怖くてすぐに外へ飛び出す。なによりさっきから視線を感じているんだ。誰かに見られている。気のせいじゃない、俺は確実に誰かに見られている! こんな不思議な現象は出会って来た理みたいな話か? トゥビラが言っていたノロインか? いやこれも違うと思う。強烈なんだ! さっきから強烈に視線を感じる。バカラスやヒキコウモリやトゥビラからすら感じなかった強烈な視線が明らかに俺を見ている!

「俺を見ているの誰だ!」

 そんな言葉が無意識に出た。もちろん返事はない。ドギルス王国には誰もいない。そんなはずがないじゃないか! じゃあ皆どこへ消えた? どこを探してもいないんだ。手当たり次第に道を駆ける。あっちにもこっちにも誰もない。そして全ての扉が開いている。なんで扉が開いているのかが理解できない。普通に考えれば扉は閉まっているはず。

「反対?」

 誰かそんなことを言っていた気がする……そうだバカラスだ「全てが反対になった」普段閉まっている扉が何故か全て開いている。それがそうだとして俺に何が出来る? まさか国中全ての扉を閉めろなんてことはないよな。そう思いながら闇雲に歩いていく。俺の声は誰にも届かない、誰も返事を返して来ない。次第に口を閉ざして喋らなくなってきた。強烈な視線をいまだ感じつつも痛いほどの孤独感を味わう。皆本当にどこへ消えたんだ?

 ふと、白薔薇協会の壁にあるステンドグラス、そこには白い薔薇が形づくられていた。そして視線を下げれば扉が閉まっていた。慌てて他の民家や建物の扉を確認する。全て開いている。扉は全てが開いているのに、白薔薇協会の門だけが閉じている。何故だ? 足が徐々に震えて来る。唾を無意識に飲み込んで大きな扉に手を掛ける。それなりに思いがちゃんと開く。扉を開いて礼拝堂の中を確認する。何も変化はない。と、冷たい風に驚いて足を下げる。どこから吹いた風なのか、明らかに外のそよ風や強風とは違う。

 礼拝堂の奥、床の一部が抜け暗闇に続く階段が顔を覗かせている。下へと続く階段だ。その先から冷たい風が流れて来る。恐らくこの先へ行けということなのか。閉じられた全ての扉が開き、開かれた扉が全て閉じ。礼拝堂に来たときこんな階段は無かった。こんな暗闇へ続く階段を降りられるはずがない、なのに俺の震える足は階段を降りていく。明かりがなにひとつ無く、荒削りされた古さ思わせる石の階段を一歩ずつ降りていく。先の見えない暗闇へ落ちていく、凍え死にそうなほどの冷たい風が吹き続ける。体の力がどんどん抜けていく。急激な睡魔に瞼が開かない。息が吸えなくなってくる。なのに足は暗闇へと堕ちていく。何も見えない、誰もいない。

 待って。待ってくれ。

 声に出して言ったはずなのに、一音も口から洩れない。必死に壁に手を伸ばし冷たい壁を掴もうと壁を手探りに触る。掴めるところがなくつい爪を立ててしまう。何もない壁にすら救いを求めてしまう。両手で掴めない壁を手探りに掴もうとするけど掴めない。力を振り絞って体を反転させる。壁に寄り掛かり震える足は階段を降りなくなった。上を見上げれば驚くほどに入り口が小さすぎる。それほどまでに歩いたのか、自分ですら気づかなかった。上に行かなくてはいけない、暖かい光のあるほうへ歩かなくてはいけない。なのに震える足は動いてくれない。俺の意識が上に行きたいのに、俺の足が動いてくれない。気を抜くと下へ歩き始めてしまいそうな足。怖くて壁から両手を離すことが出来ない。上にも行けず、下へ向かいそうな足。俺はその場にゆっくりと座り込む。こうすれば足は動かない。

「誰か……誰かいないのか?」

 かすれた声が遠くまで届かない。囁き声にすら負ける小さな声。俺はどうしたらいんだ? なぜ先の見えない暗闇へ降りた? 両手で頭を抱えても強烈な視線が俺を視ている。俺の周りにはもう誰もいない、皆いなくなってしまった。そうだこれは夢なんだ、強烈な悪夢を見ているだけなんだ。なのに意識がハッキリと現実ということを知らせて来る。頭痛が酷くなっていく。意識が途切れ途切れになる。

「ガウル、お前はただ上に登るだけで良いんだ。何も気にせず上を目指せ」

 誰かの声が聞こえた気がした。俺の声か? とにかく上へ行こう。意味はない、ただ明るいから上へ行くんだ。全身を震わせながらゆっくりと立ちあがる。片足を上げ一段昇ろうとして前のめりに転ぶ。そのままの体勢で両手足を使って階段を上がっていく。どれだけ昇っても明かりは遠い。一段一段上がるだけでもひと苦労だ。いつの間にか衰弱していた、それも極度に。ふと背後に視線を感じる。それは下へ続く暗闇の先からだ。振り返りなんてしない、ただ必死に頭上の光を目指す。

 誰かが俺の足首を掴んだ感触。ゆっくりと振り返ると、黒いボロボロの布から枯れ果てた木のような腕が俺の足首を掴んでいる。そしてもう一本の腕が足首より上を掴む。とても力強く。振り払おうとするも、その体力すら残っていない。逆に俺の足を掴んでいる誰かも弱弱しくも俺の足を引っ張っている。俺はそいつをそのままに光を目指して階段を上がっていく。俺の足を掴む手が場所を変えて俺の足を何度も掴みなおし、下の暗闇へ引きずり込もうとするも力が弱い。

 俺は途中から何故か体力が戻ってくるのを感じた。自らの体温の暖かさを感じる。両手足に力が入っていく、全身の震えが治まっていく。逆に俺の足を掴んでいる枯れ果てた両腕は崩れ始めていた。俺の思考は元に戻りかけていた。つい俺の足を掴んでいる奴が何をしているのか考えてしまう。俺なんかが考えたところで分かるはずもない。

 そいつが俺の足から両手を離す。力尽きたのだろうか、俺は咄嗟に手を伸ばすも間に合わず、そいつは暗闇の先へ消えていく。立ち上がって階段を駆け下り追いかけたが、強烈な頭痛に襲われて両手で頭を抱えて壁にもたれかかる。無意識に逃げるようにして階段を駆け上がっていく。求めた光が近づいて来る、あの先に皆がいるんだ。やっと地上へ戻れた、どれぐらいの月日が経ったのだろうか。一瞬、自分がどこで何をしているのか忘れていた。すぐに思い出して外へ駆けだす。王国には誰もいない、とりあえず寝ていたベッドへ向かうんだ。強烈な視線はもう消えていた。それでも恐怖心は消えなかった。さらに壁を引っ掻いた両手と掴まれた脚から痛みを感じ始めていた。息を切らしながら必死に駆けるも前に進まない。どれだけ一緒運命に駆けようが体が前に進まない。

 大使館まで必死に戻って来ても誰ひとり姿を見なかった。必死に扉を越えると体の速度が通常になる。立ち上がって二階の部屋を目指す。階段を駆けあがって転んでしまう。脛を段差に力強くぶつけてしまった。痛みに耐えながら二階へ上がって眠っていたベッドに飛び乗る。布を全身に纏めって体を震わせる。

 すると足音が聞こえてくる。人の気配が増えて行く。人の声が聞こえてくる。全てを異常なほど感じる。数多の足音が大きすぎて耳が痛くなる、人の気配が多すぎて押し潰されそうになる、人の声が大きすぎて頭痛が酷くなる。その全てが一瞬で消える。

 階段を上がって来る足音がひとつ。二階にあがって廊下を歩いて僕がいる部屋へ入って来る。僕は全身を震わせて耐える。それが誰だか分からないからだ。

「まだ寝るには早いでしょ!」

 ダンネの声と同時に僕は心臓が止まるかと思った。咄嗟に逃げようとそのままの状態で壁に正面から激突する。

「ちょっと! 何してるの!」

 思いっきり体をぶつけた僕は泣き始めてしまう。痛い。ダンネが慌てて僕が纏っている布を取り除いた。

「なにしてるの!」

「こ、怖い夢を見た」

「夢?」

「うん。すごい怖い夢を見た」

「夢は後にして、いますごいぶつかり方したけど大丈夫なの!」

「大丈夫じゃないよ」

 僕は自分の両手の指先が傷らだけなのを見る。そして足が痛い。

「怖い夢を見たんだ、誰かが僕の足に必死にしがみついてた」

「夢は夢じゃない!」

「夢だと思うけどそうじゃないんだ」

 僕は黒いズボンを脱いで両脚をダンネに見せる。僕の両脚中に紫色の手形の跡がいくつも残っている。

「なにこれ!」

「壁にぶつかったのは痛かったけど、こっちのほうが痛いんだ」

 僕は両耳をペタンとしたまま泣きはじめる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。