第25話 調味料
僕たちは城を出て大使館に向かって歩いている。ドロップのことは何も分からなかったし、僕は話が長かったらか殆ど覚えていない。口に指入れられて牙を見られたことぐらいしか覚えていない。ドロップが足を止める。
「ねえ」
僕たち皆足を止めてドロップに振り返る。
「僕って結局誰なんだろう?」
「知らないニャ、ニャーはお腹空いたニャご飯食べるニャ」
ダンネがドロップに近づく。
「そうよ、とりあえずご飯を食べに行こう。まだ王国に着いたばっかりだし、皆で探せばいいと思う」
「うん……分かった」
ドロップはま他歩き始めた。けど僕は足を動かさない。ニャーが僕を見ている。
「さっさと行くニャ」
「僕は何をしたらいいの?」
僕は首を傾げる。王国に来てから人が多すぎて殆ど覚えていない。
「まあ確かにそうね。ガウルは」
北へ行ってノロインを探す。
鏡を見ちゃ駄目!
自分を大事に。
ドロップのお手伝い。
「たぶん、ノロインというのはバカラスやヒキコウモリ、トゥビラみたいなその……普通の人じゃない感じでいいと思う。ニャーはそういうの見たことある?」
「ニャーは見たことないニャ。ネコしか見たことないニャ」
僕はニャーを指さす。
「ニャーが嘘ついた」
「ニャーは嘘ついてないニャ! ネコしか見たことないニャ!」
ダンネが自分に指をさす。
「私キツネだから、ネコしか見てないのが勘違いになると思う」
「本当ニャ! ネコ以外も見てたニャ!」
なんだそういうことか。僕は手を下げる。逆にニャーが僕に指をさす。
「ガウルが嘘ついたら誰か分かるニャ?」
ダンネとドロップが顔を向けあって何も喋らない。
「ガウルはズルいニャ、嘘つき放題ニャ」
「僕、嘘つかないよ」
「絶対何か隠し事してるニャ! さあ言ってみるニャ!」
ニャーに言われて少し考える。でも僕は嘘ついたことがない。隠し事もしていないと思う。
「何も隠してないよ」
なぜかニャーが両耳を横にして僕をすごい睨んでくる。
「絶対何か隠し事してるニャ! さあ白状するニャ!」
「何も隠してないよ。ニャーニャーニャーニャーうるさいニャー」
「何がうるさいニャ! じゃあ言ってないことを言ってみるニャ!」
皆に言ってないこと。僕はまた考える。そういえばひとつあった。僕はドロップを指さす。
「尻尾がすごい短い」
ダンネとニャーがドロップに顔を向ける。
「そうなの?」
「う、うん」
「見せてニャ」
「見せないよ!」
ドロップの尻尾を見ようとするニャーを僕が取り押さえ皆で大使館へ歩いていく。
大使館に戻ると良い匂いがしてくる。
「あっちニャ!」
ニャーが勝手に駆けだしていく。
「待って!」
ダンネが急いで追いかける。
僕とドロップは歩いて追いかける。
「ねえガウル」
ドロップに呼ばれて僕は顔を向ける。
「なに?」
「ダンネもガウルも皆それぞれの国に帰るんでしょ?」
「なんで?」
「なんでって、違うの?」
僕は何も答えられない。この先のこと何も考えていない。
「ごめん。僕が難しいこと聞いちゃったから」
ドロップが僕を置いて先に行く。僕はドロップの後ろを歩く。
「誰だお前!」
奥からハチの声が聞こえてくる。
「シャー!」
僕たちが皆のところへ行くと、ニャーが部屋の隅に追いやられて、ハチがニャーを追い詰めていた。何かトントン聞こえるから見ると、ダンネのママが包丁で何か切っていた。ダンネがニャーの前に立つ。
「途中で会ったネコなの」
「ネコ? へえお前ネコなのか。ほらこっちにおいで」
「嫌だニャ! ニャーになにする気ニャ!」
「いや尻尾が珍しいからつい」
「ハチ!」
ポチがハチを注意してハチが悔しそうに椅子に座る。ダンネのママが包丁を手にポチとハチに振り返る。
「ねえ大人ふたり、きつねうどん並べて」
ポチとハチが素早く立ちあがって机の上に大きいお皿を並べていく。匂いに釣られた僕とニャーが近づいて匂いを嗅ぐ。ニャーが先に椅子の上に立って中身を見下ろす。
「これなんニャ?」
「きつねうどんよ、あなたたちご飯まだでしょ?」
「どうやって食べるニャ?」
「お箸でもフョークでもお好きなほうで。はい大人ふたり運んで」
ポチとハチがきつねうどんを机に並べていく。
「いけない。その……ネコの子の分を作ってないわ。まあ私の分を食べて」
「頂きますニャ!」
ニャーはフォークを手に取って、うどんを食べようとする。けれど……なんか白い紐みたいなものが滑って落ちる。
「食べられないニャ」
ダンネが棒をふたつ手にして動かす。
「お箸のほうが食べやすいと思う。こう動かすの」
ダンネが箸を動かすので僕とニャーはじっと眺める。ニャーはフォークを置いて箸を手にする。僕も箸を手にする。ダンネが使い方を教えてくれたので、僕とニャーは箸を動かす。ドロップも椅子に座って箸を手にするけど上手く動かせない。
「こう?」
僕とニャーは箸を動かし続ける。
「こうニャ」
「こう」
ドロップが一生懸命に箸を動かすけど手に馴染んでいない。
ダンネが隣で箸の使い方を教え始める。
「こうね、こう」
「難しい」
ダンネのママが僕たちの横を通り過ぎていく。
「うどん伸びちゃうから、とりあえず食べてね。私は上でお仕事の用意しておくから」
ダンネのママがいなくなった。
ニャーがうどんを掴もうとするけど、箸から紐みたいなものが滑り堕ちていく。ニャーが両耳を横にして、きつねうどんをすごい睨んでいる。そもそも、きつねうどんでなんだろう? 僕はきつねうどんを見下ろす。いなりずしの皮が浮いている。僕はそれを箸で掴んで食べる。美味しい。
「麺はつまんでちょっと手を横に動かすの。こんな感じ」
「分かったニャ! 出来たニャ!」
「そのままズルズルと食べるの。こうズルズル……と」
「ちゅるるるるう!」
「そうそう上手!」
「ポチ、ネコは物覚えが早いのか?」
「俺が知る訳ないだろ」
「僕だけ出来ない」
「ドロップはフォークでいいかも」
「うん」
僕はいなりずしの皮を飲み込む美味しかった。そのまま箸を使ってうどんを食べ始める。よく分からないけど美味しい。柔らかいので噛んですぐ飲み込める。
「おや、お帰りダンネ」
ハリスさんがやってきた。
「戻りました」
「早速だがダンネ、二日後に晩餐会を開くことになった。そこに君も出席してくれ、せっかくドギルス王国に来たんだ領主の娘として王国の重鎮たちに顔を覚えてもらう良い機会だ。帝国の大使館からも数名顔を出す。もちろん僕とハスタとダマルも出席する。ポチは後で手紙を渡すから先に共和国に帰国して手紙を渡してくれ」
ポチが箸でうどんを食べながら左手をあげる。
「王国の貴族はダンネを試してくるだろう。君は頭が良い、上手くかわしてくれて問題ない。僕が無理に開いて貰った晩餐会だ、なので相手は僕の都合に合わせたと思いこちらの譲歩を期待するだろう。こちらはそれを疑いなく素直に譲歩する。ただしほんのひとつまみ程度の譲歩だ。譲歩して足並み乱す隙を逃さすメインディッシュはこちらで頂く。これが僕の狙いで、ダンネは素直に挨拶に回ってもらって構わない。質問は?」
「実はお伝えしたいことがあって」
「なんだい?」
ダンネは今までのことと、近衛隊長のエドと話した内容をハリスに伝える。
「かなり興味深い話だね。空想のようで神話のような」
ハチが「なあ」とハリスに尋ねる。
「なんだい?」
「あんたこの話信じるのかい?」
「信じるも何も、ここに我々の知らないネコがいるじゃないか」
「ニャーだな!」
「僕ハリス。よろしくね」
「よろしくニャ!」
「ネコの種族なんて目にしたこともないし、耳にしたこともない。ましてや記憶している限り書物にも記載がなかった。そしてここでシルケの名前が出てくるのが信憑性を増している」
ドロップがハリスに顔を向ける。
「その、シルケさんという人をご存知なのですか?」
「逆に知らない人はいないだろうぐらい有名な人だよ。皆に優しくてね、いちど話したらまず忘れない。初めて彼と会ったとき、得体の知れない何かを感じてね。普通の人とはちょっと違う気配……というのかな? エドはドロップとシルケの風体が似ていると言ったらしいけど、確かに似ているけど気配がなんというか……違う。僕は曖昧な表現は好きじゃないんだけど。シルケだけは別だ、説明のしようがない。そんな彼が忽然と消えた。部屋は元々私物が全く無かったので手掛かりなしさ。それと北に行ってノロインを探す。ノロインという名前を僕は記憶していない。そしてドギルス王国より北は我々の未開の地だ。ここより北は恐らく誰も何があるか分からないだろう。過去に王国が数回探索で偵察隊を送ったが。広大すぎてすぐに帰ってきた。ダンネの口から出た話からするに呪いと魔法と別世界だ理だと。まあ普通に考えて到底理解できるものじゃない。ただしそう言うのに縁がある場所が王国図書館さ。王国の名が付いているが、運営は白薔薇協会であり貴族も多額の寄付をしている。僕は空想のお話が好きじゃない。が、明らかにそれは空想の話に聞こえ真実味も帯びている。図書館で調べてみるのもいいだろう。原初の花を杖が吸い込む。これを常人に尋ねても誰も分からないだろう。それを聞いて笑ったハチの反応は逆に正しいと言える。明日皆で図書館に行ってみようか、僕も行こう」
「良いのですか?」
「良いともさ。今の話を聞いて僕の好奇心に火が点いたよ。ダンネは嘘をつく子じゃないし、僕を騙そうとする子でもない。話し方からして伝えにくいことを上手く伝えたことには感謝してるよ。しかしこうも話が大きいと晩餐会を入れたのは失敗だったかもな。ごめんね、どうしてもダンネを皆に紹介したくてね。僕の息子より先に紹介したくなかったんだよ自慢の息子なのだけど」
「私は大丈夫です」
「そう言ってくれてありがたいよ。図書館でドロップの手掛かりが見つかるといいね」
ハリスの笑顔にドロップの表情が少し明るくなる。
「ところでガウル。ドラスは君のママとパパは知っているけど教えてくれなかったらしいね」
「うん」
「これは何かと面白くなりそうだ」
「ハリスは僕のお母さんとお父さん知ってるの?」
「いや知らないよ」
ハリスは嘘をういていない。
「とりあえず疲れたでしょ、お風呂でも入って休むといい」




