第24話 近衛隊長エド
僕たちは服屋の人にお礼を言って、僕はニャーの頬を引っぱたいて起こす。城に向かう途中でニャーがずっと怒っている。うるさい。
「ニャーが窓際でぬくぬく眠っている頬を引っぱたくのはやっぱりおかしいニャ! 暴力ニャ! 暴力反対ニャ!」
「ごめん。次から気をつけるよ」
「前から気をつけるニャ! ところでニャーはお腹空いたニャ」
ダンネが少し遠くに見えるお城を指さす。
「ご飯はまだ。今度はあそこに行くの。そこに近衛隊長にドロップのこと尋ねる」
「いつになったらご飯ニャ?」
「お城で用事を済ませたら大使館に戻ってご飯」
「やっとご飯ニャ!」
ドロップが両手を杖にニャーの横に並ぶ。
「ニャーは最後にご飯食べたのいつ?」
「分からないニャ! ここの世界のこと良く知らないニャ! お腹空いてるからそろそろご飯ニャ」
「そうなんだ」
「そうなのニャ」
ダンネが歩きながら振り返る。
「国は大きいし街は広いし迷子にならないでね」
ニャーが僕を指さす。
「ガウルしか迷子にならないニャ」
「僕?」
「そうニャ! ニャーがいなかったらガウルはずっと迷子だったニャ!」
「ニャーニャーニャーニャーうるさいニャー」
「何がうるさいニャ! それがちゃんと道標になってあげたニャーに向ける言葉かニャ! ガウルは絶対に許さないニャ!」
ニャーが両耳を横にして僕を睨む。僕はちょっと唸り声をあげる。
「唸ったニャ! いま唸ったニャ!」
「やかましい!」
ダンネに怒られてしまった。
「怒られたニャ」
「怒られた」
僕たちはダンネの道案内で城にたどり着く。大きい城だ。変な服を着ている人が棒を持っている。確か、甲冑を着て槍を持っている。ダンネがそのひとりに近づくので僕たち皆で近づく。甲冑の人が僕たちに気づいた。
「どうした子供たち」
ダンネがドロップを前に出す。
「この子が記憶喪失なの。白薔薇協会で尋ねたら、近衛隊長に聞いたほうが早いって」
「白薔薇協会か。なら案内してあげるよ。付いておいで」
甲冑の人が先に行くので僕たちはお城の中に入っていく。天井が高いのでダンネ以外足を止めて上を見上げる。僕は黙って見上げる。
「広いね」
「無駄に広いニャ」
「付いてきて!」
ダンネに怒られた僕たちはすぐに追いかける。大きい階段に赤い敷物がある。僕たちはそれを見ながら階段を歩いていく。ドロップが足を取られて転びそうになるのを、ニャーが咄嗟に手を伸ばして支える。
「ありがとう」
「なんか皆危ない気配がするニャ。ちゃんと前見て歩くニャ」
「うん、気をつけるよ」
僕たちはダンネを追っていく。階段を上がって、曲がって、奥に行って、曲がって。また階段を昇って。もう僕は帰り道が分からなくなった。さっきまでと違って細い道を歩いていく。
「落ち着くんだエド! 君は皆から信頼されている! ちゃんと帝国と共和国から信頼を得ているじゃないか!」
「何が信頼だ! 仕事が山積みの状態でなんで俺まで晩餐会に出なくちゃいけないんだ! 貧民街出身の俺がどれだけ貴族連中に嫌われているか分かるか!」
廊下の向こうで誰かの喧嘩している声が聞こえてくる。
甲冑の人が足を止めて僕たちに振り返る。
「いつものことだから気にしなくていいよ。と言う訳で隊長はあそこの部屋にいる。僕は門の守衛があるから戻るよ。帰るときは隊長に言えば案内してくれるから」
「ありがとうございます」
ダンネがお礼を言って、甲冑の人が来た道を戻っていく。ダンネが先に行くので僕たちは追いかける。
「君はいまドギルス王国にいなくちゃいけない人材なんだ! 頑張れエド頑張るんだ!」
「俺がいま三カ国の信頼を得てどうなったか分かるか? 国内の仕事に国外の要望が何故か俺に来るんだ! なんの為に二国の大使を設けたと思ってるんだ! 俺の記憶が正しければドラスお前は帝国の大使だよな! 俺の仕事を減らそうとは思わないのか?」
「しょうがないじゃないか。一部は直接渡してと頼まれているのだから。それだけエドがしっかり信頼されているということさ」
「そうか俺は信頼されているのか」
僕たちは扉の前についてダンネがノックする。
「はーい」
声が聞こえて少しすると扉が開かれる。笑顔を見せる、垂れ耳の男の人が立っていた。
「わあ、珍しい。子供がいっぱいだ」
「あなたが近衛隊長ですか?」
ダンネが尋ねて垂れ耳の男は首を横に振る。
「違うよ、僕は帝国大使のドラス。あっちの椅子に座ってギャーギャー騒いでいるのが近衛隊長のエドだよ」
ドラスが紙がいっぱい置いてある机を指さす。その奥で頭を抱えていた垂れ耳の人がエドなのか。エドは顔を上げると笑顔を見せる。
「おや子供とは珍しい。俺に何か用かい?」
ダンネが部屋に入るので僕たちも部屋に入る。
「ん?」
ドラスがニャーを眺めている。
「こんにちは。私はダンネ」
「そうかそうか君がダンネか。おっと失礼、紙が邪魔だね」
エドが机の上にある紙の束を全て横に振り落とす。
「おい! 大事な書状もあるんだぞ!」
ドラスが慌てて紙を拾い集める。そんなドラスをエドが真顔で見下ろしている。
「あースッキリした。ところで僕にどんな用なんだい? 子供の来訪者なんて初めてだ」
ダンネがドロップを前に出す。
「この子、ドロップが記憶喪失なの。それで着ている服が白薔薇協会だったから尋ねたら、行方不明とか問題は全部近衛隊長に集まるからそこで何か分かるかもって」
「記憶喪失の子供か。ドラス、該当はいたか?」
ドラスが紙を拾う手を止める。
「子供の行方不明者は届け出ないなあ。まあ中には喧嘩して家出した息子が帰ってこないとかあるけど。記憶喪失が確かなら届け出は必ずあるはず。白薔薇協会の行方不明者は届け出がひとつ。でも確か成人だったはず」
僕たちはドロップを見る。ドロップは子供だ。
「思ったより大事だな。ドラス、悪いがそこからどうでもいい仕事は省いてくれ」
「これでも省いたんだけど!」
「子供相手なら帝国も共和国も口は挟まんさ……ん?」
エドが椅子から立ちあがってドロップに近づく。しゃがんでドロップの顔を間近に見る。
ドロップが両手に杖を持って下がる。
「動くな」
ドロップは足を止める。
「おいおい相手は子供だぞ」
「シルケ。という名に聞き覚えはあるか?」
ドロップが首を横に振る。
「似てるな。偶然か?」
エドが紙を纏めて机に置く。
ダンネが手をあげる。
「シルケって誰ですか?」
「シルケという名の男が、白薔薇協会から行方不明の届け出を出されている男だ。そうだ……ドラス。その男も記憶喪失と言っていた。何も覚えていないと笑顔で言っていた」
ドラスは紙を纏めて机に置く。
「なんか怪しい話になってきたね」
「俺がシルケと会ったのはったの一度だ。話の内容が特徴的で覚えていた」
エドが咄嗟にドロップの杖を掴む。ドロップが杖を必死に握り怯えているので、僕はドロップに抱き着いてエドから引き離そうとする。エドが慌てて杖から手を離す。
「すまん! つい手が出た! シルケも同じような杖を持っていた……なんだ? 俺自身すごい気持ち悪い状態にある。シルケは子供じゃない成人だ。この子は偶然が多すぎる、シルケに風体が似すぎている」
「偶然が三つ重なったらそれは必然ニャ」
ニャーが声を出したので皆でニャーを見る。
「ニャットがそう言ってたニャ」
「なあひとつ聞いていいか?」
エドがニャーを指さす。
「こいつは誰だ?」
「ニャーはニャーだな!」
「イヌでもなくオオカミでもなくキツネでもない気がするのだが」
「ニャーはネコだニャ!」
エドとドラスが同時に「ネコ?」と声を出す。
「テレポーニャの事故で違う世界に来たニャ」
エドが頭を抱える。
「ドラス、ついに俺は仕事のしすぎで頭がおかしくなったのかもしれない」
「安心するんだエド。これは現実だ」
「ニャーのことは気にしなくていいニャ。勝手に来たし勝手に帰るニャ」
「そうか……無事に帰れるといいな。さて話を戻すぞ! その、ニャーの言ったことは正しい。この子、ドロップはシルケにあらゆるところが似ている。気持ち悪いほどにだ、いや! ドロップが気持ち悪いということじゃない。何か覚えていることや手掛かりはないか?」
ダンネが「うーん」と声を漏らす。
「なんだ? あるのか?」
「あるにはあるんですけど。ガウルや私たちが見たことって言ってもいいのかな?」
ダンネが珍しく僕たちに相談してきた。
「いまガウルと言ったか?」
ドラスが僕を見ている。
「僕ガウルだよ」
「へえ」
ドラスが僕に近づいてしゃがむ。そして僕の顔をすごい近くで睨んでくる。
そのドラスがエドが見下ろしている。
「何してるんだ?」
「いやちょっとね。えい」
ドラスが両手で僕の顔を掴む。咄嗟に掴まれた僕は逃げようとして暴れる。けどドラスの力が強いので逃げられない。ドラスが僕の口に強引に指を突っ込んで口を開かせる。
「はにゃせ!」
「うん。すごい牙だね」
ドラスの手を離そうとするけど力強すぎて引き剥がせない! ふとドラスが両手を離す。僕は唸り声をあげながらドロップに抱き着く。
「僕に抱き着かないでよ!」
ドラスは立ち上がって僕に指をさす。
「このガウル、もしかして手を二回叩いたらついてくるとか、ご飯のときは無言で食べ続けるとかしてる?」
ダンネとドロップが頷く。ドラスがすごい不敵な笑みを見せる。
「これは相当話がデカくなるぞお」
ダンネがまた手をあげる。
「ガウルを知っているの?」
ドラスがダンネに笑顔を見せる。
「知らないよ」
ドラスが嘘をついた。なので僕はドロップから手を伸ばしてダンネの袖を引っ張る。ドラスは僕を知っている。けど僕はドラスを知らない。よく分からない。
「そういえばガウルやダンネが見たこと言ってごらん」
「えっと」
ダンネが今までのことを説明し始める。説明し終わった頃にはエドとドラスは無表情で瞬きをしているだけだった。
「ドラス。やっぱり俺は仕事のしすぎかもしれない」
「僕も仕事のしすぎかもしれない」
「本当だもん!」
ダンネが大声を出してエドが両手を振って、ドラスが笑う。
「悪かった! ただ……非常に難しい話でわある」
ドラスが僕に視線を向けた、僕はそれに気づいて顔を向ける。
「ガウル。今の話に嘘はないね」
「ないよ。でもドラスは嘘をついた」
「僕が何を嘘ついたんだい?」
「ドラスは僕が誰か分かっている」
「いやすごいね。ガウルの前じゃ嘘つけないよ」
ダンネが力強く手をあげる。
「なんでガウルを知ってるのに知らない振りをしたんですか!」
「そりゃあ、あとのお楽しみにしておこうと思ってね。僕は君のお母さんとお父さんを知ってるんだ。でもここで話すと、お父さんに叱られる気がする。君のお父さんは意外にそういう驚きを楽しみにする人でね。直接あって確かめるといいさ」
「ドラス、俺はガウルの父親に会ったことあるか?」
「いちど、だけね」
「なるほどな。ドラス、全ての仕事を余所に回せ。ドロップを知る人の捜索、それとシルケの捜索をいまいちど始める。たまにはこちらから頭を下げるか、帝国と共和国にも動いてもらう」
「いま聞いた不思議なことも全部?」
「そうだ。帝国と共和国は馬鹿じゃない。一瞬混乱するがすぐに動くだろう。俺が直に手紙を書く、ダマルをここに呼べ」
「おやおや仕事熱心で」
ダンネがまた手をあげる。
「なんだ?」
「皆晩餐会で会うと思います!」
ドラスがお腹を抱えて笑い、エドが両手で頭を抱える。




