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ガウル  作者: キヌミタロ
第3章 うるさい声
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第21話 白薔薇協会大聖堂

 僕たちは大使館の外に出る。ポチとハチが僕を見下ろしている。

「じゃあ白薔薇協会に行きましょう。付いてきて」

 ダンネが歩き始め僕とドロップはついて行く。

「待てーい」

 僕たちが振り返ると、ハチは眼を瞑って両腕を組んでいる。

「ガウル。俺はお前が白薔薇協会までたどり着けないと思う」

「どうして?」

「さあダンネ、白薔薇協会とはどんなところだ?」

「人を優しく愛しなさいという信念の下に慈善活動をしているドギルス王国の宗教。その信徒は多く白薔薇協会は世界的に有名で、一部を外部の人にも門を開いており毎日……大勢の人々がいっぱいお祈りに来る」

「そうだ。いま白薔薇協会がどんなところか初めて知った」

「いま知ったのかよ」

「ただ俺でも分かることがある。そう、あそこはかなり人が多い! そこにガウルを向かわせてみろ! どうなると思う?」

 ダンネが手をあげる。

「大変なことになる!」

「そうだ! 大変なことになる! 俺は付き添ってやりたいが大使館にある酒を飲みたい!」

「飲みたいだけだろ」

「よく考えてみろポチ! ガウルは人混みに慣れなくてはいけない!」

「あー」

 僕はポチと目を合わせる。

「つまり、三人だけで行って来い」

「この馬鹿はともかく、ハチの言ってることも分かる。ガウル、お前が人混み苦手なのは分かっている。そのうちに慣れる、ちょうどいいや三人で行って来い。集合場所はまあこの大使館でいいだろう。ダンネ、後は頼んだぞ」

「分かった!」

 ポチとハチが大使館に戻っていく。

「さっきすげえ酒見つけたんだよ。あれは絶対に美味いぞ」

「下手に高い酒は飲むなよ」

「じゃあ私たちは白薔薇協会に行こう」

 ダンネが歩いて行くので僕とドロップはついて行く。空を見上げると家が高すぎてちょっと嫌だ。それに歩けば歩くほど人が増えていく、声が増えて行く。すごい大きい通りに来ると、うるさすぎて僕は人のいないほうへひとりで歩いていく。あっちのほうが静かだ。

「あ! ダンネ! ガウルが違う方向へ歩いていく!」

 ダンネが駆けてきて僕の腕を掴む!

「そっちじゃないでしょ!」

「だってうるさいんだもん」

「こっちに来なさい!」

 ダンネが僕を引っ張るけど、僕はうるさい方向に行きたい無いからその場から動かない。ダンネは一生懸命を僕を引っ張っている。

「日が暮れちゃうでしょ!」

「でもあっちの方が静かだよ」

 僕は歩きはじめる。そのままダンネを引きずっていく。

「助けてドロップ!」

 ドロップもこっちに来て僕を片手で引っ張る。でも僕は静かなほうへ行きたいので歩きはじめる。ふたりを引きずりながら静かな方へ歩いていく。

「これはもう諦めるしかない! 止まってガウル! 止まれえ!」

 ダンネがうるさいので僕は止まる。

「なに?」

「これはもう私がガウルを背負っていくしかない。はい乗って!」

 ダンネがしゃがむので僕はダンネの背に乗る。ダンネは軽々と立ちあがる。

「これで勝手に歩かないで済む」

 ドロップが僕を見上げる。

「ダンネって力持ちだね」

「このぐらいなら軽いほうだと思う」

 ダンネが歩き始めて、僕はダンネの肩に両手を置く。どんどん人の声と気配が大きくなっていく。もう道の先ではたくさんの人が歩いている。僕は必死に眼を瞑る。あっちこっちから声が聞こえる。うるさい。

「ガウル大丈夫かな?」

「そんなに駄目?」

「すごい眼を瞑ってる。可愛そうだからガウルだけ大使館に置いてきたら?」

「でもポチが言うには慣れないといけないし」

「確かに言ってたね」

「この大通りの先に白薔薇協会の大聖堂があるの」

 僕は人の声と気配を我慢しながら眼を瞑り続ける。

「やっと白薔薇協会にたどり着いた」

「大きいね」

「王国で城の次にデカい建物なの。建国時には既に白薔薇協会の信徒が多くいたから。実はお城よりこっちの大聖堂のほうが重要視されているの。ところでガウルはどうなってるの?」

「ずっと眼を瞑っている」

「いい加減降りて眼を開けて」

 ダンネに降ろされて僕はそっと目を開ける。確かにさっきより人の声も気配も減った。そっと眼を開けると入り口の扉が大きく開かれていて、見上げると原初の花みたいな白い花の画があって建物が大きい。僕は原初の花を指さす。

「あれ原初の花?」

「たぶん白い薔薇だと思う。白薔薇協会だし。早速ドロップについて尋ねよう」

 ダンネが中に入っていく。

「入っていいの?」

「礼拝堂までは誰でも入っていいの、それより奥は駄目」

 僕とドロップはダンネを追う。中は天井がすごい高い。長い椅子がいくつも置いてあって、多くの人が座っているけど静かだ。ダンネが入り口に立っている、ドロップと同じ服を着ている女の人に近づいていく。垂れ耳だからイヌの人だ。女の人がしゃがんでダンネに微笑む。

「何かご用?」

 ダンネがドロップ引っ張ってを前に出す。

「この子、記憶喪失なの。着ている服が白薔薇協会だから何か分かるかなと思って」

 女の人が困ったような顔をする。

「それは大変ね。でも確かに同じ服ね。ここで待っててもらえる?」

「わかりました」

 女の人が立ちあがって奥へ行く。僕は椅子に座っている人たちを見る。

「皆黙って何してるの?」

「お祈りやお願いごとをしてるの。あとガウル、ここでは静かにするの静かに」

「分かった静かにする」

 僕は音に気をつける。音を出さないように気をつけていると。変な音を感じ始める。なんかヒューヒュー音がする。僕はダンネの袖を引っ張る。

「なに?」

「なんかヒューヒュー聞こえる」

「ヒューヒュー? 私は聞こえないけど」

「僕も聞こえないよ」

 皆で辺りを見渡す。やっぱりヒューヒュー聞こえる。

「やっぱり聞こえる」

「窓かな? たまに隙間が空いていると風が通るときに鳴るの」

「へえ、そうなんだ」

 風の音なのか。奥から女の人が男の人を連れて戻って来た。

「こんにちは。君が記憶喪失の子かい?」

「はい」

「これは困ったね。何か手掛かりでもあればいいのだが」

 男の人が杖を見る。

「その杖はなんだい?」

 ドロップは杖を両手で抱える。

「原初の花を吸う杖」

 僕が説明すると皆が僕を見る。

「原初の花? 聞いたことないなあ。あるかい?」

 男の人が女の人に聞いて、女の人が首を横に振る。ふたりともドロップに顔を向ける。

「この子が記憶喪失なら、やはりどなたかお探しになってますよね?」

「恐らく。しかし困った。確かに着ている服は白薔薇協会の服装なのだが、今のところ子供の相談はこちらに来ていないな。もしかすると、近衛兵に尋ねてみるのもいいかもしれない」

「城の近衛兵ですか?」

「王国はいま王政なのだが、なにぶん国王陛下がお若い。だからエド近衛隊長が実験を握っている。事件の類は全て近衛に回されてから軍に降りるという流れさ。おっと! これは失礼した、少々話がすぎてしまった」

 ダンネが手をあげる。

「城の近衛兵に確認を取ってきます」

「白薔薇協会からと伝えてくれ、そうすればエド近衛隊長にすぐ会えるだろう。あの方はこの王国に詳しいからね」

「ありがとうございます。じゃあ今から皆で」

 急に大きな音が鳴る。僕は驚いてその場から走って外へ逃げだす! すごい大きな音が鳴り続けている。

「待ってガウル! あれは鐘の音! 鐘の音なの!」

 僕が走り続けていると人がすごい多い道に出てしまう。慌てて静かなほうへ走る。静かなほうへ、静かなほうへ走り続ける。そうしてやっと静かなところに着いた。振り返るとダンネとドロップの姿はない。しかも知らない場所だ。ダンネのところに戻ろうとしても道が分からない。帰れなくなっちゃった。どっちから来たのかも分からない。なのでとりあえず歩こう。どこを見ても見覚えがない。静かなほうへ走り続けたから人もいない。僕は何故かひとりでいるときのほうが落ち着ける。なんでだろう? ダンネは強くて勝てないから嫌いだし、ドロップはドロップだから思うところはない。僕はひとりが好きなのかな? つい空を見上げて首を傾げる。

 何かゴトゴトと音が聞こえた。顔向けると道に置いてある樽が動いている。すると樽の蓋が上がって中から子供が出てきた。

「出っ樽ニャー」

 黒い耳に爽やかな紅い眼、黒い髪に着ている服は真っ黒だ。一瞬、トゥビラを思い出した。

「誰もいないニャ。もっ樽ニャー」

 と言いながら樽の中へ戻って行った。するとまた「出っ樽ニャー」と言いながら出てきた。何をしているのだろう? そして僕と眼が合う。

「ここどこニャ?」

 僕は首を傾げる。

「王国?」

 紅い眼の子供は辺りを見渡す。

「ここどこニャ! 知らないところニャ! ニャットもニャリスもいないにゃ!」

 紅い眼の子供が樽に入ったり出たりしている。

「事故ニャ! これは完全に事故ニャ!」

 どこからともなく「うるさい!」という声が聞こえてきた。

「ニャ! 怒られてしまったニャ! しょうがないニャ、お迎え来るまで待つことにするニャ」

 紅い眼の子供が樽から完全に出てくる。黒い尻尾が細い。僕は首を傾げる。

「君は誰?」

「ニャーはニャーだな」

「ニャー」

「そうだニャ。ニャーはニャーだな」

「ニャーワニャーダナ?」

「違うニャ! ニャーだけニャ! ニャー!」

「ニャー」

「そうだニャ! ニャーだけニャ! ところで誰にゃ?」

「僕がガウル」

「シャー!」

 ニャーが急に両耳を横にして僕を睨みながら牙を見せる。威嚇されてしまった。怖いから僕はその場から離れていく。とりあえずダンネのところに戻ろう。でもダンネとドロップがどこにいるのか分からない。振り返るとニャーがついて来ていた。ニャーは道を知っているかもしれない。聞いてみよう。

「ダンネとドロップがどこにいるか分かる?」

「分かる訳ないニャ! 誰ニャ!」

「キツネとイヌの子供」

「ニャーはネコだニャ! ネコ以外知らないニャ!」

「そうなんだ」

「そうだニャ! テレポーニャの実験で事故って変な世界に来たニャ! ニャーは早く帰りたいニャ! 学食は時間が決まってるニャ! このままじゃ餓死してしまうニャ! ガウルはガウルニャ! 責任とってニャ!」

「僕が?」

「そうニャ! ガウルはガウルニャ!」

 ニャーが何を言っているのかよく分からない。

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