第1話 流星の子
気づけば木の枝で眠っていた。空は夕焼けになり周りは暗くなっている。急いで帰らないと母さんに怒られる。急いで枝から飛び降りて駆け足で森を駆ける。
「……?」
誰かに呼ばれた? 足を止めて周りを見ても誰もいない。けど今確かに誰かに呼ばれた気がした。でも誰の気配も感じない。もしかしてお化け! 母さんは夜になるとお化けが出ると言っていた! 早く急いで帰らなくちゃ!
駆けようとした瞬間、眩しい光に目を瞑る。空を見上げると無数の流れ星が空を流れていた。空いっぱいの流れ星、光で辺りは暗くなる。流れ星は見たことあるけど、怖いほどいっぱい流れている。その中のひとつが僕に向かって落ちてくる。僕は咄嗟に木陰に隠れる。眩しい光が辺りを包んで僕は身を隠し、その光が遠のくのを感じて顔を出す。
「ガウル」
僕は咄嗟に耳を向け流れ星が落ちた先を眺める。いま絶対に呼ばれた。光は森の先、小山の山頂で光輝いている。あそこは大きな枯れた古い木が立っている場所だ。村に戻って誰か呼んでこようかな? でも光はどんどん小さくなっていく。もし光が消えたらどうなるんだろう? 僕は迷いながら空を見上げる。いっぱいの流れ星は消え空はまだ夕焼けだ。暗くならないうちに行こう。僕は山頂目掛けて全力で駆ける。落ちた流れ星の光を真っすぐに見据え森を駆け続ける。誰かが僕を呼んだ気がしたんだ、誰か困ってるかもしれない。坂道を駆けのぼり枯れた古い木が見えてくる。光は既に消えようとしている。近づけば近づくほど光の中に倒れている人影が見えてくる。
僕と変わらない子供、頭の上にふたつの垂れ耳があって、真っ白な服を着てちょっと大きな杖が落ちている。そっと近づいて揺すって見るけど反応がない。もしかして死んでる? どうしよう? やっぱり村に戻って医者のおじさんを呼んできたほうが。
急に熱さを感じる。視界が赤暗くなる。
「え?」
振り返れば周りは炎に包まれていた。木も草も全部。何が起こったのかまったく分からない。突然、誰かの気配を感じた。枯れた古い木の幹、隙間から腕が伸びている。真っ黒な腕だ。その腕は僕に真っすぐ手を伸ばしている。絶対お化けの手だ! 僕は恐がりつつ何故か震える手を伸ばす。こんな手握っちゃいけないんだ! なのに、
その手を取れ!
という感情も湧いてくる。僕な泣きそうになりながら黒い手を握ってしまう。ちょっと痺れたと思ったらすごい痛みが走る。
僕は寝てたのか? 目を覚まし思い出して驚いた! すごい変な夢を見た! きっと眠ってしまったんだろう。辺りを見るとすぐ傍で誰か倒れている。真っ白な服を着た子供だ。
「うわ!」
つい驚いて声を上げる。夢じゃなかった? 僕は何がなんだかさっぱり分からない。とりあえず両手で揺すってみる。
「うん……」
声が漏れた。どうやら無事らしい、落ちた流れ星に当たったのか? 怪我をしてるかもしれないから急いで村に連れて行こう。子供を背おって変な杖も拾っていく。ちょっと大きくて掴みにくい。僕は急いで村へ駆ける。坂道を下って森に入る。森を駆け抜ければ村へ着く。なんか周囲から気配を感じる、きっと幽霊が出たんだ! 僕は恐いので全力で走る! 村の小さな明かりが徐々に見え始める。小さな家が点々としているひとつが僕の家。古い木の家が僕の家で急いで扉を開けて中に入って閉める。
母さんが立っていた。コップを手に何か飲みながらこっちを見ている。
「その子誰?」
「流れ星が当たったんだ」
「え?」
「さっきすごい流れ星が、それで流れ星がこの子に当たったんだ!」
「流れ星? まあいいわ、とりあえずベッドに寝かせて」
家の隅にある僕のベッドに子供を寝かせる。
「この杖は?」
母さんは僕から杖を取り上げる。
「この子の横に落ちてた」
「そう。閉まっておくわね」
「うん」
母さんは杖を持っていく。僕は子供に怪我がないか眺める。無さそうだ。母さんが戻ってきて子供の額に手を当てる。
「熱があるわね。ところであなたどこ行ってたの?」
「母さんが蟻になりなさいと言うから蟻を見てた。でも僕は蟻じゃないから蟻になれない」
「そうね。まあいいわ、お医者さんのところに言って熱冷ましを貰ってきて」
「わかった」
僕は家を出て急いでお医者さんのところへ駆ける。畑にいる虫が鳴き始め、気づけば外は真っ暗だ。でも村の中でお化けは出ない! なので幽霊は恐くない! お医者さんの家に着くと扉を叩く。
「はあい」
声がしたけど扉が開かない。少し待ってると扉がゆっくりと開く。医者のおじさんがパジャマ姿で出てくる。
「ガウルか、どうしたんだい?」
「流れ星に子供が当たって倒れてたから連れてきたんだ。そしたら熱が出てるから母さんが熱冷ましを貰ってきなさいって」
「流れ星……あー熱冷ましだな。ちょっと待ってなさい」
おじさんはゆっくりと扉を閉める。僕は待つ。虫の鳴き声を聞きながら扉を見ながら待つ。扉がゆっくりと開くとおじさんが小瓶をひとつ僕に差し出す。
「ほら」
「ありがとう」
僕は熱冷ましを受け取って家に帰る。家に入ると母さんはまた何か飲んでいた。
「持ってきた」
「じゃあ塗ってあげて」
「うん」
僕は服の下に熱冷ましの小瓶を突っ込んで胸に零す。それを手で塗り塗りする。本当は飲ませたほうがいいんだけど、飲めない場合は塗り薬にもなる。すごい便利。
塗り終わった小瓶は川で洗って後で医者のおじさんに返す。
「うーん」
ふと子供が寝返りをうった。目を覚ますかもしれない。子供はゆっくりと目を開ける。僕と目が合った子供は数回瞬きをしてゆっくりと起き上がる。
「母さん起きた」
「うわああああああああああああ!」
急に叫ばれて僕は驚く。
大きな叫び声上げられた僕は部屋中を歩き回る。大きな声を出された! 僕は何か悪いことをしたのか!
「ガウル、ガウル」
一体何がいけなかったのだろう! 僕は何もしてないのに!
「ガウル」
母さんに三回呼ばれた。母さんが三回呼んだらその場から離れなくてわいけない! なので僕は家を飛び出して村を駆ける。辺りは真っ暗で僕は村の周りを駆け回る。ふと、ちょっと遠くの草むらが揺れる。きっと幽霊だ! 僕は怖いのでその場を急いで離れて家に戻る。
母さんが僕へ指をさす。
「あの子に大きな音は絶対に駄目」
「わ、わかりました」
真っ白な服を着た子供がベッドの隅で僕を見ている。僕はゆっくりと子供に近づいていく。大変だ、やっぱり頭の上の耳が折れている。
「耳が折れてる」
「そういう耳になのよ。イヌの子よ」
「いぬ?」
「そうイヌ。私とあなたはオオカミ」
僕はイヌの子供、その耳を見る。やっぱり折れている。しかも尻尾がない。
「尻尾がない」
「イヌは尻尾が短い人もいるのよ」
そうなのか……イヌの子供を見て僕は思う。どこの子だろう? イヌなんて初めて見るし、真っ白な服も見たことがない。
「誰?」
尋ねてもイヌの子供は目を逸らす。目を逸らされた。
「僕……」
何か言おうとして黙った。
「この子、記憶喪失なのよ」
「きおく?」
「記憶喪失。何も覚えていないの」
「流れ星に当たったから?」
「たぶんそうね」
やっぱりだ! この子は流れ星に当たって怪我をしたんだ! そのせいで何も覚えてないんだ!
「枯れた古い木のところで何してたの?」
僕とイヌの子供は見つめ合う。
「僕……何も覚えてないんだ」
そうだ何も覚えていないんだった。
「名前も分からないのは困ったわね。どうしようかしら?」
「そうだ!」
いきなりイヌの子供が急に大声を上げる!
「あ、ごめん! 僕何か持っていませんでしたか?」
「杖は落ちてたわよ。今持ってきてあげる」
母さんが壁に立てかけてある杖を手にする。僕には大きいけど母さんにはちょうどいい大きさの杖だ。何故か母さんが少し怖い顔をしている。
「はい」
イヌの子供は杖を受け取ると大事に抱きしめる。よっぽど大事な杖なのかな?
「その杖なに?」
「これは……その……杖を持っていたことだけは覚えてるんだ」
「覚えなさいガウル。この子はいま何も思い出せないの」
そうだった、記憶喪失だった。
「とりあえずあなたはそのまま寝なさい」
「わかりました」
僕のベッドが取られてしまった。
「ねえ僕のベッド」
「あなたは私と寝るの」
僕は母さんに抱きかかえられる。
「ねえ僕のベッド」
「うるさい」
母さんに怒られた。
起きた。もう外は明るい、鳥の鳴き声も聞こえる。大きな布をどかしてイヌの子供を見に行く。イヌの子供は布にくるまってまだ寝ている。大事そうに抱きしめている杖の先が光っている。そっと光ってはそっと消えている。変な杖だ。僕は手を伸ばして杖を取ろうとする。急にイヌの子供が目をさまして僕に目を向ける。
「なに?」
「杖が光ってる」
「え?」
いつの間にか杖は光らなくなっていた。イヌの子供は起きて杖を軽く振ってみる。けど何も起きない。そんなことはどうでもいいんだ。ここは僕のベッドだ。
「どいて」
「え?」
「ここは僕のベッドだ」
「あ、ごめん」
犬の子供は僕のベッドから降りる。僕はいそいで布を被ってベッドに倒れる。僕じゃない臭いがある! ここは僕のベッドだ! 僕は一心不乱にベッドで寝がえりをうつ。
「おはよう。具合はどう?」
「だ、大丈夫です。それより……」
「あまり気にしなくていいわ、縄張り争いよ」
「縄張り?」
「ちょっと特殊なのよ気にしなくていいわ。あとまだ大抵のことは理解出来ないから、何かと説明しても理解できないわ。長い説明はしないことね」
「えっと……はい?」
手を叩く音が二回聞こえた。
手を叩く音が二回聞こえた! 母さんに呼ばれた! 僕は布を被ったまま立ち上がる。
「あと非常時には手を二回叩いてね。そうすると飛んでくるから」
「わかり……ました?」
「それじゃあ朝はパン」
パンだ! 朝ごはんだ! 僕は尻尾を振り回して椅子の上に立つ。
「座りなさい」
母さんに言われて椅子に座る。
「はい」
丸っこい固いパンだ。僕はそのパンにかじりつく。おいしい。
「あとこの子が食べている物は絶対に取らないでね。噛まれるから」
「噛んでくるんですか?」
「そんなに牙はまだ鋭くないけど。噛まれると痛いから」
「気をつけます。このパン固いですね」
「固いのよ、頑張って」
「は、はい。すごい、よく食べれるね」
「食事中話しかけても聞いてないわ」
「そうなんですか?」
「ええそうよ、今は本能に従ってパンを食べている状態」
「へえ……」
最後のパン切れを飲み込む。美味しかった。イヌの子供を見るとまだパンが丸々残っている。
「食べないの?」
「え?」
「上げちゃ駄目」
母さんがイヌの子供に言う。僕はパンが欲しくてパンを眺める。
「いい? 頑張って食べなさい。基本この子に自分の食べ物を与えてわいけない」
イヌの子供は一生懸命に固いパンを食べ始める。僕はそれが欲しくとじっとパンを眺める。




