引き合わせ
死体回収業業務は真似っこさん
⻆谷 春那
CASEK.1
真似で救われる人生
引き合わせ
「…本当に、連れ戻って来てくれたの。」
「凄く、苦労した。」
【怪人】が女爵邸に着き、老婆が令嬢を呼び出した時。
令嬢は、酷く動揺した。
大変、時間が経っていたのだ。
最初に、【怪人】と出会ってから。
此処からマッチからまで、大層な日数は入用ではないはずである。
なのに、一週間以上、戻って来なかったのだ。
「騙されていたのでは?」
と、疑い始めた頃合いだった。
袋を開けようとする令嬢を、【怪人】は制止する。
「…ねぇ、一つ小言を言う。」
「…そんなに、酷いの?」
「いや?綺麗。
見ても、何の問題も無い、はず。
たださ?」
そう言って、何時ぞやの羊皮紙を床に投げ捨てる。
「レイラ・ワーガーネスは、見ない方が良いかもね?」
「あ。」
その動作。
表情にはあまり変化は無いが、明らかに怒っているようである。
「世間一般では、狂った方がお前になっているらしいな?
『ドレミア=ハイト・ワーガーネス』?」
「何を言っているのかしら?
私は、『レイラ・ワーガーネス』よ?」
「惚ける気?
お前がそんな事してるから。
妹は余計、病んだんじゃないの?」
「…ねぇ。何処で、気付いたの?」
「お前が、『妹』って言っている時は、俺の言語能力も足りていなかったし、気にしていなかった。
第一、お前たちの事情なんて、俺は知らない。
…だが。俺は真似をする過程上、その死体を模倣した。
記憶をコピーした。
…第一、お前の婚約者ならしいじゃないか?」
「…だったら、何?」
「お前、どうしてこんな事をしている?
お前のその所業が、『ワーガーネス女爵』を余計苦しめているのは、分かっているだろう?」
「…ねぇ。どうしてそんなに、気にするのかしら?
貴方には、何の問題も無いじゃない。」
「…言わなきゃ、その人。
渡してもらえなさそうね。
しいて言えば…そうね。
…この世界の、未来の為、かしら?」
「…綺麗事か?
俺を騙して居ていたくせに?」
「貴方だけじゃない。
ローリー以外の、全ての者。
…レイラも、含めて、ね?
貴方、此の国の情勢は知っているのかしら?」
「…知った上で問う。
そこまでして、お前に何の価値がある?
お前は何のために、【俺達】に縋っている?
…その答えを聴けるまで。
俺は、役目を放棄する。」
そうすると令嬢は、困ったような顔を見せる。
困惑でも、焦燥でもない。
ただ「打つ手なし」と、言わんばかりに。
「…困ったわね。
さっき話したことが、全てよ?
私は、彼女に。姉に。
世界の希望を、見出している。
彼女には、どうにか、立ち直ってもらわなきゃいけない。
…私が居なくなっても。」
「嘘つき。」
「本当なのに…。
姉は昔、著作の中でこう書いたのよ?
『生きていれば、何とかなる。
ただ戦争は、生きている事を許してはくれない。
だから戦争を、許しちゃいけない』…って。」
何も見ず、暗唱する。
そして、微笑む。
少し、怖い笑みであった。
悪戯っぽさに近いものはあったが、もっと違う何か。
悲しい、何かが根底にはあるような。
「…私は姉に、その言葉を、有言実行させる義務があるわ。
そしてきっと、姉はこれからも…いえ、これからの世界に、必要よ。」
「何それ?自己犠牲?」
「そうかもね。
ただ、ずっとなかった理由が出来て、嬉しいのよ。
…ねぇ、早く。
彼女に、会わせてあげて欲しいわ。
私、この後予定があるのよ。」
最終的には、【怪人】の方が折れた。
何か、心に引っかかるものがありそうだが、あえてのオーバーリアクションで、放棄した。
何を?追及?それとも、抑止?
少なくとも。
目の前の女が止められない事は、前々から知っていたのだろう。
ソルタントの記憶を、喰らった時から。
「…もう良いよ。
面倒臭くなった。
どうせ困るのは、上司だろうし。
と言うか、アイツ。
多分分かってたな、憎らしい。」
「…お礼を、言わせて?
…あの時、妹が貴方に切りかかったわよね?」
「『お礼』?それは、『謝罪』じゃなくて?」
「そうね、両方かも。
…ごめんなさい。そして、ありがとう。
貴方の言葉で、彼女、何か吹っ切れたみたい。
何か、社会的なしがらみから、解放されたみたいでね。」
「…精神的に負荷を掛けさせてる本人が、何を言う?」
「そうね。そうかも。
…もう一押し、してもらえないかしら?」
「…偽物だよ?
本人じゃない。
全くの、別人。」
「良いわ。気休めに、なれば。」
「…あ、そう。」
「…あの子ね。貴方の言葉で、信じたのよ?
私の時から急に、言葉を変えるもんだから。
少なくとも、特別な存在だって、思ってくれた。
…ねぇ、貴方、何処であの言葉を習ったの?
私でさえ、分からないのよ?」
「…さあ?お前の妹が、そんな【怪物】を、望んだんじゃない?」




