依頼人
死体回収業務は真似っこさん
⻆谷 春那
CASEK.1
真似で救われる人生
依頼人
繧ォ繧、繝ゥ・ワーガーネス?
修正
ドレミア=ハイト・ワーガーネス
1 庶子年金の使い道
私は、ワーガーネス家に生まれた。
しかし、正妻の子供ではなく、第二夫人と言うか、愛人と言うかの間に生まれた子である。
しかし、此の国は先の封建制度―ひいては、「庶子年金」と言う制度がまだ、生き残っていた。「合理的」を重視する軍部の台頭に、大変そぐわない制度ではあろう。
しかし、これがなければ死ぬ者が、多数居るのだ。
貴族共の無責任さの不始末は、貴族制度をまだ生かしている政府、ひいては軍部の責任であるからして、軍部が金銭や生活を保障するのは、当然と言えば当然の事。
まあ、だから軍部は、貴族を廃止しようと動いているのだろうが。
父に無下に扱われていたわけでもなく、母親の身分も大変に卑しいと言う訳でも無かった私は、本当に恵まれているのだろう。
そのおかげで、庶子年金と併せて、大変―生活費を差し引いても尚―金銭的な余裕があった。
母も、親として最悪だった訳ではないのだが、どうも、合わなかった。
育ててくれた事には感謝しているが、このまま暮らしていたくはなかった。
向こうも、それは理解していたらしく、旅立ちを本当にすんなりと受け入れてくれた。
父はその事を知り、今は使われなくなった、ワーガーネス家の古い邸宅を与えてくれた。
金銭にも、精神にも、時間にも余裕があった私は、趣味を始めることにした。
かと言って、社交が苦手な私にとって、一人で完結できない趣味は苦行でしかない。
「一人で完結できること」。
これが、絶対条件ではあった。
あと、金銭的な自立もしたかった。
ワーガーネス家は、反戦派である。軍部の圧力が、強かった。
一応私もワーガーネス家の血を引いてはいるため、大々的な収入は避けたい。
かと言って、細々としすぎるのも、意味が無い。
当時は絵が流行っていたが、私には絵心が無かった。
「民衆の心に刺されば、一世一代の大儲け。」とまで言われ、誰もがこぞって画家を志望していたが、そこまで貪欲でもなかった。
そんな時、一冊の本に出会った。
「やんごとなき令嬢が、実父の死後、卑しい継母や腹違いの兄妹達に虐められる」。
ただ、それだけだ。
別に、童話のように、勧善懲悪の物語でもない。
ただ、それだけだ。王子様も居なければ、魔法使いも居ない。本当に、辛い日々を送り続けるだけ。
「そんな物語の誰が良いのか。」
そう思う人々も、沢山いるだろう。
現に、かなりのブーイングは受けていた。
しかし、私はその物語に心惹かれた。
そんな辛い日々でも尚、少女の心は、死んではいなかったのだ。
ただ待つだけではなく、自分から取りに行く。夢を見ながら、現実に向き合う事を忘れない。
私は、その本に感銘を受けた。
有り余る年金で、小説を書くことにした。
軍部の目が怖いため、覆面で。筆名で。
2 父の死
父と、第一夫人が死んだ。
母は少し前に病死していたので、これで私は、完全に肉親を失ったと言える。
金銭的な援助はもう、「庶子年金」のみになったが、既に文筆家業は、軌道に乗った後であった。
なので寧ろ、「ワーガーネス家」のしがらみも消え、のびのびと老いるまで暮らそうと思っていた。
そんな矢先であった。
第一夫人との間の娘―つまり、私の腹違いの妹と、同居する事になった。
父と第一夫人を殺した戦禍は、どうやらあの幼い少女から、住む場所をも奪ったらしい。
最初の内はどう接すれば良いか分からなかったが、次第に打ち解けることが出来た。
母と終ぞ打ち解ける事が出来なかった私にとって、「家族との交流」と言うものを、初めて味わったような気がした。
だが、一つ問題がある。
言語が、通じないのだ。
私の言葉が、此の国の言葉である。
これは、恐らく確実だろう。
出版する者にも通じたし、他の貴族連中にも通じる。
だが、向こうの言葉には、どうも聞き馴染みがない。
第一夫人も、此の国の人であったはずである。
何かがあったのだろうが、子供は知らない方が良い事だろう。
闇に葬られた事を暴くことは、父や彼女の母の墓を暴いて晒す事と同義。
不必要な罰当たりは、するべきでない。
とは言え、ずっと使用人越しに話す訳にはいかない。
此の国の言葉を、覚えてもらう必要がある。
妹は本当に聡く、すぐに直接話せるようになった。
3 凝り固められた価値観
成長した妹は、反戦派の活動を始めるようになった。
元々、此の家は此処数十年、そう言う傾向が見られていたので、何も不思議なことでは無かった。
しかし、私は心配であった。
妹は、どうも、想像力が足りないのだ。
大変賢いのに、何と言うか、いつも、見通しが甘い。
悪い方向に考える事が、難しい。
それに、広い視野を持てないのだ。
私はその事で、とても心が痛めつけられた。
私は、庶子として、すぐに「令嬢」としての役割から解放―いや、生まれた時から、そのような義務は生憎、持ち合わせてはいなかった。
だが、妹―レイラは、そうではなかっただろう。
彼女は嫡子として、生まれ、生きてきたのだ。
貴族教育は、「テンプレ」をなぞり、いかに「典型的な淑女」を育てる事に、重きを置いているのだろうか?
「こうこうこういう訳が、あるのかもしれないよ?」
「こうこうこういう見方も、あるよ?」
と言うとすぐに、
「確かに。」
と言って、受け入れ、礼を述べる。
そんな、本当に、聡い子なのだ。
レイラは庶民を、実は嫌っていた。
「プロパガンダに簡単に流される。」
「陳腐で偽の、愛国心しか持ち合わせていない。」
と言う風に。
しかし、軍部と対峙するためには、大義名分が必要なのだ。
そして、民衆と反戦派貴族の対立は、産まない方が良い。
平和主義を合理的、かつ現代的に唱えるため。
軍部の人気を、これ以上、上昇させないために。
張り合うようにして、レイラも、「封建制度への批判」を述べた。
一度付けた仮面は肉に張り付き、二度と剥がす事は出来なくなる。
それでも、唱えた。戦うために。
私はそんなレイラが、本当に心配だった。
レイラは、反戦派のプロパガンダを見て、育ったのだろう。
「軍部の嫌がらせ」とか、そう言う事が、予想出来ないのだ。
4 暗殺未遂
やはり、起きてしまった。
レイラは、本当に、「反戦派」として、大きくなりすぎてしまった。
此処の所、軍部の動きが活発化し始めている。
「反戦派」貴族―いや、「封建制度」自体を、近々廃止するのだろう。過激な方法でも。
レイラは、気の強いところがあった。
レイラの婚約者が「参謀」なら、私は「外交官」。
勿論、マッチにも同行した。
反戦派のイベントの為に、レイラはマッチに向かったのだが、よくよく考えれば、罠だったのかもしれない。
私が気づけていれば。こうはならなかったのだろうか。
ならば、これからやる事はただ一つ。
独りよがりだが、「贖罪」だ。
恐らく、暗殺失敗した軍部に、もはや失うものはないだろう。
増々、大胆な事をしてくるだろう。
例えば、レイラに濡れ衣を着せて、死刑にしたり。
ワーガーネス家の血は大変に濃いらしい。
軍の家なので、「敵」になるかもしれない家とは、一切姻戚にならなかったらしい。
逆の方が一般的だろうが、少なくとも、そんな恐ろしい歴史のおかげで、私もレイラも、両方父に似た。
年は違うが、一回りまではいかない。「双子」と間違われるほどだ。
前々から、気の強いレイラに代わり。私が矢面に立つことが、何度もあった。同じことだ。
可哀想なレイラは、婚約者の死に際を目の当たりにしてしまった。
本当に、運がない。どうしてそんなに。
だが、今は嘆いてもしょうがない事だ。
レイラは、気を病んでしまった。
気を病んだのを、「レイラ・ワーガーネス」ではなく、「ドレミア=ハイト・ワーガーネス」にする。
私が、「レイラ・ワーガーネス」になるのだ。
精神を損なってしまったレイラにとっては、悪化させるような、良くない事だったらしい。
「自分が、自分じゃなくなる。」
と言う感覚を、実際に起こしてしまっているのだ。
本当に、レイラには申し訳ない事をしている。
だが、これ以上、レイラを矢面に立たせる訳にはいかない。
私が「嫡子」として死ねば、残るのは「ドレミア=ハイト」のみ。
もう、レイラは、狙われる事がなくなるだろう。
5 「姉」としての最後の仕事
レイラの婚約者は、どうしても見つからなかった。
亡き人無き葬儀、亡き人無き墓。
せめて、遺品だけでも、妹に渡したかった。
やはり、想像は現実になるものだ。
「ワーガーネス女爵」はおそらく、近々。
死ぬでしょう。
その前に。
私が、「姉」としての最後の―。




