ゼレブストグ王国 マッチ支部より、諦めと愛を込めて
死体回収業務は真似っこさん
⻆谷 春那
CASEK.1
真似で救われる人生
ゼレブストグ王国 マッチ支部より、諦めと愛を込めて
「100の水を、50の瓶に入れると?」
「大は小を兼ねるが、小は大を滅ぼしかねない。」
「よし、完璧だ。」
「・・・わざわざ言う必要ある?」
「あのなー…
誰もかれも、お前の事、知ってるとは限らないんだぞ?」
「大丈夫よ。
ちゃんと良い皮持ってるから。」
「じゃぁ、俺の前でも被っとけよ。
『練習』しろ、『練習』。」
「嫌。めんどくさい。」
「お前な~…
スバヴィートが可哀想だとは思わないのか?」
「大丈夫よ。
都市部の方には寄らないから。
このまま向かうわ。
用意して。」
「はぁ?!お前。
どれくらいあるか、分かっての、か?!」
「スバヴィートを慮るなら、行動で示してあげたら?」
「どんくらい店閉める羽目になるんだろ…」
「どうせ客なんて来ないでしょ。
此の国はもう、終わりよ。」
若干男の表情は固まったが、【怪人】はそのような事は気にしない。
どうせこの男も、【人間】ではないのだ。
勿論、どちらも【人間】にしか見えない。
しかし、どうしてそう分かるのか?
勿論、当人たちにしか分からない「感覚」のようなものもあるのだろう。
しかし、それだけではないのだ。
元々の「知識」の問題だ。
「知識」「教養」「勉学」。
つまり、「知っているか、知らないか」。
教養は時に人を助け、記憶は時に人を蝕む。
無知は時に人を誑かし、無教養は時に人を鼓舞する。
「ゼレブストグ王国」―【外小国】ではなく、【内強国】であり、
オフェル連合王国と言う周辺国の侵略を受けたと、自作自演をしている国―が、
「マッチ」と言う都市を持っているという事も。
「ヴェルフ」と言う名の異形が居た都市が、「スヴァーグ」
―オフェル連合王国の都市―であったという事も。
今【怪人】が居る都市が、「マッチ」であるという事も。
ワーガーネス女爵が襲撃された都市が、「マッチ」であったという事も。
全て、教養であり。
この【怪物】は、必然的に知っている。
なぜなら、その身を以て、経験し、習得した内容であるからだ。
そして今、この【怪人】は、【魔物】に。
その身で得た「情報」を使って得た「教養」を披露しているのである。
そして、【怪人】と【魔物】でなくても。
知っている可能性は、十二分にある「知識」だ。
十分に公開されており、民に秘匿されていない情報であるため。
勿論、「滅ぶ」という事を、今の民が知る由は無い。
しかし、将来の民にとっては、傍から見ても。
十二分に成立し、合理的な筋であった。
いつからか、「ゼレブストグ王国」は、致命的な勘違いをしていたのだ。
しかし、「マッチ」から「スヴァーグ」に、【怪人】が向かった理由に関しては。
あまりにも私的な内容であり、公表されるはずも、知る由もない。
【魔物】は、【怪人】を問いたださない。
ただ、あしらうだけだ。
しかし、十二分に。
この【生物】の性質を、理解した上だ。
どうせ、向き合っても、どうしようもできないのだ。
もっと上の、広い「何か」がズレたから。
「空」の乱れを、地を這う生物が、どうして正せようか。
無論、この【怪人】も、反応は既に知っていたことだ。
真面目な者に話しても、不安を煽るだけ。
不真面目で、なおかつ容量が良く、「心」を真摯に向けられていない
―そう、「自分」のような者でなければ。
話せない。
スバヴィートは、真面目で、良い女だ。
上の命には従い、なおかつ下の申す事も、出来るだけ真摯に聞き届けようとするような。
上と下の板挟みになるような、哀れで優しい女を悩ませる事を。
これ以上増やしてやる訳にはいかない。
別にこの【怪人】は、性格が悪い訳ではない。
生半可に、ひねくれているのだ。
「命令」はされたくないが、「強要」させる程、堕ちてはいない。
そう言う意味では、この【怪物】も、板挟みなのかもしれない。
また、「反抗期」「嫌々期」とも、言う。
サフ・オルマヤンは、別に熱意を持って職務を果たしている訳ではない。
ただ、社会と権力の流れに従った結果。
今の状況に、流れ着き、落ち着いたのだ。
「スヴァーグ」の【異形】は、確固たる意志と理念を持っていた。
しかし、「マッチ」の【魔物】は、そうでもない。
別に、どっちでも良いのだ。
「人間」も、「合理」も。
ただただ、程よく「世話好き」で、「人外が好き」で、「合理主義」。
別に、「人間」は好きでも嫌いでもない。
【怪物】は、スバヴィートを慮って、この世話好きの男に、話した。




